
【メタセンシング】”人のそばで、社会を良くするものづくり”を —「感覚」と「考察」を前進させる、センシングのプラットフォームを目指す|Players by Genesia.
組織文化や組織カルチャーと呼ばれるような「自分たちらしさ」を掘り起こし、仲間やその候補をはじめとしたステークホルダーに伝え、ファンをつくっていくというアクションは、スタートアップを率いる起業家のミッションの一つです。
起業家自身のパーソナリティやこだわり・思想、事業領域、競争環境、優先順位、働き方など、カルチャーの種となるであろう要素(一例)の中でも、「起業家自身」にフォーカスするために、このコンテンツシリーズ『Players by Genesia.』もうまれたのでした。
自分たちが育んでいるカルチャーがまだ伝えるかたちを持たないもので、これから可視化や言語化を進めていきたいというスタートアップと相対するとき、そこにうまてくるであろう新しい”一つの集団の人の営み”の姿を想像して、私はいつもわくわくします。
メタセンシングは、アタッチ式の小型ラマン分光器『Raman EYE』と取得したデータを解析するAIエージェントを提供するスタートアップです。
代表の奥野さんと、担当キャピタリストの曽我部との共通点は、よく「(奥野さん / 曽我部さんって)怒ることあるんですか・・?」と訊かれることだそう。ただ、穏やかそうに見える二人の中には静かな、でも熱い、青い炎が燃えているように思います。
奥野さんのパーソナリティ、”人のそばで”にこだわったものづくりへの強い想い、これからの同社の象徴となり得る「カルチャーの種」について聴きました。
- デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
- 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田
- 以下、敬称略
“人の役に立つものづくり”がしたいという想いから、応用物理を専攻
奥野さん、今日はよろしくお願いします。この『Players by Genesia.』は、奥野さんのこれまでの意思決定の道筋を辿り、その延長線にあるであろうこれから先の意思決定や目指す未来の姿についてお伺いするシリーズです。蛇足かもしれませんが、幼少期の頃のお話からお聞きしたいです。僕には奥野さんが子どもだった姿って全く想像がつかないんですが、当時好きだったものなどについて教えてください。
活発なタイプだったので、勉強というよりはどちらかというと体を動かす方が好きでした。一つのことに熱中するタイプで、小学校3-4年くらいから高校卒業まではバスケ一筋でした。
大学では理系を専攻されていると思いますが、そちらの方向に進むきっかけは何だったんですか?
数学とか物理とか、どちらかといえば理系科目の方が得意だったからです。特に物理が好きで、進学のときにはかなり迷ったんですが、自分の興味だけではなくて周りの人の役に立つイメージがつきやすいということで、応用物理学を選びました。
理学部の物理に行くのか、工学部の応用物理に行くのか、という選択肢があったということですね。
自分の興味を突き詰めるというよりは、周りの人にどうやって貢献していくのかということが、学生時代も社会人になってからも、通じて私の意思決定の軸の一つになっていると思います。

博士課程を経て、一貫した”ものづくり”への想いを実現するために就職の道へ
博士課程まで進む人って本当に一握りだと思うんですが、奥野さんが博士まで進む決断をしたのはなぜだったんですか?
大学という場だからこそ使える設備や、学生という立場だからこそ参加できる交流の場などを利用して、一度は学問に集中しきろうと思ったからです。ものづくりの原点は必ずそういうところにあるので、その0から10まで― 自分で発案したものに自分の価値観を反映させて研究を進めて一本の論文を書くという活動は、しっかりやっておきたいと意識していました。”自分で”やりきるということにはこだわっていました。
たしかに、学部や修士では教授の意見が反映される部分が大きいですよね。0から10までを自分でやりきろうとすると、博士課程までいく必要はあるかもしれません。ちなみに、そうなるとそのままアカデミアに残るという選択肢もあったと思うのですが、就職を選んだのはどういった経緯だったんですか?
最初の話に戻りますが、やっぱり自分の研究が周りの人たちにどんなかたちで役立つかということをずっと意識していたので、最終的には何かしら手に取ってもらえるようなものを提供したいと思ったからです。大袈裟に言えば、”人のそばで、社会を良くするものづくり”がしたいと。

