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「国運」の最前線はきっと、スタートアップとシードVCにある|祝 煜洲

PHILOSOPHY

ジェネシア・ベンチャーズは2016年の設立以来、「新たな産業の“種”から”最初の芽”を出すこと」を自分たちの役割だと考え、一貫して創業初期のスタートアップの1stラウンドにおいて投資をしてきました。まだ事業アイデアしかない、起業家一人だけのチームで組織もオフィスもない、そんなフェーズのスタートアップに投資し、未来をより豊かにするサービス/プロダクトを広く世の中に届けるために私たちも“チームの一員”という意識で伴走しています。

2022年に、国が主導する「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、日本のスタートアップに各方面からの注目と投資マネーが集まり、また、スタートアップを生み出し育てるためのエコシステムも各地・各所で大きく育ちつつあります。 その中で、新しい技術、新しいサービス/プロダクト、そして新しいリーダーたちとともに、「社会に対して大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すこと」を担うのはやはり、創業初期=シード期から投資をするベンチャーキャピタル「シードVC」であると、そして、私たちがまさにその当事者であると考えています。

本シリーズ『シード投資という仕事』では、ジェネシア・ベンチャーズで実際にスタートアップへのシード投資と経営支援に従事するベンチャーキャピタリストそれぞれが改めて考える「シード投資」と「シードVC」についてご紹介します。

・なぜ「シードVC」に懸けるのか?
・「シードVC」としての役割やこだわりは何か?
・そして、ジェネシア・ベンチャーズで実現したいことは?

本稿の主役は、Investment Managerの祝さん(以下:祝)です。

  • 聞き手・まとめ:Relationship Manager 吉田 愛/Intern 夏堀 栄
  • 2024/3/7時点の情報です

中国のダイナミックな変化を目の当たりにした経験をきっかけにシードVCへ

interviewer:

中国のコンサルティングファームからメガバンクを経て、ジェネシア・ベンチャーズにジョインした祝さん。入社してどれくらいになりますか?

祝:

2022年の9月入社なので、もうすぐ一年半です。振り返ると本当にあっという間でした。とはいえ、まだまだシードVCとしては日が浅いです。僕たちって、新しいことに触れるのが仕事じゃないですか。なので、常にわからないことや新しい情報が出てくる状態。それがすごく新鮮で好奇心を掻き立ててくれます。一方で、自分には常に何かが足りないという感覚に苛まれ続けてもいます。

interviewer:

シードVCを目指そうと思ったきっかけは何でしたか?

祝:

僕は最初のキャリアを中国で始めて、当時はずっと中国に住んでいたんですが、そのときに高度経済成長とテクノロジーの進化でダイナミックに生活が変わっていく体験をしたんです。スマホが急速に普及して便利なアプリが次々に出てきたり、新しいビル群や地下鉄ができたりと、とにかくものすごいスピードで目の前の景色が変化していました。あの体験のインパクトは大きかったです。
その後、2016年に日本に来てからはそんなに変化がない日々を過ごしていました。それが嫌というわけじゃなかったんですが、少し物足りなさを感じるようになったんです。そんな中、ニュースなどでスタートアップというキーワードをよく目にするようになり、GDPは長年横ばいだった日本ですが、その内容が少しずつ変わってきている流れを強く感じました。そして、そういった変化に最前線で触れたいと思うようになりました。それが、シードVCに興味を持ったきっかけです。
ジェネシア・ベンチャーズに入る直前は、EYからSMBCの「事業開発部」というところに出向していました。グループの次の成長の柱を作るというミッションを持った非常に重要な組織です。その出向期間の二年間の影響も大きかったと思います。お金と人材を豊富に持った企業が、何かしら変わりたいと思っている。ただ、大きい組織が既存の経営スタイルから大きく逸脱してリスクの高いチャレンジをするのは難しいため、いずれは大企業とスタートアップの連携が深まる流れが必ず来ると信じていました。その上で、その歩み寄りのスピードをより上げやすいであろうスタートアップ側を支援した方が効率的だと考えたことも、転身の一つのきっかけだったかなと感じてます。

日本と、そしてスタートアップとVCに感じる大きな「国運」の波

interviewer:

VCといっても私たちもまだまだスタートアップです。祝さんを見ていると、大企業からのキャリアチェンジに迷いはなかったように感じますが、実際にはどうでしたか?

祝:

そんなに迷いは無かったですね。縁があったなと感じます。VC業界への理解が浅かったので、いい意味で期待や理想というものもなく、入社後のギャップやショックみたいなものもありませんでした。
あとは、「国運」みたいなもの・・

interviewer:

「機運」みたいなものですか?

