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【テックドクター】データで“調子”をよくする時代へ ー人をつなぐ、医療とテクノロジーの世界|Players by Genesia.

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「人の感覚や感情」と、「データ」。

これらは一見、相反するもののような、結びつかないような印象を受けます。
けれど、そこには、言葉でも身振り手振りでも表現しきれない、私たちの内面がそっと表れているとしたら・・?
言葉にできない気持ちー 特に、つらさや痛みや、実は本当に伝えたいことが表現できるようになるとしたら・・?

人と人がお互いを知り合い、理解し合うことが、もしかしたら大きく発展するかもしれません。そして、私たちはもっと優しく、もっと強くなれるかもしれません。

そんな可能性を感じずにはいられませんでした。

テックドクターは、ウェアラブルデバイス等で取得できるモニタリングデータや医療関連データを統合・分析・可視化するデジタルバイオマーカー開発プラットフォーム『SelfBase』と、データによる見守りを実現するウェアラブル・メンタルソリューション『SelfDoc.』を提供するヘルステックスタートアップです。

代表の湊さんは、データやビジネスに触れてきた経験と、ご家族の心身の不調を目の当たりにした経験を経て、人の痛みやつらさをデータで可視化・共有するソリューションの開発を始めました。その中で目指す、「医療の本質」とは?

そのストーリーについて、担当キャピタリストの鈴木と相良が聴きました。

  • デザイン:割石 裕太さん、写真:尾上 恭大さん
  • 聞き手・まとめ:ジェネシア・ベンチャーズ Relationship Manager 吉田

自分にしかできないことを求めて

タカ(鈴木):

湊さんとはサイバーエージェント時代に一緒に働いていた縁もありますし、普段はミナティって呼んでますし、言葉遣いとかもカジュアルな感じでお話しさせてください!

湊:

もちろん。お願いします。

タカ:

じゃあ早速ですけど、湊さんって子どもの頃はどんな感じだったんですか?

湊:

幼少期から、人と違うことをやろうとしていて、少し変わった子どもだったかもしれません。大学時代も社会人になってからも、自分にしか出来ない役割や仕事を求めて、とにかく足掻いていたと思います。
サイバーエージェント時代も、周りからたぶん変わった人だって思われてたよね?

タカ:

100%、変わってる人でしたね。

湊:

じゃあ何で変わってるんだろう?って考えてみたんですけど、まず思いつくこととしては、父親が新聞記者をしていたことですかね。やっぱりいつも言うことが変わってたというか、すごく尖ったことを言うことがあったりして、僕も視点としてそういうところがあったかなと思います。あとは、引っ越しが多かったことも関係してるかもしれないです。自分は人とは違う、ちょっと変わってる方がかっこいい、みたいなことを考えてたかなと。

タカ:

湊さんは麻布高校出身だと思うんですけど、麻布に進学したのはなぜだったんですか?そうした学校の環境の影響もありそうですよね?

湊:

たしかに、麻布の影響もあるかもしれないです。「変なヤツがえらい」みたいな空気がある学校だったので。

タカ:

どんな高校生だったんですか?

湊:

僕は普通でしたよ。バスケ部で、めちゃくちゃ目立つグループでもなく、陰キャな感じでもなく、ちょっと変わったグループだったかな。・・恥ずかしいな。

相良:

今の湊さんを形成する、学生時代に影響を受けたことってあるんですか?

湊:

周りにすごいヤツらがたくさんいたから、ちょっと鬱屈としてたかなと思います。違うところで戦う、戦う場所をずらす、みたいな発想はやっぱりその頃にもあったかなと。

そういう意味で言うと、大学生になってからの経験の方が今に繋がってるかなと思います。いろんなイベントの企画をしたり、一緒にやってたメンバーをまとめようとしたり。当時の僕の中には、社会に出ると本音ってなかなか言いにくくなるんじゃないかって気持ちがあったので、仲間とは例えケンカになったとしても本音でコミュニケーションしようってことをモットーにしてましたね。今思うと、ウザがられたり面倒くさがられたりしてたと思いますけど。あとは、社会学との出会いもありました。その中に「医療社会学」という領域があって、そういった俯瞰的な視点で医療の仕組みを見ることで、何か見出せないかなと考えてました。

相良:

大学は慶応ですよね?

