INSIGHTS
INSIGHTS

【Smart Craft】モノづくり産業のニュースタンダードを創る -「経営」の大胆さと緻密さのあいだで- |Players by Genesia.

PLAYERS

ジェネシア・ベンチャーズでは、国内外の約150社(2023年8月現在)のスタートアップに投資していますが、当然ながら、それぞれに個性があります。起業家についても、それは同様。十人十色の個性が光ります。

ただ、起業家のみなさんには、スタートアップを起業するということを選択したという共通点があります。

なぜ起業を決意し、どのようにして実行したのか、また、どのようにして起業家は経営者になっていくのか。それはこの『Players by Genesia.』が深掘りしたい大きなテーマです。

今回は、そのテーマを改めて見つめたいと感じるインタビューになりました。

キーワードは、「人生最大の意思決定」。

私たちは何を目指して、どんな意思決定をしてきたでしょうか?これからどんな意思決定をしていくでしょうか?改めて、考えてみませんか。

ーーーーー

Smart Craft(スマートクラフト)は、製造業現場のDXプラットフォーム『SmartCraft』を提供しているスタートアップです。代表の浮部さんは、新卒で製造業に関わる企業に就職したものの、当初は全く別の領域で起業。改めて自分の想いに向き合っていく中で、今のビジネスアイデアに辿り着き、目標の実現に向けて軸足が“乗った”感覚があったそうです。そんな浮部さんの「人生最大の意思決定」とは?

そのストーリーについて、担当キャピタリストの水谷が聴きました。

  • デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
  • 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田
  • 以下、敬称略

「やっただけ成果が出る」という成功体験

水谷:

浮部さん、今日はよろしくお願いします!
浮部さんの人生を辿って、これまでの意思決定の方向性やこれから実現したいビジョンについて深堀りしていくというコンセプトでお話を聞いていきたいと思います。

浮部:

幼少期や学生時代のエピソードも聞かれると事前に伺っていたので、僕の幼少期を象徴するキーワードを考えてきたんですけど、「そろばん」と「サッカー」かなと思いました。

水谷:

そろばん、ですか。

浮部:

小学生のころ、がんばってましたね。一つの成功体験と言えるかもしれません。

水谷:

そろばんでの成功体験ってどういうことですか?今にも活きてたりするんですか?

浮部:

段や級を取ることで、「やればやっただけ成果が出る」っていう体験をしました。そのことは、今の僕にも大きく影響していると思います。あとは、四則演算もシンプルにめちゃくちゃ早くなったし、そういう脳の瞬発力みたいなものは、今にも活きていると思います。それで算数を中心に成績がまぁまぁよかったので、推薦されて学級委員をやったりもしてました。個人的には、緊張しいだったのであんまりやりたくなかったんですけど。

水谷:

生粋のリーダーというか優等生ポジションって感じですね。そういうパブリックな仕事を違和感なくやっていたんですね。

浮部:

得意だとは思ってなかったんですけど、任されたからにはその期待に応えようって気持ちでした。

水谷:

やっぱり勉強もがんばっていたんでしょうか?サッカーや遊びとのバランスなどはいかがでしたか?

浮部:

友だちは多い方だったので、遊ぶときは遊ぶ。テスト期間に入れば、友達と遊ぶのは一切止めて勉強する。サッカーするときはサッカーする。って感じで、けっこうメリハリをつけてました。根本的に負けず嫌いな性格で、何事も一番じゃないと気が済まないところがあったので、「やるときはとことんやる」を貫いてた気がします。中高生になると、テスト期間中以外も公民館の自習室とかでけっこう勉強してましたね。地元には遊ぶところもあんまりなかったので。だから、高校生まではそんなに行動範囲は広くなかったです。それで、大学で東京に出てきたときに、自分の世界ってすごく狭かったんだ・・!って実感して、いろんなことがパーンとはじけた感じでした。勉強とサッカーしかしてこなかった生活に新しいものがたくさん入ってきて。それで、大学時代はいろんなことを楽しむ方向に振り切ってました。

水谷:

どんな楽しみを取り入れたんですか?

