INSIGHTS
INSIGHTS

【創業の軌跡】Vol.13 スマートドライブ/北川 列

PODCAST

第一線で活躍している起業家の創業からの歩みについてお話を伺う「創業の軌跡」。第13回目となる今回は、株式会社スマートドライブの創業者・北川さんをゲストにお迎えしました。本稿は要約版になりますので、フルver.についてはぜひPodcastで聞いてみてください。

  • インタビュアー:ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 一戸 将未
  • 以下、敬称略

自己紹介

一戸:

創業の軌跡、第13回目となる今回はスマートドライブの北川さんにお越しいただきました。
 それでは北川さん、まず自己紹介をお願いできますでしょうか?

北川:

私は慶應大学を卒業した後に大学院で移動体の研究をしてまして、そのデータ分析技術を世の中の課題解決に活かしたいという思いで、スマートドライブを創業しました。留学に行ったりベンチャー企業でインターンをしたりした上で、在学中に起業しました。

一戸:

事業内容についても簡単に教えていただけますか?

北川:

我々は、移動にまつわるデータを収集・解析して付加価値をつけて提供しています。
事業内容としては大きく分けて三つあります。一つ目が「国内FO(Fleet Operator)事業」というもので、配送や営業に車を使っている企業様向けのSaaSを提供します。こちらは今、1,000社を超えるお客さまに使っていただいています。そして、そこに溜まってくる車種や事故リスクといったデータを自動車メーカーや保険会社といった企業に提供して、データを活用した新しいビジネスを一緒に作っていくというのが、二つ目の「国内アセットオーナー(Asset Owner: AO)事業」というものです。最後に、それらをローカライズして海外に持っていったり海外ならではのビジネスとして展開したりする「海外モビリティDX事業」というものがあります。

興味を持ったことは深掘りするタイプ

一戸:

北川さんについて事前にいろいろとリサーチをさせていただいたんですが、創業期についての情報はあまり表に出ていなかったので、今日はとてもわくわくしています。
 まず、起業に対する思いはどこから芽生えたのでしょうか?

北川:

親族にサラリーマンがあまりいなくて、父も自分で会社をやっていたこともあって、就職するイメージが最初からなかったですね。それで、研究者になるとか、やりたいことを見つけたら自分でやるとか、そういうイメージをしていました。また、学生時代に留学した時に、優秀な人たちって自分で事業を興したり政治家や研究者になりたいと言っていたり、やりたいことを明確に持っている人が多かったので、自分も早くそういう対象を見つけて挑戦したいなと思っていました。

一戸:

学生時代はベンチャー企業でインターンもされていたということでしたが、インターンを最初に知ったきっかけは何だったんですか?

北川:

ちゃんとしていない理由とちゃんとした理由の二つがあります。前者は、親から一定の支援もあった上でですが、学費とかを自分で稼ぐ必要があったのと、当時FXや株で300万円くらいすってしまったことがあったので、シンプルにお金を稼ぎたいという理由でした。後者は、やっぱり小さい頃から物事の仕組みみたいなことに興味があったので、ビジネスの仕組みを自分でゼロから体験してみたいという理由でした。それで、新規事業立案インターンみたいな募集を出されていた企業の面接に行ったら、前者の理由をおもしろがってくださって「明日から来ていいよ」と言われて、インターンを始めました。

一戸:

北川さんについての何かの記事で、「小学校のときに新聞を読んで金利や株価が変動するのが不思議でしょうがなかった」「そこから世の中のお金の動きやその仕組みへの関心が強まって、家庭で電気代を節約する方法を親に提案したり、ローンの金利を下げるための借り換えを提案したりした」というエピソードを拝見して、ぶっ飛んでるなと思いました。

北川:

成績は悪かったですし優等生でもなかったんですが、興味のあることには集中するタイプだったかなと思います。
 電気代の節約の話で言えば、小学生の頃の私のお小遣いって数百円だったんですが、毎月家に届く電気代や水道代の請求書を見ると一万円とかを払ってるわけで、ここを見直したら数百円以上のお小遣いがもらえるんじゃないかという発想で考え始めたことでしたし、ローンの話も、家に届く明細書の金利と駅前の銀行のポスターに書いてあった金利を比べて、何で違うんだろうと不思議に思って調べ始めたのがきっかけでした。そんなふうに、興味を持ったことに深く入っていくようなところはありました。

起業の軸は「自分の子孫に自慢できる事業」か

一戸:

インターンを経験された後に留学に行かれるわけですが、留学のきっかけは何だったんですか?