湊:

そうです。本当はSFCか上智の新聞(学部)に行きたかったんですけど。

相良:

やっぱりお父さまの影響があって、ジャーナリズムが気になってたんですか?

湊:

父親の影響というか、「戦場のカメラマン」とか「深夜特急」とか、そういう映画に憧れてたところが大きいかもしれないです。

タカ:

新卒でサイバーエージェントに就職したのは、インターネットに興味があったわけじゃないんですか?さっきの、“本音でぶつかるコミュニケーション”みたいなものができそうな空気だったからですか?

湊:

インターネットへの興味は全然なかったです。大学時代にずっとプレジデント(出版社)でバイトしてたこともあったし、出版社とか新聞社に入りたいと思ってたんですけど、出版業界はこれからどうなるんだろうという気持ちもあったので、悩みました。一方で、サイバーエージェントにはインターネットの勢いというか波というか、ざわざわした感じがあったと思います。

株式会社テックドクター CEO 湊 和修

「社会学」の影響

相良:

ちょっと話を戻しますけど、大学時代に社会学を専攻していたというお話がありましたよね。そこに初めて、今のテックドクターの事業領域でもある「医療」という言葉が含まれた「医療社会学」っていうキーワードが出てきました。このあたりが事業アイデアに繋がった部分があるんですかね?

湊:

今改めて勉強し直してるところでもあるんですけど、社会学ってやっぱり自分の根本になってるなと思います。いろんな産業や事業をつくるとなったときに、最近の起業領域というとWeb3だったりブロックチェーンだったりと領域ごとに捉えがちだと思うんですけど、もう少し引いてみて、「社会の中で何がどういうシステムになっているか」って視点を持つためにはすごくいい学問なんですよね。これはポジショニングトークにもなっちゃうかなと思うんですけど、今後、それこそ哲学者や社会学者が社長になる会社も増えてくるんじゃないかって思ってます。

タカ:

テクノロジーやソリューションをどう社会に適応させていくかって視点ですよね。

湊:

Paypal創業者のピーター・ティールが立ち上げたパランティアというデータカンパニーも、ジャックに指名されてCEOをやっているのはアレックス・カープという哲学者の人で、ああいう、データやテクノロジーを売っていく会社でも、最終的には「社会としてどういう未来を描くか」ってことになってくる。それはやっぱり医療においても、もちろん医師や医療の中の人たちのことがわからないとできないビジネスですけど、根本的には自分たち一人一人の健康に関わることだから、つまりは社会全体の仕組みに関わってきますよね。僕が社会学を学んだのも、そういう視点が好きだったからです。その中に「医療社会学」っていう領域があります。
例えば、女性の生理現象があまり強くない民族や地域があるらしいんですよ。なぜかというと、その社会では女性っていうカテゴリーがあまり明確でないから。それで、生理がなかったりそんなにつらくなかったりするっていう事実があるんです。何でそういう、国や民族によって病気や疾病とされるものが違うんだろうって、すごく興味を持って学んでましたね。社会とか、国や民族とかも含めた俯瞰的な視点は、今後スタートアップにおける考え方の方向性としてもおもしろいんじゃないかと思ってます。

インターネットと出版業界を行き来して

タカ:

サイバーエージェント時代に受けた影響はどうですか?

