
#21 インドVCの熱狂とリアル!巨大市場で“選ばれる投資家”になるための条件【ジェネシア・ベンチャーズ 相良 俊輔】
ジェネシア・ベンチャーズが配信する『Ayo! by Genesia.』は、スタートアップの“挑戦の裏側”に光をあてるPodcastです。プレスリリースなどのオフィシャルな情報だけでは伝えきれない、挑戦のプロセスで生まれる想いや葛藤、そしてリアルな学びを、起業家と投資家、それぞれの視点からお届けします。
「Ayo!」はインドネシア語で「Come on!」「Let’s Go!」という意味。スタートアップのチャレンジをリアルにお届けしていきます💁♂️💁
今回のゲストは、ジェネシア・ベンチャーズのインドオフィスの代表(Country Director of India)の相良です。 モデレーターは、同じくジェネシア・ベンチャーズの水谷が務めます。
さる2026年5月に、約180億円の4号ファンド組成を発表したジェネシア・ベンチャーズ。その投資エリアは引き続き、日本、東南アジア、そしてインドに及びます。相良は、2023年からインド・ベンガルールに駐在し、インドのシードスタートアップへの投資を担当してきました。この約3年の間に彼が実際に目の当たりにし体験してきた、現地のスタートアップやVCの温度感、エコシステムの中での“外国人”投資家としての戦い、そして、大国インドから見た日本の立ち位置などを語ってもらいました。
目次
- 四半期に1件ほどのペースで、数千億円規模のIPOが出ている
- 「時代ガチャ」に当たっている若者がたくさんいる
- 「ツーリストか、ロングタームな投資家か」を見られている
- 良くも悪くも「ジャパンプレミアム」はない

四半期に1件ほどのペースで、数千億円規模のIPOが出ている
水谷: 相良さん、本日はオンラインでの収録となりますが、よろしくお願いします!改めて簡単に自己紹介をお願いできますか?
相良: 改めまして、相良です。キャリアの始まりは、トレジャーデータという、アメリカで日本人が創業したBtoBのクラウドデータ基盤を提供するスタートアップでした。そこで5年半ほど、エンタープライズ向けの営業活動に従事しました。2018年にその会社が、ソフトバンク傘下の半導体設計大手であるArmに買収されたのを機に、元々興味があった投資家側に移ってきました。ジェネシアには2019年の2月に入社して、最初の4年間は東京で水谷さんとも一緒に日本のスタートアップへの投資を担当していました。そして、2023年の7月からインドのベンガルールに移住して、こちらの拠点の立ち上げとスタートアップ投資に従事しています。
水谷: 相良さんと私は同い年で、ジェネシアに入ったのも半年違いぐらいですよね。
相良:ですね!水谷さんが半年先輩になりますね。
水谷:さて、今日は相良さんのいるインドの環境についてお伺いしていきたいと思いますが、インドではVCのファンドレイズは活発に行われているんでしょうか?
相良: 結構アクティブで、頻繁にニュースになっていますね。サイズはまちまちですが、大きなところだとPeak XV Partners(旧セコイア・インディア)など大手VC出身のパートナーが立ち上げるファンドは初号ファンドから$100Mを超えることも珍しくありません。サイズ、ステージ問わず、VCのファンドレイズは活況ですね。
水谷: 日本とはかなり対照的なマーケット環境かと思います。その活況は、一昔前の流動性によるバブルのようにお金が余っているからではなく、しっかりとファンダメンタルでリターンが出ていて、そこにお金がついていっているという構図なのでしょうか?