北川:

インターンでは、ゼロから事業を立ち上げるには何が必要かということをたくさん学ばせていただいて、本当にすごくいい経験をさせていただいたんですが、やっぱり、自分が本当にやりたいことをしっかりと考えるためにもっと多様な人と触れ合ってみたいという思いで留学を決めました。

一戸:

留学中はどんなことをされてたんですか?

北川:

エンジニアリングについてもう少し勉強したいという思いがあったのと、私は自分自身を怠惰な性格だと認識しているので、周りに鼓舞される環境に身を置きたいという思いの二つがありました。それで留学先を探したんですが、ちょうどいいプログラムがなかったので、とりあえず行ってみて、交渉して、潜りで勉強させていただいていたという感じです。

一戸:

その中で起業に繋がるようなご経験はありましたか?

北川:

やっぱり価値観がすごく変わりました。こういうことがやりたいという思いのある人たちが、ビジネスに限らず、自分たちの思いを社会実装していく姿に強く感銘を受けました。当時出会って今でも仲のいい友人もたくさんいるので、いい経験になったと思っています。

一戸:

そこから日本に戻られて、東大の大学院に行かれた。そして、在学中に起業された。そのきっかけはどういったところにあったんですか?

北川:

留学先の友人たちがGoogleやテスラなどに多く就職していたので、実際にその友人たちを訪ねてテスラの電気自動車見せてもらったり、大学のキャンパス内をすでに走っていたGoogleの自動運転車を実際に手放しで運転したりして、そうした技術やプロダクトによって本当に世の中が変わっていくんだなという実感を持ったことは大きかったです。その基礎になるのが私が当時研究していたデータ分析領域なのですが、日本ではまだ盛り上がりが弱かったため、私自身が開発して、日本からアジアなどの海外に持っていくことができたら、移動にまつわる社会課題を解決できるんじゃないかなと考えました。

一戸:

起業を視野に入れつつやりたいことを探している中で、留学時代のご経験がベースになって、モビリティという領域に注目されたんですね。

北川:

車やモビリティに特化した研究ではなかったんですが、リアルなデータで、特に移動にまつわるものを扱っていく中で、起業のきっかけになる体験があったかたちですね。

一戸:

ちなみに、きっと他のビジネスアイデアもお持ちだったのではと思うんですが、その中から自分が本気でやろうと思える領域を絞り込むための軸は何かあったんですか?

北川:

ちょっと幼稚なお話になるかもしれませんが、やっぱり自分の子どもや孫に自慢できることがいいなと考えました。お金とかではなくて、例えば、「昔は事故とか渋滞が多くて大変だったけど、それを解決する手助けをしたんだよ」とか、「昔は1tとか2tとかの鉄の塊(車)を人が制御してたんだけど、それを安全に運用できるようにしたんだよ」とか。何十年後かにそんな話ができるテーマがいいなと思いました。その点、移動というテーマは私自身の肌感覚にも合っていましたし、社会課題としても大きいですし、世の中が大きく変わっていくタイミングでもあるかなと思ったので、そこで腹落ちしたという感じです。

事業のアプローチを決めるための二つの方法

一戸:

モビリティと一言で言っても、その領域は結構広いじゃないですか。いろいろな事業のアプローチがあったかなと思うんですが、その中でどのように取捨選択されていったんですか?