学問や自身の興味の追求だけではなく、”人と社会のために”を体現したい
ファーストキャリアは、堀場製作所でスタートされたわけですが、どんな仕事をしていたんですか?
研究機関などに納める特殊な装置を扱っていました。原子間力顕微鏡と分光を組み合わせた特殊な顕微鏡や分光器だったり、抗体医薬品の凝縮度を計測する装置だったり、開発から研究までの間の部分を幅広く担当していました。
研究もしつつ、製品開発にもしっかりと関わっていたんですね。
他には、アプリケーション開発などにも携わっていました。ただ、製品の納品先は大学の研究室や一部の企業の研究所などで、ビジネスの範囲としては限られてはいました。
起業を意識し始めたのはどのくらいの時期ですか?
それは大学のときからです。自分が考える「こんなものがあったら周りの人たちの生活が豊かになるだろうな」というものを作るとしたら、いずれはそういう道になるのかなと。だから、就職活動でも最初はベンチャー企業ばかり見ていました。でも、当時はものづくり系のベンチャーってまだあんまりなかったので、最終的には大手に行くことを選びました。
ちょっと話題が前後してしまうかもしれないんですけど、奥野さんが「周りの人や社会に対して、何か便利になるものを届けたい」と思い始めたきっかけや経験は何かあったんですか?
何でしょう・・例えば、友達だけじゃなくそのご両親だったりとか、けっこう周りの人たちやコミュニティに支えられて育ってきたことが関係しているのかなという気もしますが・・
あとは私の特性として、自分の好きなことに時間を忘れるくらい集中する時間も好きなんですけど、それだけでは満足できない部分もあるんです。大学に入ってすぐくらいのときに、テレビで湯川秀樹のドキュメンタリーを見たんです。その番組は、湯川さんの物理学的な功績ではなくて、どちらかというとその功績や後世に与えた影響みたいなところに焦点を当てたものでした。例えば、核抑止論など、社会が抱えている課題やその構造的な問題に積極的に取り組んでいたという話でした。物理学者というと自分の好きなことを突き詰めているイメージがあったんですけど、そうではなくて、学問はしつつも社会への貢献についても考えて活動されていた姿に、すごく考えさせられるものがあって。自分も、ものづくりを通じてそうした生き方を体現できればと思いました。

「より多くの人へ」「難しいことを簡単に」。Huaweiを経て、起業の道へ
奥野さんのキャリアを見ると、起業からのバックキャストを感じるところもあります。堀場製作所のフランス研究所へ赴任後、Huaweiに転職されたのはなぜだったんでしょうか?
同じ話になりますが、できればたくさんの人や社会に価値あるものを提供したいという気持ちがあったので、スケールするようなプロダクトづくりにも興味があったんです。その点、根本的な研究機能もありつつ、それをコンシューマー向けに大規模に還元・提供するプロダクト開発をしている企業としてHuaweiという選択肢があり、強く興味を持ちました。
現在メタセンシングで提供しているセンシングハードウェア小型化の発想や技術にも、Huaweiでの経験が大きく影響しているんでしょうね。
Huaweiでは、スケールするために必要な要素についてかなり厳しく言及されていました。開発提案会議では必ず「それって何人の人が使うんですか?」と訊かれるんです。「数十万人です」と回答すると、それだけでボツ。数千万人や数億人が使うような提案じゃないと、基本的にはやらせてくれません。例えば小型で使いやすいとか、”人の生活に根づく”プロダクト開発を常に意識させられていたので、その経験が今も染み込んでいるんだと思います。メタセンシングが開発しているのは理化学機器ですが、使うのはやっぱり人です。理化学機器の、難しくて使いづらいというイメージを取っ払えるような開発を心掛けています。
ハードウェアの根本的な原理などは大学と大学院、そして堀場製作所で、プロダクトとしての完成度・使いやすさやAIソフトウェアとの組み合わせなどはHuaweiで、とそれぞれを深められて、今すべてがちょうど融合しているイメージがありますね。
たまたまかもしれないですけど、たくさんの人に届けられるプロダクトを作りたいという気持ちは一貫していたので、キャリア選択にも影響はあったのかもしれませんね。
メタセンシングの初期はヘルスケア事業を手掛けられていたと思うのですが、今の理化学機器事業の方にピボットするきっかけはあったんですか?
当初は、Huawei時代にヘルスケア系の計測機器に関わっていた自分の強みをそのまま活かせるということで、ヘルスケア領域で起業したんです。でも、自分の中に実はずっとあった「難しいことをより簡単にしたかたちで届ける」というテーマへの興味に改めて気づいて、理化学機器の方に舵を切ることにしました。理化学機器ってすごく難しいイメージがありますよね。大きくて複雑で、大抵「どう使ったらいいの?」となる。それってものづくりにおいて解決しなければいけない一つの課題だとずっと考えていたんです。そこが解決できたら、材料開発や素材開発を加速させることができて、結果的に社会に対しても大きなインパクトを与えられる。そこに挑戦したいなという強い気持ちが芽生えてきたんです。