相良: そうですね。この数年でインド市場が一段階レベルを上げた要因は、やはりEXIT環境が整備されたこと― 特にIPOで大きな流動性のあるEXITが頻繁に出てくるようになったことです。僕がこちらに来た3年前から徐々に盛り上がり始めていましたが、“ケチャップの蓋を開けた”のは『Zomato』というフードデリバリーの最大手です。そこがたしか2020年か21年に数千億円後半のレンジで上場して、初値時価総額では1兆円を超えそうなサイズでした。そこからコロナ禍もあり、オンラインでアクセス可能な数億人単位のユーザーベースがぽこっと出来上がりました。コロナ禍の数年間はある種の“カンブリア爆発”の期間になって、他にユニコーンステータスになったスタートアップも、2021年単体で40社を超えました。BtoC、BtoB問わず。全部が全部今も生き残っているわけではなく、半分ぐらいは苦しいと言われていますが、それでも半分の20社が引き続き数千億円前半、あるいは1,000-1,500億円を超えてくるようなバリュエーションレンジでアクティブに生きています。
加えて、Zomatoに続いて数千億円後半のレンジでIPOをする会社が、四半期に1件、あるいはタイミングによっては毎月のように出てきている状況です。日本だと、10年に1件あるかどうかですよね。去年で言うと、例えば、Tier2-3の都市および下位中間層で結構なシェアを取っている『Meesho』というECを提供する会社が6,000億円程度で上場しましたし、ミレニアル世代向けのデジタルネイティブな資産運用アプリ『Groww』も日本円で1兆円に届くぐらいのバリュエーションで上場しました。そういうことが毎月のように起きているので、本当にダイナミックです。
水谷:数千億円後半規模のIPOが毎月のようにというのは、日本の環境ではなかなかイメージしづらいですね。すごいことです。
相良: エコシステムの最後のミッシングピースと言われていたEXITも、そういう感じで実績が出てきた。なので、投資家はより確信を持ってVCに資金を組み入れてきています。インド株全体のパブリックマーケットは冷えているところですが、VC/PEの中でもグロース銘柄については「これからだよね」という期待値があるので、ガンガンお金が入ってきています。特にインドは、地理的に中東が近かったりヨーロッパまで触手を伸ばせたりするので、インドのVCやスタートアップに投資したいという世界中からのモメンタムは、引き続き強く維持されているかなと思います。
「時代ガチャ」に当たっている若者がたくさんいる
水谷: やはりスケール感が日本とは全く違いますね。間違いなく成長していく巨大なマーケットと、ユーザーのペイン、それから人口全体の若さみたいなところが、そういった期待値を呼んで大きなスタートアップを生み出しているのかなと思います。一方でその分、スタートアップ間、VC間の競争も日本とは比べものにならないのではと想像しますが、一つの有望事業領域に対しての混み合い具合はどうですか?
相良: そこも結構状況が違いますね。日本でもシリアルアントレプレナーの案件に投資家が殺到するようなラウンドはありますが、インドにおいてはその頻度と遭遇回数が桁一つ変わってくる印象です。まず、起業家精神を持った人たちのプールが、日本と比べて圧倒的に多いです。そして、国が伸びるステージにあるということ。noteで「時代ガチャ」という話を書きましたが、まさにそれに完全に当たっている。今このタイミングで20代後半から30代を迎えられている起業家精神旺盛な若者がたくさんいて、その人たちが右を見ても左を見ても同じように起業して切磋琢磨できる人たちがいっぱいいる環境がある。そこにお金も集まってくるし、マーケットもあるし、切磋琢磨できるコミュニティもある。そのあたりが相乗効果として良いモメンタムを生んでいるのかなと思います。
「ツーリストか、ロングタームな投資家か」を見られている
水谷: マーケット環境も良く、野心的な起業家も多い中で、いかに「選ばれるVC」であるかはやはりとても大事かと思います。特に僕らは起業家と最初に接点を持つべきシードVCですし、インド拠点を立ち上げるにあたっては苦労も多かったのではないかと思います。
相良: 日本の感覚からすると「これぐらいでいいよね」と思っていることを、より厳格に、よりつぶさに見ていかないと足元を掬われるなという印象があります。アップサイドがある分、ダウンサイドのリスクもある。そのダウンサイド分のインパクトを、昨年、渡印2-3年目にして痛感する出来事もありました。「ツーリスト投資家」という言葉がありますが、自国に自身のアイデンティティとリソースの大半を置いているような及び腰のスタンスで向き合う市場としては、リスクはそれなりにあるなと。なので、やるならがっつり腰を据えて土着するのが最低条件になるかなと思います。
インド投資を始めるときに、GMOの村松さんやB Dash Venturesの佐藤さんといった先達の投資家の方々にアドバイスをもらいに行きましたが、彼らが口を揃えて言っていたのは、「インドは長期で張るマーケット」「だからこそ入り方のスタンスが何よりも大事」「数年で何かしらの成果を出すことを志向しない」ということでした。
まずは長期で張るというスタンスを持った上で、一定の期待値のコントロールをしながら、創業者をはじめとしたエコシステムの構成員— 起業家の周りにいる起業家や、起業家を卒業したスーパーエンジェル、あるいは他のVCの人たちと関係構築していく。「こいつはただ単にインド市場の旨みを掠め取りに来ている、アドホックでツーリストな外国投資家なのか。それとも、自分たちと同じ目線に立って共にエコシステムを大きくしていこうとしている、長期で腰を据えてこの国に貢献しようとしている、ロングタームの投資家なのか」ということはやっぱり見られていますよね。言葉尻一つとっても、相手に与える印象を意識しながらコミュニケーションするようにしています。外形的に「こういうバリューが提供できます」みたいな整理ももちろん重要ですが、それ以前に、どういうスタンスでこのインドに来たのかという、言語化しきれない要素が土台として大事だと思っています。
水谷: 日本チームと合同の投資委員会に、相良さんは現地時間の朝6時半から参加していますよね。そういった苦労もしながら、拠点を立ち上げてインナーサークルに入っていく過程は本当に大変なのだろうと、折に触れて感じています。
特にインドって、すごく誇り高い国じゃないですか。アジアの大国としての矜持もあるし、いろいろな文化発明の起点だというアイデンティティも強く持っている。そこに対してのリスペクトを持った上で、長期でコミットしていくスタンスを示していくことがすごく大事なんだろうなと思っています。現地でコミュニケーションを取る中で、そういったことを感じられるエピソードはありますか?