北川:

二つあります。一つ目は、将来こうなるだろうという将来からの逆算のアプローチです。自動運転などが普及して、そもそも人が車を運転しなかったり事故や渋滞がなかったりする世界をイメージしたら、車はきっとガソリンじゃなくて電気で動いているだろうとか、もしかしたら今の車とは別の形をしているかもしれないとか、都市のあり方も変わってるかもしれないとか。そういったことをイメージすると、やっぱり移動データだけじゃなくて周辺のデータも集まっていて、みんなが使えるようなプラットフォームが絶対に必要だよねと考えました。とはいえ、それだけを作ってもすぐには誰も使わないので、それを活用してどんな課題解決ができるかというところで、海外企業分析などのアプローチもしました。私たちスマートドライブの創業は2013年なんですが、当時、フリートマネジメント[*1]やテレマティクス保険[*2]みたいな市場はすでにあったので、まずはそれらをプラットフォームと組み合わせて使っていこうと発想しました。

[*1]フリートマネジメント:法人企業や団体が持つ社用車や事業用車両を適切に管理し、運行管理を行うこと。(https://smartdrive.co.jp/fleet/useful-info/fleet-management/

[*2]テレマティクス保険:諸説ありますが、テレマティクスは通信(テレコミュニケーション)と情報科学(インフォマティクス)を使った造語という説が有力。テレマティクスでは自動車や電車などに情報サービスを提供。例えば、インターネットに接続できる通信機器を自動車に搭載。通信機器から情報サービス(交通情報、ニュースなど)を搭乗者に提供。(https://smartdrive.co.jp/fleet/useful-info/car-insurance/

一戸:

類似企業や海外企業をリサーチ・分析されたアプローチもあった一方で、未来からの逆算というアプローチでは具体的にどんなことをされて解像度を高めていったんですか?

北川:

けっこう本を読みました。しかも、自動運転がどうというよりは、都市設計やその変遷といったテーマなど、さまざまな文脈の本です。例えば、車によって一番大きく変わったことは、郊外に都市ができたことだと言われているんです。そういうことは、自動車業界の話だけをしていてもあまりわからないですよね。

柔軟に変更するものと貫き通すもの

一戸:

ここまでお話をお伺いしていると、モビリティというテーマを一つの軸にして、北川さんの中でさまざまな事業の可能性を模索されてきたのかなと感じました。その上でやっぱり、企業分析の中で得られる知見としての課題と、実際の顧客が持つ課題には差分があったかなと思うのですが、最初のターゲットを選定する上では実際にどのようなことを行いましたか?

北川:

これは失敗談でもあるんですが、まさに創業時は、将来からの逆算のアプローチの方を重要視していて、海外にも先行事例のない新しいことをやりたいと考えていました。具体的には、toC(BtoBtoC)のモビリティデータの活用サービスで、例えば柏市の住民の方にデバイスをお配りしたりそれで得たデータから運転のフィードバックをしたりと、積極的に実証実験などもさせてもらっていました。

一戸:

そこからtoBに移行していったのはどういった経緯だったんですか?

北川:

toCのサービスにもまだ可能性はあると思っているんですが、当時の反省としては、やっぱり課題ドリブンではなかったという点です。「移動データには価値があるはずだ」という我々の思いから始めたサービスだったので、当時のユーザにはニーズがなかったのかなと思います。それで、我々もまずは明確な課題を探しにいこうと切り替えて、toBの方向に目を向けていきました。

一戸:

toB=企業といっても、いろいろなステークホルダーが考えられますよね。その中で一番最初にアプローチしたところは覚えていらっしゃいますか?

北川:

これも失敗だったかなと思うんですが、まずは今でいうアセットオーナー(自動車メーカーや保険会社など)にアプローチして彼らの課題を抽出しようとしたんです。でも、結局は彼らも自分たちのお客さまの課題をよく理解できていなかった。それで、まずは我々でフリートオペレーターのお客さまのデータを取得して課題を分析し、それをアセットオーナーと一緒に活用していくというビジネスモデルに少しずつ転換していきました。

一戸:

課題を抽出しようとしてもなかなかオープンに話してくれないような企業さんも多かったのではないかなと推察するんですが、どのように開拓されたんですか?

北川:

それはもう、ありとあらゆる手を使いました。知り合いに紹介してもらったりイベントに出たり。海外事業では、提携したい企業の前で何時間も待って、話を聴いてくれそうな方に声をかけたり。泥臭くやってました。

一戸:

いろいろなステークホルダーが想定される中で、個社ごとにカスタマイズしてサービスを提供する方向性もあり得たと思うんですが、今は一貫性を持った一つのプラットフォームとしてサービスを提供されている。この両者のせめぎ合いなどはあったりされましたか?