浮部:

最初は、サークルに3つ入りました。兄も東京の大学に進学していて、「サークルに入っていろいろ楽しんだ方がいいよ!」って言われていたこともあったので。サッカーと学生委員会みたいなやつ。アルバイトは1年間だけ。2年生になってからはイギリスに短期留学。1ヶ月だけ行きました。帰国してからはインターン。そのうち、気づいたら就活の時期が来てました。

株式会社Smart Craft 創業者 / 代表取締役 浮部 史也

起業を視野に入れていた、就職と転職

水谷:

就職活動での会社選びの軸とかはあったんですか?

浮部:

当時はとにかく自身の戦闘力を高めたいと思ってました。ビジネスパーソンとして早く一人前になりたいって。だから、大きな仕事ができるとか若いうちから任せてもらえるとか、そういう軸で会社を見てました。学生時代のインターンの経験から、いつか自分で起業・経営してみたいって気持ちもあったので、そこにも繋がればいいなと思いつつ。

水谷:

それで、新卒ではキーエンスへ。

浮部:

正直、製造業への想いとかは特になかったんですけど、人事の方のお話がおもしろくて、会社説明会で唯一眠くならなかった会社だったので、カルチャーマッチというか魅力というかを感じて入社しました。同期が全体で200人くらいいたんですけど、仲が良くて、楽しかったですね。

水谷:

仕事はどこが楽しかったですか?

浮部:

やっぱり結果が出た瞬間です。営業として、初めて製品が売れた瞬間が一番嬉しかったです。キーエンスって、入社から半年間はずっと施設に缶詰め状態で研修を受けるんですよ。それで半年後にようやく自分のエリアと目標を持たされてやっていくので、そこで結果が出たときがやっぱり嬉しかったです。「浮部さんだから買うよ」「製品を導入して現場が変わったよ」って言ってもらえたとき、月末ぎりぎりで目標達成できたときは、特に。

水谷:

逆に、きつかったことは?

浮部:

常に時間と戦っていたことです。7時にはオフィスに行って、7時半からロープレして、8時には車に乗って、9時から8件連続で商談して、帰ってきて見積もりを作って・・と、常に時間に追われた感じでした。あぁ、でも、一番きつかったのは、数字のプレッシャーかもしれません。達成度次第で会社内での居心地が変わる感じがあって。

水谷:

キーエンスには何年いたんでしたっけ?

浮部:

3年です。そろそろ転勤かなってタイミングで、何でキーエンスに入ったんだっけ?って改めて考えてみたときに、やっぱり自分で何か事業をやりたいなって想いがあったので、転職先候補をいろいろ見始めました。そのときは、まだ起業の選択肢はなかったです。スタートアップも一応見てたんですけど、最終的にはコンサルティングファームに絞って、コロナ前に滑り込んだ感じでした。

水谷:

何でコンサルだったんですか?

浮部:

当時の僕は営業しかできないことが少し弱みだと感じていて、これで起業できるのかな?って不安がありました。それで、もっと幅広くいろんな仕事をやってみたいなと思って、コンサルに行きました。入社したアクセンチュアは当時、DX文脈ですごく伸びていて、戦略のプロジェクト以外にもデジタル化とかITのチームにすごく勢いがあって、学びが多かったです。ただ、3年を区切りにしようとは決めてました。

水谷:

ずっと起業は視野に入れてたんですね。コンサルワークは楽しかったですか?

浮部:

楽しかったんですけど、毎日必死でした。パワポもエクセルもできない。英語もできない。構造的な文章も書けない。何もできなかったんですよ。面接でも「君を採用するメリットがない」みたいに言われましたからね。それでも、「絶対にやりきります」「誰より最短で結果を出します」「使えるコンサルになるって約束します」って伝えました。不安はありましたけど、でも、絶対に自分より努力できる人間はいないだろうって思っていたので、ピュアに伝えました。キーエンスに入社した時も、文系出身の僕からしたら全く接点のなかったメカとかエンジニアリングとか未知の製品について一から学ばなくちゃいけなかった。でも、結果的には営業成績もいいところまで行ったので、自分には「やる」って決めた時の探求心とか瞬発力はあると信じていて、コンサルでも同じだと思ってました。それで最終的には「ガッツを感じるよ」って言って採用してもらえました。

「負けず嫌い」と「達成感への中毒」

水谷:

その浮部さんのガッツは、子どもの頃からあるものなんですか?最初に「負けず嫌い」ってキーワードも出てきてましたけど、そこからくる「粘り強さ」みたいなイメージなんですかね?