湊:

やっぱりすごかったです。当時の役員たちって、今考えると20代後半ですよね。そういう年齢で、人が普通では辿り着けない景色を見てたんだろうなって。そういうところは、やっぱり憧れてましたね。もちろんいろんな批判とか非難も受けて、実情は相当苦しかったって藤田さんも本とかで書かれてますけど、でもやっぱり人生においてそういう経験ができるってことは素晴らしいと思いますし、当時は自分が起業することは考えてなかったんですけど、今になって、当時の役員の方々の発言や振る舞いをよく思い出します。

タカ:

少なからず、起業に繋がる影響は受けていたってことですね。

湊:

身近にそういう人たちがいる環境にいたというのは、思い返すと影響はあったと感じます。

相良:

そこにもやっぱり、何か人と違うことをしたいみたいな気持ちもあったんですかね。

湊:

人と同じように生きられなかっただけかもしれないですけどね。

タカ:

湊さんはサイバーエージェントを一度辞めて、出版社に行ってから、また戻ってきましたよね。そのときの気持ちの変化みたいなところを聴いてもいいですか?

湊:

新卒で入ってからサイバーエージェントには一年3ヶ月しかいなかったんですよ。学生時代のバイト先でお世話になった上司が、スピンアウトなんだけど出版社を創業するっていうことで誘われたのが、辞めたきっかけです。サイバーエージェントだと全部で200人くらいいる組織の中の本当に末端だったので、よりアーリーな組織に行ったらもしかしたら違う何かが見えるかもって考えたんだと思います。それで出版社に行ったら、そのうちエスクァイアっていう僕が一番好きな雑誌から声がかかって、次はそちらへ広告営業のマネージャーとして入りました。そこで電通や博報堂の人たちとか、そのときの僕の年齢ではなかなか相手にできない大手のクライアントとかと仕事をさせてもらえたのは、今考えるとすごく大きいですね。広告代理店の人たちが何を考えてるかとか、どうやって仕事をしているかとか、そういうところを間近で見られたので。またサイバーエージェントに戻ったときには、そこが一つの自信になってたかもしれないですね。

タカ:

なぜ戻ったんですか?

湊:

それはもう、敗北と挫折を経験したからですよ。出版業界は当時からすでに縮小を始めていて、営業成績1位とかを取っても、評価や昇給はおろか、上が詰まってるので、やれることは広がらない。仮に個人として120%の努力をしても、伸びている産業であれば140%の成果になるけど、伸びない産業なら80%の成果。そんな現実を身をもって知りました。だから、やっぱり伸びてる産業に関わることがどれだけ大事かを本当に肌身をもって感じましたね。それで、5年半くらいを経てサイバーエージェントに戻りました。

タカ:

2008年でしたっけ。僕は2007年に新卒入社していて、そのタイミングで湊さんと出会いましたね。

湊:

僕の新卒時代の同期は、その頃にはもう役員手前とか事業統括とかの代だったんですけど、僕はまた一からの積み上げでした。でも、あの経験が結果的にはよかったと思ってます。タカの世代とかがまったく先輩扱いしてくれなくて・・まぁでもそれで仲良くなれた部分もあったし、今もこんな風に話せる関係性だもんね。

たぶんインターネットって、2008-2010年くらいからYouTubeとかFacebookが出てきて、そこからが急速におもしろくなったと思うし、まさにその時にメディアの現場でYouTubeとかFacebookとかTwitterの広告営業の担当をしていたのは、楽しかったですね。いろんな人たちとの縁があって、特にFacebookとは強い繋がりができてかなり仲良くさせてもらってたんですけど、その体験も強烈でした。本音を言えば、Facebookでも働いてみたかったね。

タカ:

当時のFacebookに行ってたら、めちゃくちゃおもしろかったでしょうね。

湊:

それこそ映画のソーシャルネットワークも観てたし、マーク・ザッカーバーグの人生って何なんだ!?というか、やっぱり人生においてイノベーションや変化を起こす側になることの価値や重要性を間近で見させてもらったと思います。一人の人間として、ああいうダイナミックさは、その端だけでも掴みたいっていう思いでした。

アカデミアとの交わり

タカ:

その後、サイバーエージェントでは、移動データを扱うジオマーケティングの事業を担当されてましたよね。そこでの経験によって、データで人の行動や人生までもがなんとなく透けて見えてきて、それがおもしろかったと。そして、その感覚が今のテックドクターの事業にも繋がっているというお話を『ヘルステックNIGHT』でも聴きました。そこにご家族のご病気が重なって、データをもっと有効に使えるんじゃないかって発想になったというお話でしたね。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ General Partner 鈴木 隆宏
湊:

そうですね、家族がまず身体の病気になって、それから心も病気になっちゃったんですよね。そのときに、例えば自分や家族の状態をいつでもデータで見られたり、調子の浮き沈みを把握できたりするといいな、みたいな発想が生まれました。心の病気って、本人も家族も本当に大変なんですよね。でも、今の保険のシステムもあって、病院側も一人の患者さんにあんまり多くの時間を使えない。かと言って、抗うつ剤とか睡眠薬を処方されただけでも治る気がしないですよね。心の病気ってやっぱり、一人の患者さんに医師や専門家が向かうには2-3分の診療時間とか短すぎるし、薬を処方しても治せているかがわかりにくい時も多いはずなんです。だから、そこにはもっと時間をかけて、しっかりとサポートする必要がある。でも、そういうソリューションが不足していると感じていました。

タカ:

その後、サイバーエージェントを辞めて、慶応大学の医学部の研究員になったんですよね。そして、そこから起業まで、2年ですか。研究員になるときには起業しようって決めてたんですか?

湊:

研究員になるときにはもう決めてました。ただ、家族のこともあったので、どれくらいしっかりと自分で稼げるかとか、そういう覚悟を決める期間でもあったかなと思います。その覚悟が決まったので、研究員をしながら法人を設立したんですけど、そのときにはまだプロダクトも戦略もなくて、今のテックドクターメンバーにも未だに「よくそのタイミングで・・」って言われますね。

タカ:

起業されてからさらに2年後くらいに、僕たちから投資させていただきました。その前の何回かの壁打ちのときには、事業の方向性は決まったけど、たしかにプロダクトもサービスも何もなくて、どんなものをどう作っていくかっていう構想を膨らませてる最中でしたよね。

湊:

研究員の経験から一つ確信したことが、医学部とかアカデミアの業界にはプロジェクトマネジメントをできる人が本当にいないってことです。あと、データ解析ができる人も全然いないので、そこで絶対マネタイズができるとは思ってました。だから思いきって法人設立もしました。

この、アカデミアにはPMやデータ解析人材がいないって話って、めちゃくちゃいい話じゃないですか?今はITをはじめとした別の業種にいるけどヘルステックに興味を持ってるって人で、そういう仕事をしてた人は、その能力をめちゃくちゃ活かせると思います。僕はプロジェクトマネージャーとして研究員職をもらうことができました。ただ、そうでなくても訪問研究員という方法もほとんどの大学にあると思います。アカデミアの側にまずディープダイブすることは本当に大きいです。研究で使いたいって言うと、大手企業の方でも絶対ポジティブにレスポンスしてくれます。それにやっぱり、アカデミアに貢献することは、ヘルステック関連の領域で仕事をする人には、絶対に必要なスタンスだと思います。

医療とは、“人を気遣うこと”

相良:

そこから起業までや、実際に構想をサービスに落とし込んでいく中ではどんなことを考えてたんですか?

湊:

まずは、今の時代とか日本におけるイノベーションとスタートアップの存在意義って何だろうって、かなり考えました。特に僕みたいにシニアというか、40歳を超えてから起業するような起業家は、考えることが多いんじゃないかなと思います。考えるべきとは言わないですけど、考えざるを得ないと思います。