北川:

ありました。でも、将来から逆算したときに、カスタマイズを受け入れてしまったら、みんなにデータを自由に活用してもらえるという世界観は実現できないですし、オープンプラットフォームにはならないので、そこは創業時からの思いを貫きました。

ビジョンの可視化によって得られた最初の資金

一戸:

次に、資金集めについて伺います。ハードウェアの開発が必要だという点からしても、資金調達には相当苦労されたのかなと思うのですが、最初はどんなことをしましたか?

北川:

最初の自己資金といえば、大学院生当時の貯金の100万円でした。うちの一人目の社員はデザイナーなんですが、まずは「こういうものができたらどういう世の中になるか」や「こういうプロダクトが誰や何にとってどうプラスになるか」といったことを一緒にビジュアライズしました。毎月30万円でやってもらったので、三ヶ月でお金が足りなくなる。そんな状況から始まったんですが、思いや考えをちゃんと可視化することをまずやりました。

一戸:

そこを可視化してから投資家を回り始めたんですか?

北川:

はい。ただ、当時は学生だったのでネットワークもなくて、本当に数名の知り合いの方に相談したかたちでした。その中で、ANRIの佐俣アンリさんに「おもしろいね」と言っていただいて、最初の資金調達が決まりました。3,000万円です。

一戸:

それでも資金は足りなかったと思うんですが、そこからはどうされたんでしょうか?いろいろな記事などを拝見すると、お客さまから前払いしてもらったり事業会社の方から出資してもらったりといったお話がありました。そうなると、シードVCへのピッチ以上に将来像をしっかりと見せる必要があったのかなと推察するんですが、何か工夫されたことなどはありますか?

北川:

そこはもう、気合いでしかなかったです。おっしゃる通り、ソフトウェアなら3,000万円あればある程度動くものが作れますが、我々の場合はハードウェア開発も絡むので、最低でも2-3億円は必要でした。それくらいを投じてしっかりと事業進捗が見せられないと、シリーズAは難しい。創業融資みたいなものを回りまくったり、総務省の助成金を活用したり、私個人でも借金をしたりと、気合いでいろいろな手を打ちました。それでようやくプロダクトができてきた段階で、事業会社の方たちとも具体的な話ができるようになって、シリーズAという事業会社からの資金調達ラウンドに繋がっていきました。

一戸:

総務省の助成金を活用されたというお話がありましたが、それはどういったところが評価されたんでしょうか?

北川:

移動データの可能性がシンプルに評価されたことももちろんですが、当時、Salesforce Venturesにいらっしゃった倉林さん(現:DNX Ventures Managing Partner / Head of Japanの倉林 陽氏)が、Salesforceと一緒に移動データを活用できるベンチャー企業を探してアプライされていたんです。そこで、移動データの可視化によるフリートマネジメントやCRMへの活用など、データ活用のイメージをある程度幅広く具体的に見せられたので、1号案件として選んでいただけたのかなと思っています。

サービスは最初から有料で提供

一戸:

当時ってまだ「PMF(Product Market Fit)」という言葉は今ほど使われていなかったかなと思いますが、意識はされていましたか?

北川:

最初にtoCにチャレンジしてあまりうまくいかなかったこともあったので、当時の言葉で「Customer Centric(顧客中心主義)」のようなことは意識していました。私たちの思いよりも、お客さまの課題を重視して考えようと。

一戸:

今から振り返って、あのタイミングがPMFだったなというタイミングはありますか?

北川:

最初は今のtoBサービスもほとんど売れず、お客さまに機能不足について多少目をつぶって使っていただいていたフェーズがあったんですが、その期間のブラッシュアップにかなり意味があったと思っています。あの期間があったからこそ、デバイスもどんどんアップグレードされましたし、本当に使われるための機能が絞り込めた感じです。

一戸:

新しいサービスの場合、価格設定が難しいですが、最初はどんなロジックで考えられたんですか?

北川:

今も試行錯誤しているところではあります。最初は、それこそ「えいや!」で決めていました。ただ、お客さまに提案していく中で、お客さま目線の費用対効果や機能の価値などがわかってくるので、徐々に肌感覚を擦り合わせてきました。

一戸:

ブラッシュアップに協力してもらっていた最初のお客さまたちにも有料でサービスを使っていただいていたんですか?

