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総合商社とDX Part 3.0 ~DXの空白地帯と総合商社の役割~ | DX-Compass by Genesia.

STORY

前稿までの『総合商社とDX Part 1.0 ~総合商社の軌跡と課題~』と『総合商社とDX Part 2.0~デジタル時代の産業の担い手は~』 を通じて、総合商社のこれまでの事業モデルの変遷とその構造的な課題や、DXを推進するビジネスモデルと直近の総合商社のDX関連の動きについて触れてきました。

このPart 3.0では、業界を俯瞰する視点から、DXを推進するビジネスモデルに照らして、新たな事業機会としてのDXの空白地帯を見出すことにチャレンジすべく、「建設・不動産」の事例を取り上げるとともに、社会として産業のDXを推進していくに当たっての総合商社の担うべき役割について、整理していきます。

業界のサプライチェーンを俯瞰する

前項のPart 2.0では、以下の説明をしていましたが、サプライチェーンを俯瞰する視点を持つことで、この事業仮説の解像度を上げていくことができると考えています。

既存のオペレーションの中に非効率なプロセスが存在するのであれば効率化を促すサービスの介在余地があり、価値の創造から実現までのバリューチェーンの中で適切なプロフィットが適所に落ちていなければ、新しい事業者のマッチングプラットフォームや商材のマーケットプレイス、D2Cブランド創造の素地があります

各業界のサプライチェーンにおけるそれぞれの工程を横軸に配置し、それぞれの工程に介在するファクターを「ヒト」と「モノ・コト」に分解することで、領域ごとフォーカスした切り口で事業領域を検討するものが、以下の表です。

上記の表については、製造業を念頭に横軸のサプライチェーンの各工程を並べていますが、業界や製品・商材ごとに、適宜、変更しながら活用していくことができればと思います。

「ヒト」については、エンドユーザーは勿論ですが、各工程において従事する専門職や個人事業者、エージェント・ブローカーにフォーカスするもので、また、「モノ・コト」については、対象となる商材のみならず、各工程におけるオペレーションや業務の対象となる事項、事業者間のコミュニケーションにフォーカスを当てたものです。

また、議論の対象となる業界については、言わずもがなで巨大な市場を持っていることが前提となり、自動車や建設・不動産、アパレルや食品、医薬品、エネルギーといった巨大産業を深堀りしていくことで、ポテンシャルの大きな事業機会を検討することに繋がるものと考えています。

「建設・不動産」のサプライチェーンを俯瞰する

具体的な事例として、「建設・不動産」という巨大産業のサプライチェーンを俯瞰し、この領域で事業を強力に推進しているジェネシアの支援先について、それぞれプロットして取り上げていきます。

ここでは、商業ビルや住宅の建設を行う上流工程と、建設された不動産の流通・管理を行う賃貸仲介・管理や中古売買の下流工程のそれぞれにおいて、複数の支援先が事業を推進しています。

■商業ビルや住宅の建設を行う上流工程

同じ上流の建設領域でも、職人さんと建設現場をつなぐアプリを開発する助太刀が職人さん(=「ヒト」)にフォーカスし、仕事探しからファイナンスや労災まで、職人さんが仕事をして生活を送る上で必要な機能をワンストップでサポートすることにより、現在では10万人以上の職人さんが登録するサービスに進化しています。

一方、フォトラクションは建設現場における図面や写真等の生産情報(=「モノ・コト」)の一元管理を通じて、現場の生産性向上を目指していおり、現在では3万を超える様々な建設現場のデータの蓄積が進んでいます。

また、内装建築ドットコムを手掛けるシェルフィーは、店舗出店者と内装を手掛ける店舗デザイン会社のマッチングを通じて事業者(=「ヒト」)と施工業務(=「モノ・コト」)を繋げる役割を担っており、1,500社以上が利用する日本最大の内装建築のマッチングプラットフォームとなっています。

