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【創業の軌跡】Vol.7 LayerX/福島 良典

PODCAST

第一線で活躍している起業家の創業前後からPMF辺りまでのお話を伺う「創業の軌跡」。第7回目となる今回は、LayerX創業者の福島さんにご出演いただきました。本稿は要約版になりますので、フルver.についてはぜひPodcastで聞いてみてください。

出演者
・LayerX/福島良典
・ジェネシア・ベンチャーズ/鈴木隆宏一戸将未

自己紹介

一戸:

福島さん、簡単に自己紹介をお願いできますか。

福島:

LayerXの福島です。もともとのキャリアでいいますと、大学で、今でいうAIのようなものを研究していました。今はパーソナライズされるニュースが当たり前になりましたが、当時は新聞がメジャーな媒体でした。そこでは皆が同じ1面を見ているということに疑問を持ち、そのときの大学の同級生と一緒にML(機械学習)の技術を使ってサービスを立ち上げました。当時は会社としてはではなく個人として立ち上げていましたが、サービスが伸びに伸びていよいよ会社化しないとサーバー代が払えない状態になり、2012年にGunosyという会社を立ち上げて、2015年に東証マザーズに上場しました。Gunosyは2019年まで取締役として在籍していました。金融など、まだなかなかデジタル化されていない一方でデジタル化されると日本で非常にインパクトがあるところのデジタル化を行ってみたいという思いが非常に強くなって、2018年にLayerX(当時はGunosyの小会社)という会社を立ち上げました。2019年にMBOを行い、2社目の起業という経歴になっています。

一戸:

LayerXはいくつか事業を運営されていると思いますが、どのような事業を運営されているかご紹介いただけますか。

福島:

三つの事業を行っています。一つ目がSaaSの事業で、請求書SaaSの「バクラク」というシリーズを提供しています。二つ目が金融DXを大企業と共同して行う事業です。三井物産様らとの大企業と一緒に合弁会社をつくって、アセットマネジメント会社を完全にデジタルにつくり直そうというものです。アセットマネジメント会社というとなかなかイメージが湧かないかもしれません。不動産やインフラアセットを対象としたファンド業務を行っています。ファンドの業務の課題はアナログ業務の多さです。そこをデジタルにして、少人数でより多くのアセットを効率よく扱えるようにしたら、もっと低い手数料でファンド運営ができるようになります。そういった事業を大企業と共同で取り組んでいます。三つ目が、Privacy Techの領域で、データの権利、プライバシーの権利のようなものをWebで守ろうという流れがあります。少人数のチームで事業を立ち上げています。

一戸:

急速に事業を成長させられていると思いますが、今の組織としては何人くらいいらっしゃいますか。

福島:

現在(2021年12月22日時点)、正社員の数でいうと56名ですが、内定者の数まで含めると80名ほどです。

カジュアルに起業しよう

一戸:

もともとGunosy、それからLayerXを立ち上げられていますが、福島さんの中で起業に対する思いはどのタイミングでどのように芽生えたのですか。

福島:

もともとずっと興味はありましたが、最初に起業したときは、まさか自分がこのようなタイミングでするとはという感じで起業しました。起業に対する思いというのは、僕はお手軽な発想ですればいいのではないかというスタンスで向き合っています。起業するからには周りもたくさん巻き込むので、誰にも後ろ指を指されることがないくらいコミットして、うまくいこうが失敗しようがこれだけやり切ったということをする前提の上で、気軽に始めるものだと個人的には思っています。何かアイデアがあって、プロダクトがあって、それが正しいと思っているなら、顧客に問うてみようということです。僕自身振り返ってみると起業というものに対してそれほど重く考えないということ自体が、非常にプラスに作用していたと思っています。カジュアルに起業しようということです。

顧客との近さがスタートアップの強み

一戸:

以前、福島さんが「LayerXはブロックチェーンの会社じゃありません」というnoteを出されていましたが、もともとLayerXを立ち上げたときのビジョンと今のビジョンとでは変化はありますか。

福島:

実は、ビジョンは変わっていません。2回目の起業をするときに考えたのが、せっかくするなら、日本ないしはこの世界に対して非常にインパクトが残る事業がしたいと思いました。そう思ったときに、軸が二つあって、一つはグローバルに挑戦するC向けのプロダクトをつくってみたいという思いでした。もう一つの軸は日本の「重い」産業をデジタル化しようというものです。結果的にその2つの軸で悩み、日本の「重い」産業をデジタル化する会社を作ろうと決めました。グローバルなC向けプロダクトはつくるのが結構難しく、正直なところ、経営経験などよりも運の要素も大きいと思うくらいですが、自分は全くそこに強みがなかったので、むしろ自分の経験を生かして日本の重い産業をデジタル化しようと思いました。
 日本の課題は何かと俯瞰して見たときに、一つはホワイトカラーの生産性の低さ、もう一つは金融の生産性の低さ、つまり、お金が眠っていて、なかなかデジタルにお金が流れないことだと思いました。日本は人口が減っていく国なので、生産性の向上が急務です。一方日本では人口が減っていくにも関わらず「マンパワー」で解決しようとするアプローチが多いと感じていました。そこをソフトウェアを活用し生産性をあげようというアプローチです。こういった領域では中国やアメリカなどのの海外事例を見ていて大きなギャップを感じていたので、ここはやはりチャンスがあるのではないかと思って、あまりプロダクトなどを細かく考えるのではなく、この軸で何か旗揚げしようという感じでビジョンを決めました。それが「すべての経済活動を、デジタル化する。」というもので、実はそこはずっと変わっていません。

一戸:

福島さんは起業アイデアやその領域を決めるに当たってなにか特別に行ったことはありましたか。

福島:

特別なことは何もしていませんが、もし自分がゼロから起業するならこのようなビジネスを行ってみたいということは日頃から考えています。ただ、解像度は非常に低いです。やはりどれほどたくさんニュースを読もうが、プロダクトを出して顧客と向き合う1分1秒に勝てないと思います。外から見えることは、その事業の本質の1%くらいだと思います。ただ、その1%でもすごいマーケットなのか、すごいプロダクトなのか評価はできます。だから投資は成り立つと思いますが、投資と事業は全く別です。ですので、マーケットを見るときは投資家視点で見ていて、ただ、事業をするとなったらディープダイブしないと解像度は上がらないです。

鈴木:

GunosyもLayerXもユーザーと向き合うというところに強いこだわりを感じますが、それは事業を通じてそのようになっていったのですか。

福島:

はい。特に私自身の体験からというものが大きいです。僕が起業したときは24歳の至って普通の学生でした。客観的に見て、何も強みがありません。何かビジネスをしていたわけでもなく、技術といっても、もちろんMLの研究はしていましたが、ソフトウェアエンジニアとしての経験はまだまだでした。その中でなぜユーザーに支持されてきたのかというと、顧客と近くて、自分たちが持っている情報がたくさんあったということです。どれほど頭がいい人でどれほど優秀な人でも外から見てるだけでは分からない深い事実があります。顧客と接点を持つことによって初めて自分たちだけがその事実、真の顧客のニーズを知ります。本質的には、そこだけがスタートアップの強みだと僕は思っています。ですので、顧客がどのような課題を持っているのか、なぜ他のサービスではなくうちを選んでくれたのか、なぜここにこれだけのお金を落としてくれるのか、時間を費やしてくれるのかということを突き詰めて考えることが、僕は非常に大事だと思います。

初期の仮説検証

一戸:

最初に解像度が粗い状態から、いかに課題の仮説を構築して検証していくのか、その辺りはどのように進めていったかをお伺いしてもいいですか。

福島:

LayerXでは最初はブロックチェーン版のPKSHA Technology(以下PKSHA)をつくろうと思っていました。PKSHAはコンサル事業で大企業と接点を持ちながらAIのPOCを受けていき、それが成功するとシステムが導入されてストック売上になります。そのストック売上の中にも共通性があって、その共通性を抜き出していって、SaaSとまではいわないまでも、共通となるモジュールのようなものを作り出しスケールしていくといったビジネスです。当時(Gunosyの経営時)、僕はC向けで地道にデータを集めるということを行っていた一方で、PKSHAは全く同じくらいのタイミングで大企業側のMLのニーズを取りにいっていたのですが、データや実際のユーザーニーズを見ながらプロダクトを立ち上げていくという方法がとてもうまいと思っていました。ブロックチェーンで事業を立ち上げるのはその方法がいいのではないかというのが最初の仮説で、結局それは間違いでしたが、そのようなものを検証していました。
 何が間違いだったかを話すと、シンプルでもあり深い話でもありますが、アルゴリズム系のモジュールは一部分を置き換えるもので、ブロックチェーン系のプロダクトは全体を置き換えるものだったという違いです。どちらかというとインフラに近いもので、複数企業が一緒になって置き換えないと効果が出ません。POCの成功が必ずしもストック売上につながらないという構造が正直かなりつらかったです。ただ、間違いなくそこにニーズはあったので、そこに対してプロダクトを当て込みにいったというのがLayerXでの事業の進め方でした。