浮部:

関係していると思いますね。「負けず嫌い」「やると決めたことを絶対やる」みたいなところはけっこうあると思ってます。例えば小学生のころ、サッカーのリフティングを今日1,000回やるって決めたらやるまで絶対に帰らない、見てくれてた父親も帰さない、真っ暗になっても何時間もやり続ける、ってたことがあって、さすがに両親もヤバイやつだなって思ったらしいです。テストとかも一番じゃないと嫌だったので、100点を取れるまで勉強するみたいなところがありました。とはいえ、常にナンバー1とはいかなかったですけど。

水谷:

どうしてそう思うようになったんですか?

浮部:

苦労して結果が出たときの達成感みたいなものが、もう中毒だったのかなと思います。そろばんでもテストでも、一番を取ったり段や級を取ったときに味を占めちゃったというか。頑張っただけ結果が出て認めてもらえる、その達成感が気持ちよかったんですね。逆に言うと、僕は目標がないと頑張れないんですよ。目標が大きければ大きいほど駆り立てられます。
ただ、自分がそこまで要領が良くないことはずっと自覚してました。勉強しなくてもいい点数を取れる友だちはたくさんいたので、自分は何でこんなに時間をかけて頑張らなくちゃいけないんだろう?って思ったこともありました。でも、僕は決して地頭がいいわけじゃないけど、地頭がよくても努力しない人に、努力すれば勝てる。そんな感覚もどこかで得てたのかもしれません。「やればできないことはない」っていう手応えというか。

水谷:

そうしたチャレンジと努力を続けてきた中での気づきとかってあったりしますか?

浮部:

そろばんとか勉強とかって、個人プレーですよね。だから自分の努力次第で結果に繋がりやすい。一方で、サッカーはチームプレーですよね。コンサル時代のプロジェクトもそうでした。そうなると、自分だけが頑張ってもチームの目標は達成できない。それが難しいなって感じてました。今も、会社ってまさにチームなんだって実感する日々で、いかにチームで結果を出すかっていうチャレンジをしてる最中だなって思ってます。そのあたりのマインドや取り組み方が、昔とは全然違います。

社会人OKのアクセラレーターから起業の道へ

水谷:

話を戻しますけど、当初は3年を目安にしていたコンサルを1年で辞められてますよね?そのきっかけは何だったんですか?

浮部:

当時、大学時代から仲の良かった友達がスタートアップに行く流れがちょこちょこ出てきたんです。あと、スタートアップやVCの方々のSNSを見てたら、自分と年齢の近い人たちがどんどんチャレンジしている感じがして、自分はどうする?って改めて考えてみたんです。そういうことを考え出したら、もう完全に思考がそっちに移っちゃって、居ても立ってもいられなくなって、気づいたら、社会人OKのアクセラレータープログラムに辿り着いてました。「会社を辞めてなくてもいい」「大企業出身者を応援したい」みたいなコンセプトだったので、これ自分じゃん!って。それで、週末を使って考えたアイデアを出してみたら、面談を設定していただけたんです。それがスタートアップに踏み込むきっかけになりました。

水谷:

そこから、起業家・浮部のチャプターが始まったわけですね。

浮部:

そのときはまだ会社を辞めてなかったですけどね。でも、メンターの方々や同じプログラム参加者と週末に壁打ちしたり議論したりしてました。みんなリクルートとかDeNAとか起業家輩出企業の方々だったので、やっぱりアイデアが豊富だし事業作りも上手で、議論しててすごく楽しかったです。そのプログラムの開始2ヶ月目くらいのタイミングが、ちょうどアクセンチュアに入って丸一年くらいのタイミングでもあったので、いい区切りかなと思って辞めちゃいました。

水谷:

僕に最初にTwitterで連絡をくれたときは、まだ会社を辞めてなかったんですね。

浮部:

2021年の3月末にアクセンチュアを辞めて、6月にSmart Craftを創業したんですけど、その間の時期ですね。プログラムのDemo Dayが4月にあって、その時は音声アプリを作ってたんですけど、審査員の方々からいろんなフィードバックをいただいて、製造業領域のサービスにピボットを決めて、すぐ水谷さんに連絡しました。

水谷:

音声アプリから製造業SaaSへのピボットは、どのくらいの期間での話だったんですか?