僕の場合は、「テクノロジー」と「データ」、そして「医療」が自分のキーワードになっていたので、これまでテクノロジーで何ができるようになってきたのか?これからできることは何か?ってことから考えました。テクノロジーは人の楽しいことや自慢なんかを伝えるためには使われてきたけど、一方で、つらいことや悲しいことを共有するためのイノベーションはほとんどなかったどころか、阻害されてきたんじゃないかと。なので、そこにテクノロジーを活用したいと思いました。そして、「医療」です。僕は、医療の根本は“人を気遣うこと”だと考えます。データはそれをサポートできる。テックドクターは「データ診療」という新しい考え方を実現しようとしています。ウェアラブルデバイスのデータのように超長期間に亘って取得できるデータを医療に活かすことで、患者さんは言葉では伝えづらかった痛みやつらさなどを伝えやすくなり、医師はヒアリングの負担が軽減される。患者さんの状態と変化を、相互的に長期間の時間軸で把握できるようになると考えています。僕はデータの力を心底信じてます。データは無機質で冷たいものではなく、一人一人によって見えてくるものが全く違う、日々脈打つ温かいもの。そう考えています。社会システムの歴史を考えても、非同期で成立する医療を活用することによる医療資源の最適化がより一層必要になってくるはず。データはそのために活用する価値があると考えています。

相良:

社会システムの歴史と、医療の非同期。もう少し具体的に教えてください。

湊:

さっきも女性の生理を例に触れた話なんですけど、病気って社会によって変わるものなんですよね。例えば精神疾患って、今だいたい病気の数として280種類くらいあるんですけど、そのうち半分が1980年代に作られたものです。要するに、みんなでお金を作ったり食べ物を作ったりして回っている今の社会の中で、そこに関われない人=病気ってことになっているわけです、そして、病名がついた人に対して医者はその人のプライバシーに少し立ち入って治す行為をするっていう権利を持っていて、病気になった人は社会での労働に参加しない代わりに、病気を治す努力をするっていう役割を持つことになってます。治して、社会に戻らなきゃいけない。社会に適合することが正なんです。社会の“こうあるべき”って姿にはまらない人=病気ってことです。<タルコット・パーソンズの社会システム理論・病人役割からの引用:https://ir.library.osaka-u.ac.jp/repo/ouka/all/27518/cdob_10_001.pdf> つまり、病気が先にあるんじゃなくて、社会の仕組みが先にある。もちろん、病気の性質によってはそうじゃないものもあるんですけど、特に精神疾患というと、完全にそうですね。ADHDとかも、教室でおとなしく座っていられない子=病気にしたわけです。それはつまり、社会が変わっていく中で、医療も変わっていかなきゃいけないということ。今はコロナ禍で、感染病対策もそうだし、リモートワークとかも多くなってるわけだから、やっぱり医療も変わらなくていい理由はないわけです。むしろリソースは感染症の方に使われてるので、それ以外のところでは、医者がリアルタイムで目の前にいなくてもサポートできるようにしていかないと回らないですよね。

株式会社ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager 相良 俊輔

医療データの中に見えるもの

タカ:

コロナ禍を受けて少しずつ変わってきた部分もあると思うんですけど、これから医療をもっと変えていくには何が必要ですかね?長い時間軸で見ると、確実に変わっていくと思うんですよね。テクノロジーとかデータの活用も、大きい流れとしてそちらに向かっていくはず。ただ、それが30年後とか40年後の未来なのか、10年後に当たり前になってるのか。そういう時間軸の問題もあると思うんです。アメリカは比較的早そうですけど、日本では10年後でもそこまで変わってるイメージはなくて。でも、それを短縮するためには何ができるんだろうって、けっこう気になってます。

湊:

質問に真正面から答えるかたちになってないと思うんですけど、医療業界は、例えばアドテクみたいに一気に何かをガーッと変えるっていうよりは、今の仕組みをそのままちょっと斜めに引き上げるような発想でテクノロジーを作っていく必要があると思ってます。そのためには、やっぱりエビデンスの積み上げは必要。僕らは別に、医師をリプレイスするとか言っているわけじゃなくて、むしろ医師や看護師や医療関係者のみなさんをエンハンスする仕組みを考えてるんですよね。そういうアプローチが必要だと思っています。今、2024年には医療業界も他の産業と同等の労働基準を設けるっていう話があるんですけど、そうなると圧倒的に労働力が足りなくなりますよね。だから、患者さんが目の前にいなくてもデータを見られるとか、そういう仕組みが必要だと思ってます。それをやってるのが『SelfBase』です。産業のスピードを速くするためには、データやテクノロジーを「使いやすくする」ことは必須だと思ってます。