一戸:

福島さんも発信されていましたが、デジタル化にはいくつかのフェーズが存在する中で、目指すことは究極的には変わらない一方、日本の社会においてはそのデジタル化のフェーズがあまりにも手前だったため、ブロックチェーンより先に行わなければいけないことがあるというので、ブロックチェーンから今の事業に移り変わっていった形ですか。

福島:

社内の意思決定の実態で行くと少し違うものでした。僕らのように技術屋さんや○○ベンダーという形で入ると課題解決の選択肢が実に狭い一方、プロダクトという形で入ると課題解決の自由度が高いので、プロダクト型に振ろうという意思決定をしたというのが実態に近いです。僕らがやりたかったことは、「〇〇という技術」を導入するということではなく、企業のDXをお手伝いする、顧客の本当の課題を解決するということでした。一方で〇〇ベンダーという形でんビジネスを進めると「なぜ〇〇という技術を使うのか」ということを問われます。ともすると「いやそこは〇〇を使わずにこう解決したほうが」というケースの際〇〇はつかわずにやりましょうと提案すると、「〇〇」という技術を使わないのであればLayerXには発注できないみたいな事が起こっています。当時、プロジェクトを進めるためにCTOはコードを書くより説明資料(なぜブロックチェーンを使うのか)を作っている時間が長かったりして、どう考えても不健全でした。デジタル化のフェーズやブロックチェーンが早い遅いというよりは、実はビジネスモデルとやりたいことのフィットのさせ方がずれていて、そこをプロダクト型にすることで直していきました。

SaaS+Fintechから逆算したサービス設計

一戸:

その中で、バクラクを始めとするプロダクトがどんどん開発されていったかと思います。バクラクの特徴の一つとしては、請求書の発行側ではなく受領側に特化していることかと思いますが、受領側に特化した理由をお伺いしてもいいですか。

福島:

発行側のサービスはたくさんあります。一方で、受領側はどの会社もデジタル化できていませんでした。請求書を送るという行為は、例えば自社のデータをPDFに落とすという行為です。請求書を受領するという行為は、数多ある取引先が作ったPDFを一つのデータにまとめていくという行為で、各社フォーマットがばらばらなため非常に難しい課題です。今までなかった理由は、シンプルに、これに対応するのが非常に難しいためです。ですので、技術的な障壁も高かったし、業務に入り込みデータがたまっていくプレイヤーがどんどん強くなるという性質があるので、参入障壁も高く、簡単にまねできなさそうで課題が大きいと思ったことが受領側に特化した理由です。
 あと、今後ソフトウエアでどのようなレイヤーの業務を押さえるべきかというと、データの流れとお金の流れの二つを押さえるべきだと思っています。請求書の受領サービスは、データの流れをキャッチしていますが、実はお金の流れもキャッチしています。なぜなら請求書を受けり、会計処理をしたら、必ずその後お金を支払うからです。ですので、SaaSとしてのポジショニングも非常に強いものにできるし、その結果、金融の領域でも非常にシームレスなUXのいいサービスがつくれます。アメリカや中国を見ていても、請求書受領のプレイヤーがどんどんFintech領域に進出して、いわゆるネオバンクといわれるような存在になっていっていますが、請求書発行のプレイヤーがそうなっていることはありません。

一戸:

SaaS+Fintechという姿から逆算して受領側を押さえるべきということですね。

福島:

そうです。僕らの初期のビジョンが非常に良かったと思っていて、ブロックチェーンを通じて行いたかったこと、つまり、お金の流れとデータの流れを混ぜ込むことで非常にいいUXがつくれるというところが僕らのビジネス発想の原点です。だから、事業がある程度進んだ今は必ずしもそうではないですが、事業立ち上げ時に請求書発行から始めようという議論はそもそもおこらなかったです。

