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憧れの「SF世界」の実現を目指して、バックキャストで考えるシード投資|曽我部 崇

PHILOSOPHY

ジェネシア・ベンチャーズは2016年の設立以来、「新たな産業の“種”から”最初の芽”を出すこと」を自分たちの役割だと考え、一貫して創業初期のスタートアップの1stラウンドにおいて投資をしてきました。まだ事業アイデアしかない、起業家一人だけのチームで組織もオフィスもない、そんなフェーズのスタートアップに投資し、未来をより豊かにするサービス/プロダクトを広く世の中に届けるために私たちも“チームの一員”という意識で伴走しています。

2022年に、国が主導する「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、日本のスタートアップに各方面からの注目と投資マネーが集まり、また、スタートアップを生み出し育てるためのエコシステムも各地・各所で大きく育ちつつあります。

その中で、新しい技術、新しいサービス/プロダクト、そして新しいリーダーたちとともに、「社会に対して大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すこと」を担うのはやはり、創業初期=シード期から投資をするベンチャーキャピタル「シードVC」であると、そして、私たちがまさにその当事者であると考えています。

本シリーズ『シード投資という仕事』では、ジェネシア・ベンチャーズで実際にスタートアップへのシード投資と経営支援に従事するベンチャーキャピタリストそれぞれが改めて考える「シード投資」と「シードVC」についてご紹介します。

・なぜ「シードVC」に懸けるのか?
・「シードVC」としての役割やこだわりは何か?
・そして、ジェネシア・ベンチャーズで実現したいことは?

本稿の主役は、Associateの曽我部さん(以下:曽我部)です。

  • 聞き手・まとめ:Relationship Manager 吉田 愛/Intern 夏堀 栄
  • 2024/3/14時点の情報です

世界や社会という視点からバックキャストして投資をするシゴト

interviewer:

2022年5月からのインターンを経て、2023年4月に新卒入社した曽我部さん。最初にスタートアップやVCに出会ったきっかけは何でしたか?

曽我部:

僕は東北大学の大学(大学院)の工学部で、金属を用いない新型の電池材料の開発の研究をしていました。スタートアップの存在は実は意外と身近にあって、研究室の先生が立ち上げた電気化学領域のスタートアップで技術開発を手伝ったり、ロケット作りのサークルで企業からの資金調達を担当したりしていました。
今思えば、この頃に「起業家」側の動きをしていたなと思うのですが、「投資家」側であるVCという存在についてはよく知りませんでした。しっかりとVCのことを認識したのは、インキュベイトファンドが2021年12月に学生向けに開催していた『Incubate Academy』というイベントに参加してからでした。
応募のきっかけはほんの気まぐれで、VCという職業に興味があったとか進路として考えていたとかではなかったんですが、『Incubate Academy』の講義を通して初めて「投資家」側の視点を知った時に、起業家としてよりも投資家として新しい市場を作っていくことに興味を持ちました。今改めて理由を言語化するとしたら、投資家の「この人間社会全体がどうあるべきか」というワイドな視点からバックキャストして市場づくりをしていける点に惹かれたんだと思います。

interviewer:

ジェネシア・ベンチャーズに入ろうと思ったきっかけは何ですか?

曽我部:

いろいろなVCがあることは調べてみてわかったものの、どこに応募したらいいものかわからず、しばらく悩んでいました。そんなときに、大学時代の友人であり、東北大学発の宇宙スタートアップ ElevationSpace の代表でもある小林くんとごはんに行く機会があって、僕がVCに興味があるという話をしたんです。ちょうどそのときが、ElevationSpaceがジェネシア・ベンチャーズから投資を受けて一ヶ月くらいのタイミングだったので、「ジェネシア・ベンチャーズは、曽我部くんが興味のあるディープテックにも投資しているし、合うかもしれないよ」と教えてもらいました。それでジェネシア・ベンチャーズに興味を持って、インターンに応募しました。2022年のことです。それから一年弱のインターン期間を経て、正社員として入社することになりました。迷いはあまりなかったです。

憧れの「SF世界」の実現のために必要な技術を醸成する役割

interviewer:

曽我部さんのコメントにもあったとおり、異なるステージに投資するたくさんのVCが存在しますが、その中でも「シードVC」を選んだ理由はありますか?

