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事業のネタ帳 #34 Verticalサービス × コンパウンドスタートアップ

IDEA

ジェネシア・ベンチャーズのキャピタリストで継続的に発信をしている【事業のネタ帳】シリーズですが、引き続き、個人的に考えを深め続けたいテーマとしての「Verticalの未来」に関して、「Verticalサービスの進化と深化」として僕が主戦場としている新興国スタートアップの具体的な事例を交えて紹介していきたいと思います。
皆様の事業を考える際の思考の補助線となれば嬉しいです。

「事業のネタ帳」のバックナンバー(#1から#32)はこちら

目次

  1. 何故、新興国スタートアップを取り上げるのか?
  2. コンパウンドスタートアップと
    コンパウンドスタートアップの特徴
  3. Verticalサービスとしてコンパウンドスタートアップをどのように捉えるか?
    フォーカスすべきデータは何か?
    フォーカスするデータ以外に創業時のスタートアップが意識するべきポイント
  4. 新興国スタートアップはコンパウンドスタートアップが多い
    Sinbad -サプライチェーンの効率化-
    BukuWarung -SMEsのエンパワメント-
    Logisly -物流事業者のマッチング・効率化-
  5. 終わりに

何故、新興国スタートアップを取り上げるのか?

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進化の過程を飛ばしたLeapFrogな成長

何故、新興国スタートアップの事例か、と言うと日本では既存産業のデジタルトランスフォームが進行しているが、既存産業とのカニバリゼーションが発生してしまうこともあり、歩みが遅くなってしまっている一方で、新興国では既存産業がオペレーション含めて未成熟な分、デジタルを基盤として基幹産業がスピーディーに立ち上がっており、結果として、LeapFrogな成長が実現している為、日本のスタートアップにおいても何かしらの思考の補助線となるようなヒントが多いようにも考えているからです。

コンパウンドスタートアップとは

皆さま、コンパウンドスタートアップと言う言葉は聞いたことありますか?
今回は、まだあまり聞き慣れないコンパウンドスタートアップをベースに「Verticalサービスの進化と深化」と絡めて考えて行きたいと思います。

コンパウンドスタートアップとは、米国のスタートアップRippling CEO Parker Conradが提唱するスタートアップの新たな競争戦略となります。
彼は、別のユニコーン企業でもあるZenefitsの元CEOであり、Zenefitsでの失敗の経験を元に、Rippplingを創業。
現在は、コンパウンドスタートアップという従来のセオリーとは異なるやり方で大成功を収めています。

詳細の説明は、私がするよりも、2022年12月に公開された素晴らしいnoteを公開されているLayerX福島さん、そしてAll Star Saas Fundの神前さんから引用させて頂ければと思います。
まだ読まれていない方は必読な記事となっています。

コンパウンドスタートアップというLayerXの挑戦|note

SaaS新世代の野望〜コンパウンドスタートアップと戦略的ポジショニング〜|note

コンパウンドスタートアップの特徴

コンパウンドスタートアップの特徴に関しては、Layer X福島さんのnoteが非常に分かりやすく整理されていたので引用させて頂きます。

単一プロダクト(focus startup)ではなく複数プロダクト(compound startup)を意図的に運営
→ Ripplingでは直近1年で5-7のプロダクトをローンチ

focusすべきは何のデータを中心に考えるか
→ Ripplingの場合は従業員データを中心にサービス群を構築。HRのみにターゲットを絞らない

部門間で発生する負の体験を、複数プロダクトの連携性で解消
→ Ripplingでは従業員データを中心にHRサービスとITサービスを繋ぐ。ワークフローやダッシュボード、アナリティクス、アラート、権限設定などが肝

複数プロダクトを出すことで成長が加速
→ Ripplingでは単品プロダクトよりも複数プロダクトを出していることで成長が加速。新規プロダクトのARR $1M → $5Mに到達する速度が上がっている。

複数のプロダクトを運営できる組織構造
→ Ripplingでは従業員の約10%は創業経験のある元起業家である。複数プロダクトを効率よく開発するための、ミドルウェア開発に投資。長い開発期間に耐えられるようにシードで$7M, シリーズAで$45Mを調達。

コンパウンドスタートアップというLayerXの挑戦

Verticalサービスとしてコンパウンドスタートアップをどのように捉えるか?