特定のセグメントにフォーカスする

一戸:

LayerXのプレスリリースを拝見していて、バクラクがFreeeとの連携に注力していることが一つの特徴かと思いますが、初期からいろいろなサービスと連携するのか、一方で、一つのサービスとの連携に注力するのかは、一つの大きな意思決定だと思っています。いろいろなサービスと連携することで、それだけターゲットの社数が拡大しますが、一つのサービスとの連携に注力することで、そこのUXを最大化できるメリットもあると思います。その辺りの意思決定はどのように行われましたか。

福島:

少し語弊があるので解説します。我々はFreeeさんとだけ連携しているわけではなく様々な会計ソフトへの連携を実現しています。その中で初期に注力していたのは事実で、これは戦略的というよりは割と行き当たりばったりでした。立ち上げ当初は全然受注が取れずに焦っていた中で、僕らのサービスの本質はシームレスな体験にあると思い、まずAPIを積極的に広げているFreeeさんとの連携を優先度を高めて実装していきました。
 今は状況が変わっていて、例えば勘定奉行さんともFreeeさんと同じレベルで連携しています。PCA会計さんともそのようなことを行っています。お客様の中でのクラウド会計のシェアはまだ高いですが、時間がたつにつれて市場全体の会計ソフトのシェアに近づいていっています。最初のアハ体験でいうと、ボタン一つで仕分けが連携されるとか、マスターデータを引き抜けるというのもので、それが行いやすかったため初期はFreeeさんとの連携にフォーカスしました。
 当初は焦っていたのでやみくもに広げるという考え方もしていましたが、お客さんが使っている会計ソフトもばらばらで、契約が決まりませんでした。フォーカスしたほうがいいという考えは確かにありましたが、それが怖いことだと思っていました。ただ、逆にフォーカスして深い体験をつくった結果、その事例を見た他のお客さんが興味をもつというサイクルが回り始めたのを見て、フォーカスすることはいいことだとあらためて実感しました。

“最適なタイミング”は最適ではない

一戸:

福島さんのインタビュー記事を読んでいて目に留まったところがあるのですが、「課題にフィットするソリューションを最速で作り込む」というのと、「最適なタイミングでアクセルを踏む」という2点が、特にシード期やシリーズA前後では重要というお話をされていて、特に「最適なタイミングでアクセルを踏む」ことは難しいと思っています。というのは、「課題にフィットするソリューションを最速で作り込む」というのは向き合い方の話だと思いますが、アクセルを踏むというのは、経営のセンスのようなところもあるのではないかと思っていて、LayerXにおいて「最適なタイミングでアクセルを踏む」ためにどのようなことを意識されていましたか。

福島:

定性的な感覚ですが、意思決定を振り返ったときに、早過ぎることで後悔したことはなく、遅過ぎることで後悔したことのほうが多いです。例えば、この人はまだ採用するのは早いから見送ったほうがいいとなったときに、2カ月後にその人が必要だと思っているというケースが結構あります。ただ、そのときの自分からするとリスクが高い意思決定にも見えるのです。このような意思決定の時間軸のギャップを理解することが大事です。
 また、自分がそのとき「最適だ」と思うタイミングは実際にはもう遅い(=最適ではない)ということを非常に意識しています。ベンチャーは3ヵ月で劇的に状況が変わります。
3ヵ月後を想像して、例えばこの人を採用したときのリスクと3ヵ月後にこれができているということを天秤に掛けたときに、小さいことを怖がっていることが多いです。してもらう仕事がないのではないかという心配があったとしても、なかったら他のことをしてもらえばいいわけです。それは採用の話ですが、それが広告費を踏むかとかプロダクトのローンチのタイミングをいつにするかとか、そのようなことは自分が最適だと思う2、3ヵ月前、下手したら1年前くらいから行っておかないと結果として遅過ぎたということが多々あったと思います。

鈴木:

支援先を見ていても、資金調達後に採用しようとするというところが多かったりします。そうすると、調達したのに人がいないから結局プランを実行できなくなってしまうので、僕は、半年後や1年後の組織図を常にアップデートしながら早めに採用するという話をよくしています。

福島:

LayerXも同じで、3カ月後や半年後、1.5年後などの組織図をつくっています。基本的にはそれを基準に意思決定をしています。今の形を基準にして意思決定するほど間違っていることはありません。理想から逆算して、必要であればお金を集めてくればいいし、顧客のリード数が足りないときはリード数が足りるように施策を考えていく。そうしないとベンチャーは成長していかないと思います。
 また、「最適なタイミングでアクセルを踏む」というのはそもそもその意思決定自体が最適ではないと僕は思っています。よくスタートアップでは「PMFしてから踏もう」と言いますが、逆です。「踏んだ結果PMF」します。踏まないと、いろいろな顧客に当たれないし深い課題に当たれません。
 先に踏んで、後から実はPMFしていたということが分かる。ないしはPMFするように改善しまくる。踏んだ結果うーんこれはまずいとなってどうするかを考えるという状態が、一番サービスとか組織が伸びるタイミングだと思っているので、常にそこは意識しています。ですので、社内では、「福島さん、また何か言ってるよ、時期がはやすぎるんじゃないのそれ」というようなことをずっと言い続けていると思います。半分くらいは外れると思いますが、半分くらいはあのタイミングやっておいてよかったねくらいの打率でいいので言い続けるようにしています。それが僕の仕事です。

トップ人材を超真剣に採用できているか

一戸:

次に組織についてお伺いしていければと思いますが、LayerXにおける特に最初の10名の採用や組織構築で意識していたことはありましたか。

福島:

キーパーソンから採用していくということはかなり意識しています。例えば、HRであれば、日本で一番のCHROである石黒さんを採用しようとか、エンジニアリングのところで、僕が日本一のCTOだと思っている松本さんを採用しにいくとか、そのようなことを意識していました。トップの人材から採用しにいくということです。

一戸:

福島さんがトップ人材を採用するにあたって意識していることはありますか。

福島:

一つはまずリアリティを持って声を掛けることです。実際LayerXでも入社してくれた方の100倍くらいの人に声を掛けています。これは本当に大事だと思っています。皆さん意外と声を掛けません。石黒さんが辞めたときに、真面目にオファーした会社が何社あったでしょうか。多分、引く手あまただったと思いますが、彼がその気になるような超真剣なオファーをパンと出した会社は何社あったでしょうか。リアリティーを持って、その人の気持ちになって、これだったらLayerXに入るほうが面白そうだなと思えるほどのオファーを超真剣に考えて出しているかというと、ほとんどの経営者はそれができていないと個人的には思います。

意思決定の背景を伝え続ける姿勢

一戸:

次に、冒頭でもあった、「LayerXはブロックチェーンの会社じゃありません」といったタイミングがあると思いますが、もともとはブロックチェーンを前面に押し出してLayerXを経営されてきたと思うので、逆にブロックチェーンの会社ではないということの難しさが非常にあったと思います。個人的に気になっていることとしては、いかにメンバーに会社に残ってもらうかというところ、つまり、メンバーに残ってもらうためにどのようなことをしたのかをお伺いしたいと思っていますが、この辺りはいかがでしょうか。

福島:

まさにそのポイントは、悩んだところ、不安に思っていたところです。二つあって、一つはド直球に伝えたということです。まず、経営合宿で経営陣で話してブロックチェーンベンダーを辞めようと決めました。そして、それをそのまま率直にメンバーにも話しました。このような理由でこのように考えていて、このようなことが起こっていると、ド直球に話したのですが、それが、メンバーが持っている感覚と非常に近かったから、残ってくれたのだと思います。
 もう一つは常に頃からそういったスタンスの発信をしていたということです。僕はそのようなド直球な発信を毎週行っています。週次定例という形で、15分か20分の時間を取って、「今事業をこう考えている。最近このようなことを思っている。」ということをド直球で話す場をつくり、意思決定に関しても「なぜそう決めたか」を共有します。意思決定を、「こう決めました」と伝えるのではなく、「なぜこう考えているか?、どういうプリンシパルに基づいて決めているか?」を伝えることが大事です。常日頃から経営陣がオープンにそういった話をするようにしているため、メンバーと考えていることがそれほどずれていないという状態をつくれたと思います。
 まとめると、テクニカルには、意思決定だけではなく、意思決定の背景も話しましょうということが答えになりますが、重要なのはその裏にある姿勢だと思っています。常日頃からメンバーに、なぜこう決めたかを知ってほしい、知った上で納得して動いてほしいと、僕は思っています。その情報のオープンさや意思決定のフェアネスさを常日頃から意識することが、ずれの少なさにつながると思います。
 また、僕自身、社内でいろいろなフィードバックをもらっています。そのような姿勢でいることが大事だと思いますし、実際、FBをうけて僕が行動を変えることもあります。そのようなところをメンバーは見てくれていると思っています。「福島さんはきちんと考えて意見を受け止めて、悪いと思ったら謝るし行動を変えてくれる」という信頼が非常に大事だと思います。その信頼がない経営者は、多分もう何もフィードバックしてもらえなくなると思います。「何か言ってる。従っておけばいい。」という感じになったら終わりで、裸の王様です。