曽我部:

「VCとは何か」という問いに答えるとしたらきっと僕にはまだ十分な理解がないですが、シードVCは、スタートアップのビジョンを実現するための全ステップの“最初”の役割を果たす存在だと思っています。シードVCである僕たちが、創業初期や創業前のスタートアップを見つけて、ビジョンを実現するためのマイルストーンを一緒に描いて、投資や経営支援をして、そこにレイターの投資家の方々が続いて投資をしてくださるということなので、非常に責任の大きい仕事であり、そこが魅力だと思っています。描くビジョンを「あるべき社会の姿」と捉えれば、それは国の予算をアロケーションするのと同義だとも思うので、これからの日本社会を作っていく上でもとても重要な役割になるという責任感を強く持ちながらやっています。

interviewer:

そのシードVCの責任の大きさというのは、実際にVCで働く前から感じていたんでしょうか?

曽我部:

少しは。ただ、実際にはやっぱり働き始めてからより強く感じるようになりました。

interviewer:

VCになろうと思ったのは、責任の大きい仕事だからということだったんでしょうか?

曽我部:

責任の大きさというよりは、実現し得ることの大きさということだと思います。もともと僕がVCになりたいと考えた理由は、好奇心と期待です。小さい頃から「鉄腕アトム」や「ドラえもん」といったSF作品が大好きで、技術的に実現不可能だと思われる、そういったいわば“想像”や“空想”を実現できたらものすごくおもしろいなと思っていました。それで、大学では工学部を専攻しました。自分で技術開発やものづくりをすることによって、「SF世界の実現」に向けて一つ一つのピリオドを打っていけたらと思ったからです。なので、当初はVCでそれが実現でき得るとは思ってもいませんでしたが、「SF世界の実現」からバックキャストして考えると、そこに必要な技術(特にディープテック)が醸成されることは絶対的に必要で、シードVCはまさに新しい技術が出現したときにそれを醸成していける存在だと考えました。
起業や大企業での研究開発という選択肢もありました。でも、大学で実際に研究をする中で、自分が思い描く世界を実現するためには一つ一つピリオドを打つだけではなくて、もっと複層的なかかわりが必要だと感じていたんです。例えば、研究者や技術者としてすごく有望な技術を生み出しても、お金がなかったら結局は開発ができなかったりする。お金って、ガソリンみたいなものだと思うんです。VCは、そのガソリンを供給する立場として新しい技術醸成に関わることができる。そう思うとわくわくするし、熱くなれます。
また、社会により大きなインパクトを与えるためには、研究開発だけでは不十分で、ビジネスとして大成功する必要があると考えています。その意味では、単なるお金の出し手という役割だけではなくて、ビジネスの面にまで踏み込んで起業家に伴走する役割を果たせることが、シードVCのおもしろさだと思っています。

”歴史の転換点”を、VCという立場からどう作り出すか

interviewer:

曽我部さんの注力して投資していきたい領域としては、やはりディープテックでしょうか?

曽我部:

中でも特に、「ハードウェア」が好きです。学生時代も電池やロケットなどの「モノ(物質)」を作ることが多くて、完成品を見られたり触れたりするのが嬉しいです。ハードウェアは直接的に人の社会を豊かにすると思うんです。印刷機や車、電話など、歴史の転換点にはいつも革新的な新しいハードウェアの出現がある。僕もそういった転換点を作りたいです。たぶん、ハードウェアの発明がなかったら、人の想像力は制限された状態のままだと思うんです。でも、新しいハードウェアの出現によって、予想だにしていなかった未来に進んだりする。その先に、僕が子どもの頃に読んでわくわくしたSFのような未来が実現されるんじゃないかと思います。