浮部:

一週間くらいですかね。

水谷:

早っ!

浮部:

厳密には、4月末にDemo Dayが終わって、そこからゴールデンウィークの10日間くらいですね。僕はもう会社も辞めていたし、Demo Dayで厳しいフィードバックを受けて、この先どうしていくのがいいかとても悩んでいたんです。それで、このままじゃダメかもしれない・・ピボットした方がいいのかもしれない・・っていう不安で悶々とした気持ちを抱えながら、部屋に籠っていろいろ考えてたんです。そのときに、キーエンス時代に関わった製造業の方々の課題がどんどん頭に浮かんできて。やっぱり、マーケットサイズだったりとか自分の過去の経験だったりを踏まえても、そちらに舵を切った方がいいかなと思って、すぐに新しいプランを作りました。

水谷:

こちらの記事で僕を知ってくれたんですよね。記事きっかけでDMをいただけて、嬉しかったです。ちょうど二年前ですね。

浮部:

VCの方々のnoteやブログを漁っていて、水谷さんの記事がすごく刺さったのと、水谷さんが商社出身で製造業にも明るそうだなと思って連絡しました。すぐに返信をくださったのもうれしかったですけど、初めてのピッチ、しかもオンラインで、田島さんと水谷さんから「投資するよ」と言われたのにはびっくりしました。

水谷:

そうでしたね。まだ会社もない、プロダクトもない、アイデアだけの状態でしたね。
僕としては、僕がジェネシア・ベンチャーズに入社してすぐ(2018年8月)の経営合宿で、自分が投資したい領域について発表する機会があって、その時に製造業の生産管理領域は候補として挙げてたんです。前職の商社時代に製造業のプロジェクトにアサインされて、いろいろと教えてもらったり現場へ行く機会もあったりしたので、そのあたりの課題にテックの入る余地は大きいと感じていました。それで、製造業領域のスタートアップとお話しする機会はよくあったんですけど、Smart Craftはその中でも本当にど真ん中でした。領域としては間違いなくいいなって思ってましたし、浮部さんとのやりとりのテンポがすごく良くて、実際にお会いした時にもフィーリングが合いそうだったので、一緒にチャレンジしたいと思いました。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 水谷 航己

資金調達を経て、人生で最大の決断

水谷:

2021年7月に初回の投資をしてから浮部さんとお付き合いしてきて、一番印象的なのは、去年2022年のピボットの意思決定ですね。その年の1月にようやくリリースしたプロダクトを5月には撤回、みたいな。製造業という領域は変わらずでしたが、SMB向けから中規模~エンタープライズ向けにプロダクトの方向性を転換した。

浮部:

僕の人生で最大の決断でした。

水谷:

よくやったなぁって思いました。浮部さんは、基本的には慎重で誠実ではあるんですけど、そういう大事なところはしっかりと押さえられる人ですよね。起業家的なサイコパスみはしっかりあるというか。

浮部:

サイコパスみ・・!