「感覚」と「考察」の前進のために、センシングのプラットフォームから
今僕たちメタセンシングが提供しているプロダクト=小型で安価なラマン分光器(理化学機器)によって、今までは費用などの理由から導入が難しかった企業や工場のラインに導入が実現したという事例がすでにどんどん出始めています。そしてこれからは、生成AIによって、分光器で取得したデータを利活用したりナレッジの蓄積をしたりと、アイデアをかたちにする部分もスムーズにするソリューションの提供を目指していますが、ハードウェアを作って売るだけではなくて、ソフトウェアやAIも積極的に活用していこうと考えた経緯はありますか?
ものづくりを大きく分けると、「感覚・センシング」と、そこで得られた情報の「処理・考察」という二つのパートになると思うんです。その上で、まずはセンシングの部分を、より人間の五感に近い感覚を得られるようなものに拡張することが大切だと思っています。さらに、その結果として得られたデータを価値あるかたちに変換して処理や考察に繋げることも同様に大切だと思います。これらを一貫してサポートすることで初めて、一歩進んだ本当のものづくりを実現できるんじゃないかなと。機器から取得したデータって、一般的には無機質でとっつきにくいものが多いですよね。それがアイデアや解釈により直接的に結びつくものになれば、計測に対する興味も感じてもらいやすくなるんじゃないかと思います。本当に効率の良いものづくりのために、機械学習や生成AIに限らず、古典的な統計解析などもより使いやすく提供していきたいと常に意識しています。
2024年のノーベル物理学賞と化学賞をAI分野の研究者が受賞しました。AIの進化によって、それぞれの学問の形態もどんどん融合分野になってきているというか、境界が曖昧になってきている感覚があります。そして、そこが最先端の分野として注目されやすくなっているのだとしたら、メタセンシングにとっても今は好機だと感じます。まず、メタセンシングのハードウェアによって取得可能になった情報があって、そこに、データの利活用をより簡単にするコンピュータサイエンスやAIのトレンドと躍進が重なっている。逆にAIがない時代だったら、データはたくさん取れるけれど、処理が難しすぎて活用できない・・という状態だったかもしれませんよね。今だからこそより大きな挑戦ができて、今だからこそ提供価値が完成しつつある感じかもしれませんね。
これまで利活用されてこなかったデータにも価値が出てきているのは、まさにそれを処理できるだけの技術が出てきたということ。その技術の進化があるからこそ、改めてセンシングの部分でも、アクセスしづらいデータを大量に取得することに価値が出てきているのかなと思います。その両方で価値を提供していくために、まずはセンシングのプラットフォームを目指したいと考えています。

目指すのは、“誰もがいつでもすぐにアイデアをかたちにできる”世界観
ラマン分光器というプロダクトと、それで取得したデータの利活用ソリューションによって、これまで人間が試行錯誤していたプロセスをより簡単にし、科学を加速させるツールをどんどん拡張させていくと思うんですが、奥野さんは、すべてが実現された後の世界のイメージみたいなものって描いていたりしますか?
「ほしいと思ったものがすぐ手に入る」のが、私が考える理想的な社会像なんです。それは物の輸送とかそういう話ではなくて、物を作るレベルのところから、自分のアイデアをかたちにしたいと思ったときにそれがすぐに実現できる世界観。そうして、みんなが自分のやりたいことに取り組める世界になればいいなと思っています。
研究者や開発者の役割も、より新しい価値やこれまでこの世界になかった価値を創造するようなところにシフトしていくイメージですね。
メタセンシングがその一助になれれば嬉しいです。私たちの取引先で、例えば製薬メーカーの方とお話しする機会があるんですが、製薬メーカーさんとなるとやっぱり薬学部出身の方が多いんです。だからもちろん薬のことはすごく詳しくて、その知識を活かしていろいろなことに挑戦したいと考えていらっしゃるんだけど、それを実現するための製造機や計測器については専門外で、会社に入ってからのキャッチアップに苦労されていたりする。そういうことはいろいろな分野のあらゆるところで起きている気がするので、私たちがサポートできればと考えています。
そうして僕たちにもナレッジが溜まってくると、新しい課題に即したプロダクトもより短期で開発できるようになって、奥野さんがおっしゃる「多くの人と社会に、ものづくりで大きな価値を提供する」という目標が実現されていきますね。