具体的に注目している領域としては、一つは「人間(脳)と機械のコミュニケーション」です。例えば、今の僕たちはキーボードやマウスを通してPCを操作していますが、人間と人間が会話でコミュニケーションするみたいに、人間と機械もよりスムーズにコミュニケーションできる未来があるかもしれない。すでに『Siri』のような手段も生まれてきていて、将来的にはそういったコミュニケーションが主流になるかもしれない。さらにそれが進んでいけば、思考だけでコミュニケーションができる未来もあるかもしれない。そういった“空想”を実現させるために、僕が今VCとして投資できることは何なのかと考えています。
あとは、「素材」です。僕自身がもともと素材にまつわる研究をしていたこともあるんですが、やっぱり素材はあらゆるイノベーションの源泉になり得ると思ってるんです。新しい素材の開発によって、製品(ハードウェア)の可能性が格段に広がったりする。研究者の方に聞いたら否定されるかもしれませんが、僕は、ハードウェアのイノベーションの最上位概念は素材にあると思っています。

塞がれた道の先にある未来が”わくわく”できるものなら

interviewer:

“空想”があるからこそ“現実”に熱くなれるという曽我部さんを感じます。そうして日々現実的にシードVCとしてシゴトをする中で、意識していることやこだわりはありますか?

曽我部:

注目している領域をいくつか挙げてはみましたが、ディープテックだから投資するわけでも、特に領域を絞って投資するわけでもありません。”領域”として固めてしまうと、目的と手段(自分の武器)が逆転してしまう気がするんです。例えば「ドラえもん」などのSF作品で描かれている未来は、誰でも何らか見たことがあったりイメージできたりするものだと思います。でも今それが実現されていないのは、何らかの障害物があってそこに到達する道が塞がれているから。その障害物をどけた先にある未来が僕にとってわくわくするものなら、自分の不得手な領域であったとしても必死に勉強して投資したいです。
シード投資の投資判断という意味では、現時点では、論点を削ぎ落としていくことが大切だと考えています。考え出せば論点って無限に出てくると思うんですが、今“シードの時点で”何を考えるべきかというコアを見つけ出すことを意識しています。とはいえ、削ぎ落とす前の多面的な視点や思考も本当に大切だと実感しているので、アンテナは広く立てています。今までは、見たものを見たまま受け止めていることがほとんどだったんですが、最近は、その目的や経緯・理由、ニーズ、ストーリーといったところまで見ようとしたり考えたりするようになりました。
何事も慣れて洗練されれば自然とシンプルになるんだと思って、逆に今はあまりシンプルに考えすぎないことも意識しています。例えば、マーケットの大きさだけで事業を考えないなど。哲学的なことや倫理的なこと、一見投資には関係ないようなことでもムダだと思わずに幅を広げていたいです。

人類の技術発展が最も加速する今の時代に

interviewer:

技術的に実現不可能だと思われる「SF世界」が実現された世界に、私たちも立ち会ってみたいです。

曽我部:

祝さんもコメントしていましたが、僕も自分がいい時代に生まれたなと思っています。昔に描かれた未来像って、僕が生きている間にけっこう見られそうな感覚があります。例えば、江戸時代の人が空想してた未来図の内容って、今見るとすでに叶っていることもたくさんあるんです。それが僕たちの生活にとってはもう当たり前のものだったりもする。まさに、実現不可能と思われていたものが、意外とうまくいっていたりするんです。例えば、僕が子どもの頃はパソコンくらいの大きさだった携帯電話が、今は手のひらに収まるスマホになっていたりと、この10-20年だけでも圧倒的にモノが発展しています。人類のそうした技術って指数関数的に発展していくものなので、さらに10-20年後には僕の想像以上の変化が起こっている可能性も大いにある。僕たちが空想してる未来も、未来から見たら「そんなの普通だよ」ってなっているかもしれません。今のこの、最後に急激に発展するフェーズに生きていられるのは本当にラッキーです。さらに、未来像を現実に変えたりその時間を短縮したりするのがスタートアップだと思っているので、シードVCとしてそうしたスタートアップに関われることも本当にうれしいです。世界が僕の期待を裏切ってくれることを期待してます!

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