相良: インドはまさに「ひとくくりにできない国」です。方言も含めると数千にわたるローカル言語があると言われていて、「1キロ離れれば異なるアクセントを話す人に出会う」くらい、本当に多様な国なんです。その多様性の中には、もちろん人だけでなく、牛やヤギや犬もいます。こちらでは「野良犬」とは呼ばれず、「コミュニティドッグ」と呼ばれます。コミュニティの一員としての犬なので、ドーサやチャパティを食べているところも結構見かけます。
そんな多様な国であるという事実と、一方で、自分たちは一つの国民国家だというビジョンが共存しています。モディ政権が長期安定政権の下でそれを進めてきたことで、GDPが今ほど高くない時代から「我々は他の小国とは違うぞ」という大国思想を持ちながら、一方でプラグマティズムというかリアリズムというか、その時々で取り得る現実的な実利を取ってここまで来た。そしてようやく、心に秘めてきた大国思想みたいなものを公にできる状況にまで機が熟してきたかもしれない、というのがここ数年のことです。多様でコントロールが難しい国だけど、実際に状況として今「大国」というラベルを打ち出せるし、その大義名分によって国をまとめられる局面に来ている。
その状況を活かして政治家や起業家がどうFDI(海外直接投資)を呼び込むかを考えると、「多様です」と言っているだけでは資本は集まらない。だから、インドがいかに一つの国・一つのユナイテッドマーケットとして魅力的であるかを説明しなきゃいけないし、実績も示さなきゃいけない。その中で、全体を包み込むようなナラティブを形成しやすくなってきているのが、この5-10年なのかなと思います。起業家精神や多様性を持った「個」の強さや勢いと、いろいろな課題を孕みながらも「前に進もう」「大国になっていこう」という「国」としての気概。その両方を右目と左目で見ながら日々暮らしている感じですね。
良くも悪くも「ジャパンプレミアム」はない
水谷: 世界屈指の大国としてのプレゼンスが出てきている今のインドの中で、日本や日本企業はどのように受け入れられているのでしょうか?
相良: インドという国が多様であるという前提からすると、日本への見方もまた多様だという結論になりますが、それでは話が終わってしまうので・・
個人的には、インドに来る前まではインドに対して「東南アジアの延長線上」みたいなイメージを持っていたんです。東南アジアの国々って日本をリスペクトしていたり、食文化や見た目、宗教的な価値観が近かったりしますよね。インドもそういった雰囲気なんじゃないかと想像していたんです。でも、実際にこっちに来てみてわかったのは、インド人はそういう見方を全く持っていないということ。アジアの一員であるという自己認識は持っていますが、他のアジア諸国を追いかけている感覚はなくて、歴史的に持ち続けている大国思想や、地政学的にユニークな立ち位置にいる国であることから、いずれの国とも付かず離れず、自分たちにとって実利のある形の関係性を作ろうという構えがあるので、日本も全世界の国々の中の一つ。それ以上でも以下でもない、という見られ方です。「ジャパンプレミアム」みたいなものも、良くも悪くも、ない。あくまで「きれいで、オーガナイズされていて、歴史を持っている、極東にある島国の一つ」。羨望の眼差しで見られるとか、何かしらの下駄を履いているとか、そういう感覚は一切ないです。
でも、裏を返せば、僕にとって「敵の少なさ」を意味しているところもあります。短期的に旨みを得られる市場ではないしリスクもあるので、単純にインドに来る日本企業や日本人が少ないんです。東南アジアと比べると、定着する人が圧倒的に少ない。生活のハードシップを受容する胆力さえあれば、そこにいるだけでネットワークは勝手に広がっていくし、「希少性」が持続するわけです。メリット・デメリットの両方があるかなと思います。
水谷: スタートアップの市場環境が非常に盛り上がっている中で、ツーリスト投資家も多く、日本から来たからといってアドバンテージがあるわけでもない。そんな決して易しいとは言えない環境において、長期で腰を据える覚悟でインナーサークルに入り込んでいる相良さんから、非常に熱い話を聞くことができました。イヤホン越しにスパイスの香りが漂ってきた人もいるんじゃないでしょうか。
相良: いたらいいですね!
水谷: さて、前編はここまでです。次回も引き続き、相良さんとお届けします。ありがとうございました!
相良: ありがとうございました。Ayo!
全編はPodcastでお楽しみください💁♂️💁:
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