祝:

はい。全然ロジカルじゃないんですが、国の運も周期があって、日本はいま国運が上昇期に入ろうとしていると感じています。僕が中国にいた頃は、その強い波が中国に来ていました。いろいろな課題や問題はありつつも、抗うことができな強い成長の波があり、国民全体が自信に満ち溢れていて、何をやっても成功させるという状態でした。中国は今は一段落して、次は日本じゃないかと思っています。日本ではよく「失われた30年」と言われますが、僕の体感は少し違います。中国でコンサルタントとして働いていた頃、海外で次の成長産業を創ろうとしている日本の事業者をたくさん見ました。GDPの数値で見ると横ばいに見えますが、苦闘しながらも成長することを諦めていないという印象でした。政府も少しずつ変わろうとしていますし、スタートアップ育成5か年計画も大きな動きですよね。あとは、国民全体・社会全体の危機感もそろそろピークアウトしてきたタイミング。それが転換期であり、上昇期に入るのタイミングだと僕は思います。しかも、日本は産業の成長を支える土壌がある程度整っていると思います。優秀な人材もいるしインフラも充分整っている。法規制も整備されているし、お金もたくさんある。僕が日本に来たのはたまたまですが、来てみると大きなモメンタムを感じました。特に直近一年はグローバルからの注目度も格段と上がって、強い「Why Now?」「Why Japan?」があり、その最前線がまさにスタートアップです。

interviewer:

「国運」の最前線がスタートアップ

祝:

下がり続ける市場はないので、どこかでボトムします。日本にとっては今がそれに近いタイミングで、そのキーになるDX(デジタルトランスフォーメーション)やオープンイノベーションを牽引するのはスタートアップだと思います。そういう意味では、シードVCはその最前線の中のさらにフロンティアにいて、イノベーションのゼロイチを作るおもしろさがあると思っています。僕たちがスタートアップに投資をするとき、彼らの事業領域が時代の大きな波に乗っているかということを議論しますが、僕たち自身=VCも今まさに大きな時流に乗っていると感じています。

interviewer:

その「キてる」「ノってる」という感覚を信じられることって、「投資」の大前提になるんじゃないでしょうか。そこに少しでも懐疑的だと、もちろんスタートアップ投資もそうですし、自身のリソースを投じるということもできないですよね。祝さんは、今の状況と自分自身を心から信じている。

祝:

まさにそうです。日本はダメだという消極的な声が溢れているからこそ、僕はこれからの伸び代がたくさんあると感じてすごくわくわくしています。

interviewer:

ジェネシア・ベンチャーズを選んだのはなぜだったんでしょう?

祝:

先ほども触れたとおり、VC業界のことは実はあんまり知らなかったんですが、面談の前にジェネシアのWEBサイトを読んで、シードVCに関する理解が一気に深まりました。最初の面談でお話ししたタカさんとアイさんの雰囲気もすごく良かったですし、田島さんがずっと「大きい産業を作りたい」って言い続けていたのが印象的で、すごくインパクトが大きいことをやれそうだと感じたのと、自分が目指したいことともマッチした部分がありました。単なる投資だけじゃなくて、ステークホルダー全体を巻き込むプラットフォームになるという思想にも共感しました。起業家との向き合い方もいいですよね。距離感が近く、まだマチュアじゃない状態から信じ続けて支え続けるスタンスがいいなと思いました。たしか面談のときにタカさんから、「ハンズオンとかハンズオフとかじゃなく、ゼロイチの起業家の成功確率を上げるために何をしたらいいかを考えて、できることを全部やるだけだ」「自走できる起業家であれば過度に関与しないのもありだ」というお話を聞いて、それがすごくリアルで印象に残っています。

お金が巡り、世界中に良い循環がうまれる状態を目指して

interviewer:

そんな祝さんがシードVCとして追いかけている/追いかけていきたいテーマ、つまり、実現していきたい世界というのはどんなところにありますか?

祝:

一つ目は、モビリティです。電動化・ソフトウェア化していく流れは自動車産業の大変革だと思います。中国は先行していて、日本は相対的に遅れてますが、必ず来る未来だと思っています。キャピタルインテンシブな領域なのでスタートアップにとっては難しいかもしれませんが、巨大な産業なので、少し関与できるだけでも大きなビジネスになるはずです。大企業の機能がすごく成熟しているので、その土台を活用しながら新しい技術も取り入れていくという流れになるはず。スタートアップにもチャンスがあると思います。
二つ目は、コンシューマ向け(toC)のサービス。中国ではたくさんの新しいコンシューマ向けのサービスが人々の行動変容を起こしてきました。そういうプレイヤーが日本でも今後出てくると思います。僕が投資しているスタートアップでは、[ColorSing]は日本でももともと大きかった推し活文化を少しずつオンライン化していくと思いますし、[Nomu]は(まだプロダクトの開発途中ですが)ペットボトルを使わない生活への大きな行動変容を起こしていくチャレンジです。
あとは、コンシューマ向けサービスからの切り出しで、資産運用・資産形成の領域。日本って、1,000兆円くらいが預金なんですよ・・1,000兆円を利息がゼロの預金に入れてるんですよ?これって日本特有の現象で、中国ではあり得ません。中国では安全な運用としての保険+銀行が売る理財商品で、元本保証+数%の運用は当たり前。AlipayなどのFintech企業がそれを更に一般化しました。決してリターンが高いわけじゃないですが、成長して物価が上がる国で現金を持っているのは損だよねというシンプルな考えからそうなっています。一方で、日本はデフレだったので、預金しておいても物価が安くなるから得だというのが当たり前だったと思うんですが、これからインフレの時代に入っていく。だから、利回りが付く資産に個人のお金がどんどん流れていくと思いますし、国も新NISAなどの制度でそれを推奨しています。すごく時間はかかるけど、だからこそ一つのビッグウェーブだと考えています。インフレで経済が上向き始めて、個人のお金が徐々に投資に流れていく。そうすると企業の株価も上がって、成長投資のお金が確保しやすくなるし、賃金も上がる。そういう良い循環ができると思うので、資産形成の領域は注目しています。

僕たちは「恵まれた世代」

interviewer:

入社時にはシードVCという仕事に対して特に期待や理想はなかったとのことですが、今は理想のシードVC像というのがありますか?

祝:

ありません。やっぱり理想って変わり続けるものだと思うので、キャップを設けずに、満足感を得ずに、常にわからないことや新しいことに目を向けて、スタートアップと一緒に走りたいと思っています。

interviewer:

入社してから祝さんの中で生まれたり育ったりした、シードVCとしての思考パターンや行動パターンはありますか?

祝:

使う頭の筋肉が今までと全然違いました。最たるものが、ファクトを見ない、ファクトがない状態での投資判断。これまでは財務諸表を見て会社の事業を分析する仕事だったので、その切り替えは未だにストラグルしている部分です。多面的に、でも全てをクリアにせずに曖昧な部分を残しながら投資判断をするのって、やっぱりめちゃくちゃ難しいです。
幸運なのは、ジェネシアは『DXの型』や『Market.iO』などでシード投資のアートな部分を科学したフレームワークがあるので、それらを活用しながら、自分なりの思考パターンを育てていきたいです。

interviewer:

まとめると、楽しくやってるよってことでいいですか?

祝:

楽しくやってますよ。飽きないです。常にいろんな事業アイディアがいろんな角度から出てくるのがおもしろいですよね。はじめにも触れましたが、僕たちの仕事は新しいものに触れること。そして、常識の範囲を自分の中でどんどん拡張していくこと。ジェネシアにもそれを是とするカルチャーがあります。

interviewer:

そこが祝さんの根底の志向とマッチしていそうですね。期待を持ちすぎず、現状に満足せず、変化に飛び込んでみるという。

祝:

中国が高度成長期だったころは、びっくりなことが本当にいろいろ起こるんですよ。例えば、中国の田舎で朝起きたら畑のスイカが全部爆発してたって話があって・・

interviewer:

えっ?

祝:

スイカを膨らませるための膨張剤みたいなものを打ったんですよ。日本だと、人体への影響は大丈夫か?とか、まずは一つだけ試してみようとかってなるじゃないですか。でも中国では、大きいスイカの方が高く売れるんだから、スイカが大きくなるなら合理的に考えて打つよね!みたいな感じなんです。しかも一気に全部。そういうことを平気でやっちゃう人たちを見ていると、失敗を恐れずチャレンジする人の数が多いのが分かります。

interviewer:

はい・・

祝:

そういう意味だと、日本はまだちょっと全体的に保守的かもしれません。でも、スタートアップにはチャレンジ精神や異分子を受け入れるカルチャーがあって、すごくいいなと思います。

interviewer:

祝さんのおもしろエピソードの目次が一つ増えました・・祝さんだけに見えている景色を、今日はまた少しお裾分けしてもらった気持ちです。最後に一言お願いします。

祝:

僕は今、VCとして恵まれた環境で仕事ができている状態だと思っています。国全体もそうですし、スタートアップのエコシステムもどんどん育ってきてる。元々は少しインナーサークル的なところがあったと思いますが、それもだんだんオープンな流れになってきています。あとは僕自身の頑張り次第。日本の国運が上昇期に入っていると信じてるので、本当に今はチャンスにあふれてる僕たちは恵まれた世代です。

interviewer:

そんな祝さんと一緒にお仕事できていることが私たちも嬉しいです!これからもよろしくお願いします!

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