水谷:

大事なことだと思います。ピボット前のプロダクトに既についてくださっていたお客さんもいたし、そのプロダクトを信じていたチームメンバーもいる中で、きっぱりと「NO」を突きつけた。要するに、自分自身が信じていたことにも「NO」を言ったわけですよね。それをよく決断されたなと。経営者の視点での意思決定だなと感じました。

浮部:

うれしいです。「買うよ」って言ってくださってたお客さんには本当に申し訳なくて胸が痛かったですけど、そうしないと絶対後悔すると思ったんです。ありがたいことに、メンバーは一人も辞めないでいてくれました。むしろ、「その方がおもしろそう」と言って、そのタイミングで副業から正社員になってくれた方もいました。やっぱり、自分の気持ちが“乗った”のかなと思いました。ピボット手前の時期は、自分で営業していても、これが業界で最高のプロダクトだって言い切れないもやもやした気持ちがあったんです。でも、いざピボットを決めたら、お客さんにもメンバーにも、自分の想いを率直に心から語ることができるようになった気がします。既存プロダクトをそのまま続ける選択肢も、既存プロダクトと新プロダクトの2ラインを進める選択肢もありましたけど、エンジニアのリソースもかなり限られていたし、しっかりとお客さんに向き合っていくことを考えたら、新しいプロダクトに一極集中しようって決めました。それでよかったって言えるように、これから改めて、僕たちのプロダクトの思想に賛同して使ってくださるお客さんと一緒に、ずっと育てていきたいと思えるものを作っていきます。

水谷:

浮部さんの胆力を感じますね。メンバーや株主も、ピボットの意思決定をすっと受け入れられていた気がします。まさに、浮部さんの熱が“乗って”たんですね。

浮部:

今回ももちろんですが、最初に作ろうしていた音声アプリも、ピボット前の製造業のSMB向けのサービスも、毎回絶対イケると思ってるんですけどね。ただ、「偉大な事業を作る」っていう目標が大前提にある中で、その理想とプロダクト(実際)のブレがどんどんなくなってきてるように思います。

起業で使うのは、まったく新しい筋肉

水谷:

企業全体ー つまり、事業や組織の大きな方向性を決める意思決定はまさに「経営」の仕事ですけど、その「経営」をする中で、浮部さんが何かこだわっている点はありますか?

浮部:

起業や経営においても、センスのいい方とかアイデアの豊富な方っていらっしゃると思うんですけど、僕はどちらかというと、型みたいなものを忠実に実践して、失敗から学ぶタイプだと思います。その中でオリジナリティが出てくることもあると思うんですけど、基本的には、とにかく他者よりも早くPDCAを回して、いいものをどんどん落とし込んでいくっていう流れかなと。「スタートアップのこのフェーズではこれをやろう」ってことも、ある程度は型化されていますよね。まずはそれに向き合っていこうと。起業家って、けっこう独自の方法をとろうとする方も多いと思うんです。でも、僕は我流のやり方にこだわるといったことはなく、ゼロイチはとにかく顧客に向き合ってトライアンドエラー繰り返して乗り越えていこうかなと。そういう意味では、SaaSっていうビジネスモデルも自分にフィットすると思ってるんです。追うべき数値指標があって、それを改善したり、顧客に向き合ってプロダクトを作っていったり、そういう、一歩一歩をしっかりと積み上げていくモデル。何か一発当ててやろうっていうものより、その方が性に合ってると思います。
僕はとにかく、目標があるとその達成に向けて頑張るんですけど、目標がないときは弱いし、そういう時の自分はすごく嫌いなんです。エネルギーはあるのに、その矛先がない状態。だから、起業のアイデアを決めるタイミングが一番つらかったです。早く全身全霊を注ぎ込みたいのに、動けないもどかしさがありました。

水谷:

そういう意味では、浮部さんは、別の誰かの元で、例えばナンバー2やナンバー3として働くという選択肢はなかったんですか?すでにアイデアを持って目標も設定している、かつ浮部さんが共感できる人の元で働くという選択肢です。

浮部:

あー・・

水谷:

なさそうですね。

浮部:

やっぱり、自分の力で何かしたかったんです。サッカーとか勉強とかも頑張ってはきましたけど、やるべきことがすでにある程度決まっていたり、誰かの決めたアイデアに乗っかったりするよりは、やっぱりゼロから自分自身でやってみたいなって。それこそ学生で起業している人もいるわけですし、自分にもできるんじゃないかなとも思ってました。それがダメだったら別のスタートアップに入るってことも考えるかもしれないですけど、やるからには成功させるってことしか今は考えていません。

水谷:

自分でゼロから何かを立ち上げることは、浮部さんにとって初めてのチャレンジですか?