鈴木:

世の中の変化も含めて、以前よりどんどん早くなっているから、一度成功したということはあまり使えないと日頃から感じています。経営者が自ら変化し続けられる組織が、結果的に組織として変化し続けられると感じています。

LayerXの転換点

一戸:

次にファイナンス面についてお伺いします。LayerXは初回ラウンドでかなり大型の調達をされたと思いますが、その大型調達をした背景を教えてください。

福島:

当時のブロックチェーンコンサルのタイミングでは数字自体は非常によく出ていたので、単なるシリアルだからという以上の調達ができそうだという手応えがありました。また、長い将来を見たときに、自分たちでプロダクトを出していくなどのリスクを取るという選択肢も考えていたので、自分たちの過去のトラックレコードを最大限にレバレッジをかけて調達しようと決めました。
 それくらいの高いバリエーションで調達しても十分にリターンを返せるという自信があった上で、また、そこにコミットしますという強い気迫を持った上で大型調達しました。このラウンドで投資してくたVCはとにかく「人」を信じて投資してくれたのだと思います。本当に頭が上がりません。もちろんもっと小さめのラウンドにすることもできましたが、結果的に、大型調達をしたことによってかなり大胆なプロダクトの転換もできたので、結果として戦略の選択肢が相当広がったと思います。それを振り返ると、LayerXの大きな転換点の一つだったと思います。

誰をライバルと思い、努力しているか

一戸:

最後に、福島さん個人についてお伺いできればと思いますが、福島さんが経営のセンスを磨いたり視座を高めたりするために普段意識していることを教えてください。

福島:

視座の高め方は、どこまでの人をライバルと思えるかということだと思います。例えば、ソフトバンクの孫正義さんなどは本当に偉大な経営者だと思いますが、私自身はまだ未熟なため彼をライバルとは思えません。ですが、別の起業家だとライバルだと思えます。そこが自分の持っている視座の最高点だと思います。ですので、今の日本の起業家の頂点は孫さんやメルカリの山田さん、GREEの田中さん、DeNAの南場さん、サイバーエージェントの藤田さん、リクルートの出木場さんなどと思いますが、その人たちをライバルと思えるかどうかに尽きると思います。
 「ライバルと思う」と口で言うのは簡単ですが、本当に心の底から勝てると思ってそれにふさわしい行動をしているか、リスクを取っているかという問いに、曇りなくイエスと言える人は僕はかなり少ないと思っています。口では「ライバルは孫さんです」といっても本当にそこに到達するような行動が取れていなければ僕は無意味だと思います。例えば僕自身も正直なところ、孫さんのような起業家をまだライバルとは思えていません。ただ、ステップを踏むことや、身近だけど超成功した人がいるコミュニティをたくさん持てることは非常に大事です。
 時価総額が全てではないと思いつつも、グローバルを目指すかそうでないか、1兆円を目指すか1000億円を目指すか100億円を目指すかで、事業の組み立て方やリスクの取り方、集めるべき人材や組織の在り方などが根本的に違うと思います。センスは結局その過程で磨かれるものだと思うので、目標を高く置いて、本当に自分がそうなれると思って、そこに対するふわさしい行動や努力、リスクテイクをできているかということです。そうすれば、おのずとセンスは磨かれるし視座も上がっていくと思います。

次回のゲストとお知らせ

次回のゲストは福島さんにご紹介いただいたツクルバ創業者の村上さんです。皆さん、ぜひ楽しみにしていてください。

また、LayerXは現在積極的に採用活動を行っております。ご興味のある方はぜひこちらからチェックしてみてください。

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