北川:

そうです。無料なら使うというお客さまと有料で使ってくださるお客さまにはやっぱり違いがあると思ったので。

一戸:

僕らもスタートアップから、初期のサービスを無料で提供するか有料で提供するかという相談を受けることがあります。ケースバイケースではあると思うんですが、お金をいただくからこそ責任感が芽生えることもあると思いますし、最初から有料で展開するところも最近は増えてきています。

100人の組織をイメージして採用する最初の社員

一戸:

次に、組織についてお聞かせください。先ほど、一人目の社員がデザイナーだというお話がありましたが、二人目は人事だったそうですね。それはちょっとレアなケースではないでしょうか。最初の10名の採用をする上で、何か意識されていたことはありますか?

北川:

正確には、一人目がデザイナー、二人目がデータサイエンティスト、三人目が人事なんですが、今でも役員として活躍してくれているメンバーたちです。当時、正直なところ、最初に欲しかったのはエンジニアでしたが、組織が100人や200人になったときのことを考えたら、いい人を採用できたりその人たちが働きやすい環境設計ができたりする人事担当や、我々の事業の肝であるデータ分析をしっかりと理解できて基礎設計ができるデータサイエンティストが最初にいないと困るなと、将来から逆算して考えていたのでそんなに迷いはなかったです。

一戸:

採用方針としては、何かを参考にされたのですか?あるいは、どんな思考が土台にあるんでしょうか?

北川:

一つは、営業や事業開発は私自身がインターン時代から少しずつやっていたものの、人事やデータ分析はやったことがなかったので、私ができないことをできる人にまず入ってもらうべきだと考えたことです。あとは、単純にご縁があったということ。どうしても三人目までに人事を採りたいと思っていたわけじゃないんですが、すごく良い方に巡り合えたので、これはもう来てもらうべきだと判断しました。

一戸:

初期の組織構築において、権限委譲に苦労する起業家の方も多いかなと思うんですが、北川さんはいかがでしたか?

北川:

やっぱり苦戦しました。基本的に私ができないことをできる人たちに入ってもらっているので、どんどん仕事を任せたいという思いと、任せた先にどこまでやってもらえばいいのか、それをやったときにどう評価するのかという迷いとで、今も試行錯誤してます。

一戸:

スマートドライブは、「移動の進化を後押しする」というビジョンと「グローバルで最も利用されるモビリティデータプラットフォームになる」というミッションを掲げられています。権限移譲においても組織文化の構築という点はかなり重要になるかなと思うんですが、組織文化というものを意識したきっかけやタイミングはありますか?

北川:

創業期からかもしれません。そもそも我々の事業というのは、社会課題の解決とビジネスとしての伸びしろの両輪が重なるところに位置していると思っています。なので、世の中のために働くことが自分のスキルの向上にも繋がるし、ビジネスとして大きくなることがキャリアアップにも繋がるという発想で、そこに共感してくれる人じゃないと長く一緒に働き続けるのは難しいかなと思います。そのメッセージをしっかりと伝えることを創業時から意識していました。

自分ではなく組織の生産性を上げるために

一戸:

組織の壁というか、問題や課題に向き合ったご経験はありますか?

北川:

あります。本当に見事なまでに、よくある落とし穴の全部に落ちてきました。シンプルに私自身に就業経験がなく未熟だったということもありますが・・

一戸:

自分自身の変化に影響した、印象的な壁というのはありますか?

北川:

社員が30人くらいになったときでしょうか。それまで私は週7日仕事をしていて、私自身がたくさん働くことで会社の成長速度が上がるとシンプルに思っていました。でも30人くらいになると、そもそも全員が何をしているのかも把握できないし、私が+40-50%多く働くよりも、みんなが+2-3%ずつしっかりと働いてくれた方が、当然会社として大きな成果が出る。そういうことが見え始めてきたタイミングでした。それで、みんなの働きやすさに意識を配ったり、私自身の働き方も変化させたりし始めました。

一戸:

従業員の方々に+2-3%成果を出してもらう上で、一番効果的だった取り組みは何でしたか?