タカ:

『SelfBase』は、まずアカデミアとデータを接続しようとしてますよね。今までだとそういう発想すらなかったところに、研究の中でデータを接続することで複層的にエビデンスを溜めていくイメージですよね。

湊:

今は出遅れてますけど、医療を取り巻く状況はコロナ以降でやっぱり大きく変わりました。岸田政権においても「骨太の方針2022」の中で「医療DX」という言葉が使われていて、「医療DX推進本部(仮称)」が総理を議長として設置されることが明言されました。
また、少し話は変わりますけど、世界情勢の変化も大きな出来事だと思ってます。戦争や紛争が起きた時に、当事国それぞれの国民が日々どんな夜を過ごしているのかと考えました。僕らのアルゴリズムでは、ウェアラブルデバイスのデータから様々な解析を行っていますけど、それを使ってお互いのデータとかが見えたら、もっと当事国の国民同士が気遣い合うことも、もっと前にできたんじゃないかとか、そんなことを考えました。
さらに、医療は世界的にデジタル化の真っ只中にいます。米国に先駆けてEU諸国ではDTx(デジタルセラピューティクス|アプリやシステムなどの病気を改善する為のデジタルソリューション)が本格的に医療の一部として検討されていて、すでに保険の対象となるものも増えてきています。
僕らのデータ解析技術は、そういった流れの中でもユニークなものとして価値を認めてもらえることが増えてきたなと思っています。日本の「医療DX」も、そういったところに投資ポイントがあると思います。

タカ:

日本の医療自体はグローバルで見ても進んでますし、そこにデータを組み合わせて先進的な事例が作っていけそうですよね。

湊:

それは間違いないですよね。ドイツでは2020年からDiGAディレクトリっていう仕組みが始まってるんですけど、これまではちゃんと治験をしてエビデンスが得られたものでないと薬やアプリを処方しちゃいけなかったところを、治験してなくても登録できて、医師が望めば処方ができるようになったってものなんですよ。そこは当然、日本の経産省や厚労省も見てるはず。ちょっとしたアプリとかを10年も20年もかけて作る必要はないわけですから、スピーディーにやればいいじゃんって思想なんですよね。それを僕らは「アジャイルな臨床試験」って言ってます。つまり、薬とかの開発に最終的には10年かかるとしても、それまでの過程をアジャイルにリーンに回していく。これまでまさにIT業界がやってきた手法を、医療のソリューションを作るところでもやっていましょうっていう話ですね。もちろん日本もやっていくべきだし、そういうツールを僕らも作っていきたいと思います。

タカ:

テックドクターのサービスはデータのレイヤーですから、グローバルでも展開できますし、しっかり育てていきたいですよね。ウェアラブルデバイスも思った以上に売れてますし、ますます進化してきますからね。

湊:

大げさに言うと、それによって人類は初めて目にしてるんですよ、24時間365日の脈拍や心拍を。今までは病院に行ったときくらいしかわからなかったものを。だから、間違いなくここに何か発見があるはず。

軽やかに、“未来の当たり前”をつくる

相良:

テックドクターは、向坂さんをはじめ、どんな人が多いチームですか?

湊:

「いい人」「真面目」って、よく言われます。面接でも、みんなでやっぱりそこを見てます。採用のとき、「世の中に出す価値にこだわる」ってポイントだけは明確にしてますけど、それ以外はけっこう暗黙知で、でも同じところを見てるかもしれないなと思います。先日ちょうど、入社したばっかりのエンジニアとランチする機会があったんですけど、「皆さん本当に真剣に医療を変えたいって考えてるんですね」って言われました。そういう話題や議論は、やっぱりチーム内でも多いですね。

向坂:

世の中に貢献したいという思いがあったり、新しいことを調べたり試したりしてみたいという、知的好奇心の強い人も多いかもしれないですね。

タカ:

元々医療バックグラウンドのないメンバーの方が多いですよね。テックドクターに入ってから意識づけされていく面も大きいんでしょうね。医療って身近なものなのでイメージしやすい部分もあるかもしれないですけど。我々のチャレンジに共感さえあれば、後から知識がついてくるんですよね。

湊:

あと、チーム内には過去に仕事を休職したことがあるメンバーとかもいるんですけど、結果的にもそうだったってこともありますけど、むしろそういう人はポジティブに採用してます。普通はそういう経験って隠すと思うんですけど、むしろ僕たちはオープンなマインドを持って、自分がそういう経験をしたからこそ何とかしたいって気持ちを活かせるチームでありたいと思ってますね。

タカ:

今後はどんな人に入ってきてもらいたいですか?

湊:

まずはやっぱり、僕自身がデータをめちゃくちゃおもしろいと思ってるので、経験者・未経験者に関わらず、データへの可能性を感じられる人がいいなとは思ってます。未来の組織図みたいな話でいうと、正直まだ30人規模くらいのところまでしかイメージできてないんですけど、それまではやっぱり今のチームの良さをさらに磨きこんでいきたいと思ってます。
チームのキーワードとして明確に考えているのは、「挑戦」と「成長」です。優秀な人が集まって強いチームができるっていうよりは、みんなが日々少しずつ成長することで、強いチームができる。現時点のスキルや能力よりも、新しい領域を切り開こうっていう意欲と成長への覚悟が強いチームがいいですね。スタートアップをやるってことは、まだ誰もやっていないことを証明していくことなので。
あとは、まだいろいろ悩んでるところでもあるんですけど、採用に関して、これも一つ明確に決めてるのは、「人を選ばない」ってことです。その人にとっていい環境を作れるかどうかがすべてだと思ってるので、本人がやりたいことと、それを提供できる環境のマッチングを重視します。

向坂:

雇用形態に関わらず、必ず面接で聞きますもんね。「何がやりたいですか?」って。

湊:

やっぱりその人の人生にとってポジティブな時間を過ごせるかどうかが大事ですよね。正解がある質問じゃないので、今すぐのことじゃなくても、憧れていることとか、何か目指したい目標があるとか、そういうことでもいいんです。50歳とか60歳になって振り返ったときに、あの経験があってよかったな、あの会社で過ごせた時間よかったなって思うのは、給料の金額がどうとかじゃなくて、やっぱりやりたいことができたかだと思うので。

向坂:

湊さんは人生を懸けて何をやりたいですか?

湊:

僕が死ぬときに、どこかの国の誰かに、「おまえがいてよかった」って言われることをやりたいですね。医療っていう領域でのチャレンジが、そこに繋がるといいなって思ってます。そういう意味では、やっぱり多国展開は必須ですね。

タカ:

ソリューションレイヤーのプレイヤーはもうたくさんいますし、そこはもうやれる人に任せるべきだと思っていて、基盤となるデータ×医療とか、そもそものアカデミアとの接続みたいなところは、やれる人が限られているし、そこまでプレイヤーが増えていかないイメージがあります。だから、テックドクターがインフラになれると思うんです。20年後とか30年後、データを使った医療が当たり前になったとき、そのど真ん中にいられるチャレンジですよね。未来の当たり前を今作っている。

湊:

個人的には「インフラ」とか「プラットフォーム」って言葉には権威的なニュアンスを感じてしまって、自分たちがその言葉を使っていいのかなって、正直まだ腹落ちしてない部分はあります。でも、「未来の当たり前」っていうイメージは湧きますね。この前、『Offtopic』で宮武さんがお話しされてておもしろいなと思ったのが、「どんなイノベーションも、Eメールとかですら、最初は“おもちゃ”だって言われる」ってこと。ウェアラブルデバイスから取れるデータも、今はまだおもちゃだって言われていても、むしろポジティブに捉えていて。軽やかにやっていく、そういう感覚が僕は好きですね。

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