学問分野を跨いだ、グローバルかつ異分野のメンバーが集うチーム
ここまで伺ってきたような、奥野さんの描く世界観やビジョンを実現するためのチームについてもお話をお聞きしたいです。メタセンシングではどんな人たちとどんな雰囲気の会社を作っていきたいと考えていますか?
社会が抱えている課題や人の困りごとに対してサポートを提供したいという価値観を持つ方と働きたいと思っています。現在は、インターンシップや顧問の方も含めると20名くらいの組織です。ハードウェアとソフトウェアのどちらも扱っているので、メンバーのバックグラウンドもバラエティに富んでいます。光計測、化学、設計、コンピュータサイエンス、データベース構築などなど。いろいろな分野を横断したようなチームでものづくりしていますが、やっぱり価値観は揃っているかなと思います。
刺激的で楽しそうなチームですが、苦労もあったりしますか?
ハードとソフトをうまく関連づけてあげないとお客さまの要求を満たせないので、チームでもその橋渡しをするのが意外と大変です。例えば、ずっとコンピュータサイエンスの世界にいた人たちはハードのことをこれから学ぶというフェーズですから、そこへの要求や課題感といった認識を共有することにはかなり力を入れているところです。
グローバルチームでもありますよね?
フィリピン、インド、カナダなどから参画してくれているメンバーもいます。時差の関係で夜中1時からミーティングがあったりします。
それは大変ですね・・
私自身は、堀場製作所やHuaweiでも国を跨いでのミーティングなどは多かったので、そこまで違和感ないんですが。
採用はどうされてるんですか?
リファラルもありますが、他にはLinkedInを活用しています。特に海外のエンジニアの方などは自国でキャリアを完結させるイメージではないので、常にグローバルで機会を探しています。海外の第一線で活躍されている方ともLinkedInでは意外と繋がりやすいです。
メタセンシングのどういったところに興味を持って応募してくださる方が多いんですか?
異分野に興味がある方でしょうか。例えば、コンピュータサイエンス×ものづくりの中でも、材料科学やマテリアルインフォマティクス領域でのアプリケーション開発やプロダクト開発のポジションの募集はそんなに多くないので、希少なポジションとして興味を持っていただけていると思います。だから応募者のバックグラウンドとしても、例えば物理からコンピュータサイエンスに移ったという方など、学問分野を跨いだようなところに興味があったりご自身にとって新鮮な領域で挑戦したいと考えていたりする方が多い気がします。

結局は“自分がやりたいことをやっている”からこそ、シンプルにまっすぐに
メンバーはどういった基準で選考されているんですか?
最低限求めているのは、新しいことにチャレンジしたいという意気込みがあること、あとは、これまで技術的に取り組んできたことを語れることでしょうか。
ビジョン、ミッション、ポリシーなどもこれから言語化していきたいですね。
どれだけポジティブに表現できるのか、今はまだ想像がついていません。一緒に働いてるメンバーがたまに僕の印象を伝えてくれるんですけど、私自身のイメージとはちょっと違ったりするんです。例えば「奥野は加速主義だ」ってよく言われるんですが、私はしっくり来ません。メンバーに言わせると、実現したいこともその開発にかける時間やサービスを提供するまでのタイムラインも、あらゆることが普通の人の10分の1という状態でおかしい、ということらしいんですが。でも、そういうカルチャーのチームにしたいわけでもないですし、どんなポリシーに着地するのか。
そういうフィードバックを受けて、奥野さんはどんな気持ちになるんですか?
あんまり人から率直にフィードバックされることってないじゃないですか。だから、そっかぁ~という感じでしょうか。
奥野さんの内側と外側で見え方にギャップがある部分は、しっかりと明文化できるといいですね。ちなみに奥野さんってかなりハードワークだと思うんですが、何か心身の健康のために意識していることってあったりするんですか?
・・・・・・ 仕事している感が出ると疲れるので、仕事していない感覚で仕事しているかもしれません。自分がやりたいからやってる、みたいな。
なるほど。それでも嫌な仕事や苦手な仕事ってあったりしますか?
・・・・・・ 気が進まない仕事、みたいなものはありますかね。営業も開発も経理や法務も、経営者としていろいろなことをしている中で、メンバーとちょっと意見が違うなとか実際のところが伝わっていないなと感じることがあって、それを、しかも簡単には受け入れてもらえなさそうなことを伝えるのは難しいなと思いますし、ストレスもかかります。だから言葉選びにはかなり慎重になります。それ以外はそんなにです。
奥野さんは営業もされるじゃないですか。そこでもストレスがかかったりしませんか?
営業は好きなので、そんなにです。いろいろなタイプの方がいるので、どういう方なのかなと最初に見極めることが重要だと思います。営業では、お客さまから教えていただくことの方が圧倒的に多いです。
今の「嫌な仕事」や「ストレスのかかる営業」という質問への回答を聞いていても、奥野さんからは本当に、ネガティブな言葉や人を責めたりするような発言が一切出てきませんよね。
特に意識していませんでした。
ある意味、奥野さんの場合はそこに、研究者らしいとも言える”好きを突き詰める一途さ”が表れているのかもしれませんね。

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