フォーカスすべきデータは何か?

私自身は、これまで何度か書いてきた「事業のネタ帳」を通じて以下のコメントを繰り返し発信してきました。

1.業務コストの効率化 = SaaS的なアプローチ
2.取引コストの効率化 = EC/マーケットプレイス的なアプローチ

事業のネタ帳 #6 HorizontalからVerticalへ。そしてVerticalの未来。

顧客セグメントや産業によって異なる中で、融合していく未来を考えた際に大事な視点の一つが
・どのように参入することで面を広く(かつ素早く)取れるか?
であり、その上で山の登り口を検討していくのが良いと考えています。

事業のネタ帳 #6 HorizontalからVerticalへ。そしてVerticalの未来。

また福島さんがまとめられていた「コンパウンドスタートアップの特徴」の中で、どれも重要なのですが事業の勝ち筋を見出す、と言う意味では「focusすべきは何のデータを中心に考えるか」が重要であると考えています。

なお私自身、今は無くなってしまいましたがTechCrunch Japanの年末年始企画である○○年の展望的な寄稿で2017年頃から以下のようなことを提唱し続けており

個人的には、広義の意味で【“あるデータ”が一定閾値を超えると、 加速度的に価値が高まる。そんなデータを収集&活用出来るプラットフォーム】をあらゆる産業分野で注目しています。

事業のネタ帳 #13 Verticalサービスの進化と深化 Vol.1

この価値が出てくるである”あるデータ”こそFocusすべきデータであると考えています。

またAll Star SaaS Fund神前さんのnoteでも関連して以下の言及をしており、私自身としても非常に重要であると考えていたところでもあり紹介させてください。

Vertical SaaSだからといって複数プロダクトを重ねていけばよいわけではありません。クリティカルに重要なのは、お客様の業務フローにおける主要なコントロールポイントを特定し、 そのデータベースを握ることだと考えます。コンパウンドスタートアップの思想と「単なるマルチプロダクト」の分水嶺はここにあると考えています。

SaaS新世代の野望〜コンパウンドスタートアップと戦略的ポジショニング〜

フォーカスするデータ以外に創業時のスタートアップが意識するべきポイント

スタートアップの立ち上げセオリーとして「まずは一つのプロダクトで突き抜けて、その後、横展開をしていくのが良い」とされています。

一方で、個人的に考えるVerticalサービス(特にVertical SaaSの場合)は、単一ソリューションを提供したとしても、そもそも価値を発揮することが難しいと感じています。また、特定産業の課題を解決するSaaSとなると、TAMの制約も出てくる為、最終形態としては、All-in-oneや複数のプロダクトを展開の必要性が高いビジネスであると考えています。

そう考えるとやはりフォーカスするデータを主軸にコアとなる価値を磨き込むことが結果として事業のMOATを築いていくものだと考えてます。

その上で、コンパウンドスタートアップを作る上で創業期の起業家・経営チームにとって重要だと感じているのが

・経営チームとして初期から複数プロダクトを創ることの覚悟を持つ
・複数プロダクトを創る前提で組織作りを行う

そもそも単一プロダクトを成功させることすら難しいので、コンパウンドスタートアップはめちゃくちゃ立ち上げ、スケールの難易度が高い戦略だと考えています。

一方で、将来的に複数プロダクトを創るつもりと漠然と考えている場合と、初期から複数プロダクトを創るんだと覚悟を持って組織設計を行う、のとでは、全然違う組織が出来上がると考えています。

LayerX福島さんのこの言葉にもとても共感しました。

稚拙ながら私なりの考えでは、そもそも会社の創業期から「この会社はいろんな事業を作っていく」という前提で文化を作る。それを支える人材採用の戦略、組織制度づくり、そして資本政策に取むことが、そういった見えない引力に縛られない一つの解決策だと思います。それがコンパウンドスタートアップという考え方だと思います。