浮部:

そうですね。今までは、勉強も筋トレも、攻略法や必勝法みたいな情報を調べ尽くして真似る、みたいなことが多かったので、ゼロからというのは本当に初めてです。これまで、自分が意志決定をするっていう機会は、実はあんまりなかったんですよ。営業時代は利益目標が上から降りてきてたし、コンサル時代もマネージャーからの指示でリサーチしたり資料を作ったりで。だから、起業は全く違う筋肉を使う感じですね。

水谷:

たしかに、全然違いますね。アイデアはどこからも授けられないし、調べても出てこないですよね。

浮部:

採用一つとっても、何かお金を使う施策一つとっても、本当にこの意思決定が正しいのかってわからないですよね。だから、起業や事業づくりっていうのは、不確実性の中で意思決定をしていかないといけないものなんだって、もう割り切ってます。100%とか正解とかを求めちゃうと何も踏み出せなくなる。たしか孫(正義)さんも、7割で意思決定するっておっしゃってたと思うんですけど(※参照リンク)、それくらいでやっていく。ただ、ファイナンスとか、特に大事な意思決定については、いろんな先輩に教えを請うたり情報収集をしたりした上で、最後は自分で決める。精度は高くなるように見積もるけど、それが正解かはいつまでもわからない。それが起業した人間の、経営者の意思決定だと思ってます。最近ようやくそれがわかってきました。

「経営」に大切なのは、「失敗」を受け入れること?

浮部:

昔はやっぱり失敗が怖くて、けっこういい子にしてたかなと思うし、起業したてのときもやっぱり失敗したくないって思ってましたけど、いろんな起業家の方とお話ししていると、みんな時に大胆なチャレンジをしているしみんな失敗してる。成功したスタートアップを見ても、失敗しなかった人はいなかったんですよね。むしろ失敗しないと成長しないというか、うまくいかせるためには絶対に失敗って必要だって思うようになりました。

水谷:

そういう感覚は、どれくらいのタイミングで掴んだんですか?

浮部:

それこそ、水谷さんと、矢部さん(Crezit Holdings株式会社代表・矢部 寿明さん)とごはんに行かせてもらったことは大きなきっかけだったような気がします。

水谷:

2021年の9月頃ですね。お二人が大学の同級生っぽいねみたいな話から、僕の投資担当先で同じVertical SaaSの領域で起業してる者同士ってことでお誘いしましたね。当時、たしか矢部さんはインキュベイトキャンプで優勝する前とかかな。

浮部:

ちょうどtoCの与信サービスからtoBにサービスを切り替えられたところで、Credit as a Serviceっていうすごく大きい概念の話をされてて、僕は正直全然理解できてなかったんですけど・・でも、この人すごいなって。

水谷:

どのあたりで感じられたんですか?

浮部:

まずすごくビジョナリーなところです。頭で考えて「こうやったらうまくいく」って話じゃなくて、もう、「これやる!!!」みたいな。「うまくいくかわかんないけどホームラン打ちに行きます!!!」みたいな。その大胆な姿勢って、今までの僕の中の常識を全て覆すくらいのパワーがありました。起業家ってこういう感じなんだ・・って。やっぱり人として惹きつけられるんです。北斗くん(株式会社HOKUTO代表・五十嵐 北斗さん)もそうです。なんか普通じゃない。時には失敗もしそうだけど、たくさんの人を巻き込んで、いつか絶対にデカいことを成し遂げるんだろうなって思わせるパワーを感じます。そういう出会いや刺激が積み重なってきた感じですね。
身近な人たち以外で、今はかなり大きく成長してるスタートアップのお話を聞いてても、創業期に何度もプロダクトを作り直してるとかピボットしてるとか、そういう話はたくさんありますよね。失敗を恐れると、行動するまでの時間がすごく長くなる。だから皆さんスピード感を持ってやってるんだろうなと。特にスタートアップって、限られた期間でExitに向かうっていう暗黙のルールがあるわけなので、とにかくスピーディに試行回数を増やす方が成功に近づくんじゃないかと思ってます。
一方で、自分にそれができるか、自分のタイプに合うか、っていうのは別の話。もともと石橋を叩いて渡るタイプの僕としては、完全に振り切るんじゃなくて、やっぱり自分なりのスタイルでコツコツ事業を作っていく。ただその中で、大胆にビジョンを掲げたり、強い組織を作ったりすることもやっていきたいなと思ってます。失敗しながらやってくことも大事なんだって学ばせてもらいながら、それを自分のやり方に合わせてくイメージです。最近、昔の友だちに会うと、「なんだか熱くなったね」「ビジョナリーになったね」って言われたりもします。戦略がうまくハマってるのかな、なんて。