北川:

やっぱり、ビジョンの言語化でしょうか。なぜこの会社をやっているのか、私自身が今どんなことを感じたり考えたりしているのか、といったことを一人一人に伝えました。30人って、そういうことが必要なフェーズだと思います。各人の話をよく聴いて、失敗の話なんかも共有して、ちゃんと横でコミュニケーションを取ること。そこにかなりコミットしたことで会社の方向性が固まってきた感覚もあって、みんながより活躍できる環境ができていったかなと思います。

一戸:

初期からビジョンやミッションを言語化することをすごく意識していたとおっしゃっていましたが、それでも従業員の方々には浸透しきっていなかったんでしょうか?

北川:

「(言わなくても)わかっているだろう」と思っていた部分もありましたし、毎日同じことを言っていても飽きられちゃうかなと思っていたんですが、そんなことなかったですね。その後、100人とかの組織になって、私一人じゃ伝え切れなくて・・という壁もまた体験するんですが。

一戸:

ビジョンやミッションを、テキストでは認識しているんだけど、3Dや動画でイメージしたときに認識が違っていたり、本当に共鳴している状態にはなれていなかったりということがけっこうありますよね。それを踏まえて、今創業期に戻れたとしたら、より強く意識するであろうことって何かありますか?

北川:

具体的にパッとは浮かばないんですが、やっぱり過去に失敗してきたことは、従業員の人たちに本当に申し訳ないことだったと思います。なので、予め想定される穴には落ちなくて済むように気をつけたいです。あとは、組織のビジョンやミッションはもちろん大事なんですが、やっぱり事業成長あってこそだと思うので、そのバランスをしっかり意識して両立していくということが、今なら昔よりも少しは良くできる気がします。

多様な人に触れ合うことの大切さ

一戸:

最後に、北川さん個人についてお伺いします。いろいろな記事を拝見する中で「“何とかなる精神”が自分にはある」とお話しされていました。その精神はどういったところで養われたのでしょうか?

北川:

振り返って思うのは、親に「〇〇をやっちゃダメ」と言われた記憶がないんです。なので、やってみたら何とかなるんじゃないかと、割と小さい頃から思っていますね。

一戸:

個人的には、何かに挑戦したときに成功した経験があるからこそ、そういった精神が養われるのかなと思うんですが、北川さんの一番の成功体験って何でしょうか?

北川:

成功体験はあまりないと思います。ただ逆に、チャレンジしてみてやらなきゃよかったとかやって損したという経験もないので、成功はしなかったけど別のことが学べたり別のことに繋がったりしているのかもしれません。

一戸:

創業期にベンチマークしていた経営者の方はいらっしゃいますか?

北川:

いないんです。この言葉はいいなと思ったりすることはあったんですが、人物としてこうなりたいというイメージはなかったです。

一戸:

今はいらっしゃいますか?

北川:

何周か回って、ビル・ゲイツさんでしょうか。事業を多角化していたり、ちゃんと次世代に繋いでいたり、あとは個人での活動も含めて、すごくバランスが良いなと思います。

一戸:

そういう、ベンチマークから学ぶことも多いのかなと思ったのですが、北川さんが経営者としてセンスを磨いたり視座を高めたりするために意識していることってありますか?

北川:

一つは、多様な人に触れるということ。自分にないものを持っている人に触れるということです。これは私の持論なんですが、そもそも自分の中に足りないものって何もないと思うんです。何かをしたいとかこうなりたいと思ったときに、必要なものは既に自分の中にあって、あとはそれを引き出せるかどうか。つまり、私が引き出したいものに近い感性を持った人に会って学ぶことがすごく大切だと感じています。もう一つは、環境が視座を作るという面はあると思うので、自らそういった環境に飛び込んでいくことも大切にしています。

次回のゲストとお知らせ

次回のゲストは、北川さんにご紹介いただいたELEMENTS創業者の久田さんです。皆さん、ぜひ楽しみにしていてください。

また、スマートドライブは現在積極的に採用活動を行っております。ご興味のある方はぜひこちらからチェックしてみてください。

※こちらは、Podcast公開時の情報です

BACK TO LIST