コンパウンドスタートアップというLayerXの挑戦

新興国スタートアップはコンパウンドスタートアップが多い

これまで複数回に渡って「事業のネタ帳」として「Verticalサービスの進化と深化」で紹介している新興国スタートアップは、まさにコンパウンドスタートアップと言えると感じています。

改めて過去複数回の「事業のネタ帳」で紹介したインドネシアのスタートアップを紹介します。

Sinbad -サプライチェーンの効率化-

当社は、FMCG向けサプライチェーンの商取引の効率化を目指すスタートアップです。

当社がフォーカスするデータは、小売領域のサプライチェーン全体(川上から川下まで)の商流データ(取引、在庫情報など)の可視化にあります。

詳細は以下引用先にまとめさせて頂いています。
興味がある方いたらぜひ読んでみてください。

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Sinbad HPより

後発ながらジェネシア支援先で物凄い勢いで成長している支援先であるSinbadはインドネシアのFMCG(日用消費財)領域のサプライチェーン領域に対して「業務コストの効率化」のアプローチでGo to Marketに成功しています。
彼らは多層化する業界構造を一足飛びに中抜きするのではなく、既存の業界構造をある意味で尊重しそれをデジタルで効率化するアプローチを取ることで大きく成長を遂げています。

彼らは卸売業者の活動をデジタルツールでエンパワーすることにより、メーカーや対しては販売状況や在庫の動き、配送状況等のデータを可視化することでより効率的な生産、販促活動を促進できるメリットを提供しています。

また一方の小売店に対しても、卸売業者のネットワーク可視化を通じて最適な発注管理や低価格な商品仕入れ等の機能を提供することでより効率的な流通活動を促しています。

BukuWarung -SMEsのエンパワメント-

当社は、小規模事業者向け帳簿管理アプリによる市場参入したスタートアップです。
当社がフォーカスするデータは、パパママショップと呼ばれるSMEsの小売店の財務記録をデジタル化にあります。

詳細は以下引用先にまとめさせて頂いています。
興味がある方いたらぜひ読んでみてください。

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BukuWarung HPより

一見、小規模事業者向けの帳簿アプリと言うマネタイズの難易度が高いソリューションから市場に参入しているが、その先に拡がるビジネス機会は広大と言えるだろう。
と言うのもインドネシアのGDPの約60%は中小規模事業者が占め、国内労働力の97%を中小規模事業者が雇用している一方で、このような中小規模事業者の多くは、成長につながる金融サービスへのアクセスがないのが現状です。

BukuWarungのようなサービスで財務記録をデジタル化することで、中小規模事業者が信用枠や運転資金の融資などを利用しやすくなることを目指しています。中小規模事業者の一部は銀行口座を保有しているが、銀行口座を保有していない事業者も多く、BukuWarungのような事業者はUnbanked層に対して金融サービスを提供することでネオバンクへと進化すると考えられています。

Logisly -物流事業者のマッチング・効率化-

当社は、荷主と物流事業者をオンライン上でマッチングするサービスを提供しています。

当社がフォーカスするデータは、荷主(特にエンタープライズ企業)の輸配送データにあります。

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Logisly HPより

当社は、ユニリーバやP&Gなど日用消費財の大手ブランドから、ShopeeやJD.IDなどのEコマース事業者のみならず、工業機械と幅広いカテゴリの荷主を有して成長しています。

荷主によってトラックのメンテナンス時期、新車登録から3年以内であったりと要件が多岐に渡っています。
その為、当社は、トラック事業者から保有トラックの車検証、メンテナンス時期を証明する書面や運転手情報などを登録して貰っています。

その為、荷主は要件や価格含めた条件を入力することで登録物流事業者の中からスムーズな自動マッチングが可能となります。

また物流事業者としては登録時に多くの書面提出が求められて面倒ではあるものの、所有トラックの稼働率の最大化が可能となる為、当社のプラットフォームを利用する物流事業者数も順調に成長しています。

終わりに

この記事に共感いただいたVertical領域にチャレンジされる起業家の方(起業を検討している方)、あるいは別のアプローチの方が筋として良さそうという仮説をお持ちの方(自身の仮説が正しいとか唯一解だとかいう考えは一切持っておりませんmm)、まずはぜひカジュアルに事業ディスカッションさせてください!

筆者

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