チームで“ゼロイチ”を楽しむ

水谷:

事業のピボットという人生最大の意思決定を経て、また、浮部さんの起業家から経営者への進化も感じられて、改めて、浮部さんやメンバーのみなさんの想いが“乗った”Smart Craftの今後が本当に楽しみです。最後に、チームづくりについてのこだわりが何かあれば教えてください。

浮部:

最近、社内合宿でSmart Craftのバリューを定め直したんですけど、まず1番目に『GRIT』という言葉を設定しました。そもそも僕たちがやってる事業が、工場のDX・製造現場のDXをオールインワンSaaSで提供するっていうまだ市場にないコンセプトのものなので、お客さんに対してコンセプトを伝え切るだとか開発に落とし込み切るだとか、そういうやり切り力=GRITが間違いなく求められると思っているからです。バリューは計3つ定めましたけど、正直『GRIT』だけでもいいくらいだと思ってます。

水谷:

『GRIT』はまさに現チームの強みでもありますよね。

浮部:

Smart Craftはまだ最初の10人を探してる段階なので、全員副業から入ってもらって、相性を見ています。その時、僕からはやっぱり『GRIT』みたいなところを見てますけど、“見る”って意味では、お互いにですよね。候補者の方からも、人生の時間をSmart Craftにかけてもらえるかをちゃんと見てもらってます。そのときに、このカルチャーの部分をどう伝えるか、継続的にどう伝え続けていくか、っていうところは正直まだ模索中です。

水谷:

バリューはどう決めたんですか?

浮部:

共同創業者の村重さんと僕との毎週のミーティングの中で、「メンバーも増えてきたし、合宿で話し合ってみようか」って話が自然と出てきたので、僕たちで下地を作った上でみんなでディスカッションして、最後はまた僕たちでまとめました。それで言うと、僕たちのミッションである『モノづくり産業のニュースタンダードを創る』という言葉についても、今後、もっと解像度を上げるためにみんなで話し合っていきたいです。
製造業が、ただ単にサービスを提供するだけじゃなくて、現場がよりスマートになって、人がより付加価値の高い業務にあたれる、そんな“カッコイイ”産業になるといいなと思ってます。単純作業はシステムに任せることで新しい時間が生まれる。その中で、もっといい製品アイデアが出てくる。それが出回ることで、業界全体からさらにいいものがどんどん出てくる。生産性も利益率も上がっていって、そこで働く人たちの暮らしがより豊かになる。そういう未来を作りたい。その想いははっきりとしているけど、それを言葉でどう表現していこうかってところはまだ考えてる最中なんです。スタートアップをやっていくぞって決めたからには、やっぱり新しいもの― まだ世の中にない、本当に価値があるものを作りたいなと思ってます。小粒なことをやっても意味がない。大きな山じゃないと。それが新しくて、かつ未来のスタンダードになってほしいものって考えたら、やっぱり「ニュースタンダード」って言葉はしっくり来るんですけどね。この言葉に落ち着くにせよ、また違う言葉選ぶにせよ、そこにも僕たちの想いをもっと“乗せて”いけたらと思ってます。こういう過程も、スタートアップのゼロイチですよね。僕としては、アートなゼロイチはやっぱり難しさは感じるんですけど、今は楽しんでやってます。グロースのフェーズに入るともっと自分の経験も活かせると思うので、これから先、チームがどんどん大きくなっていくことが楽しみです。

※こちらは、2023/8/29時点の情報です

BACK TO LIST