助太刀やシェルフィーは、業界内の情報の非対称性に起因する多重取引構造の解消を図るサービスを通じて、付加価値の少ない中間事業者の役割を代替するプラットフォーマーとして業界のプロフィットプールを適正化し、事業者選択を最適化する事業から立ち上がり、また、フォトラクションは、建設現場における様々なアナログデータをクラウドで効率的に一元管理することができるSaaS型のビジネスモデルから立ち上がり、建設現場におけるデジタルデータの集約ポジションであることを活かしてディープラーニングを活用した新しい建設技術の創出を目指しています。

それぞれ、デジタル技術を活用することで今までにない付加価値を業界全体に提供しているビジネスモデルですが、共通点として、建設業界における各レイヤーで多くのプレイヤーが使えば使うほど利便性を増して広がるネットワーク効果を持つ水平統合型のプラットフォームサービスに昇華していることが、大きなポイントです。

また、「多重取引構造の解消」や「データ・アグリゲーション」という価値提供の形態は、DXの型として建設・不動産以外の様々な領域におけるビジネスモデルにも応用できるものです。これらのDXの型については、 DXの羅針盤 | DX-Compass by Genesia. にて、合計5つの型を紹介しております。

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(参考)DXの「型」に関する参考記事は以下。
DXの羅針盤 | DX-Compass by Genesia.
事例として、5つタイプを挙げています。
型①:ネットワークの拡張
型②:情報探索・選択コストの削減
型③:多重取引構造の解消
型④:データ・アグリゲーション
型⑤:モノ・時間・空間のROI最大化
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■建設された不動産の流通・管理を行う賃貸仲介・管理や中古売買の下流工程

「建設・不動産」のサプライチェーンの下流に目を移します。

在留外国人向けのOMO型賃貸仲介事業を手掛けるアットハースは、課題の深い在留外国人にターゲットを絞り込むことでユーザー獲得コストを下げ、また、店舗型の仲介カウンターを持たずにオンライン上で手続きが完結するオペレーションを構築することでユーザーにとっての利便性や従来型モデルに対するコスト優位性を持つOMOの切り口で賃貸仲介事業の立ち上げを進めています。

また、Non Brokersが手掛けるインスぺ買取は、住宅を売りに出したいオーナーさんにとって、最適な条件で買取が可能な不動産事業者を見つけるための情報探索・選択コストの削減を行う切り口でマッチングプラットフォームを展開しています。現在、このプラットフォーム上の不動産買取事業者の年間予算は、合計3,804億円にも上っており、新しい中古住宅売買の仕組み作りが進んでいます。

更に、空き家活用の事業モデルは、各地に存在する空き家のデータベースを構築することで空き家の利活用を促進するもので、現在、13万件以上の空き家情報を掲載することで、不動産事業者に対して仕入れ物件に係る情報探索・選択コストを削減するサービスを提供しています。

不動産流通産業という巨大な市場において、アットハースは在留外国人という情報の非対称性があるだけでなく、そもそもの物件供給も満足になされていないセグメントにOMO型の賃貸仲介事業機能の提供に大きな事業機会を見出し、また、Non Brokersは住宅オーナーが最適な買取事業者を見つけることができるマーケットプレイスを立ち上げ、空き家活用は空き家のデータベースを構築することで未活用の住宅を流通に乗せることができるマッチングプラットフォームを手掛けています。いずれも、不動産流通における様々なボトルネックを解消し、サプライチェーンを最適化していく取り組みです。

ここまで「建設・不動産」のサプライチェーンを俯瞰して、それぞれの領域で取り組みを深める支援先を紹介してきました。いずれの支援先も業界構造を踏まえて各ステークホルダーの課題や欲求を見つめることで、多重構造の解消や情報の探索コストの削減、情報管理の一元化といった今までにない付加価値の提供を通じて、業界プレイヤーにとって全体最適に繋がるプラットフォーム型のビジネスモデルを強力に推進しています。

一方で、サプライチェーンを俯瞰したときに有力なプレイヤーが存在していない領域は、デジタル技術を活用した大きな事業機会が存在している可能性があると考えています。例えば、先の「建設・不動産」のサプライチェーンの中で空白となっている建材や資機材(原材料)の加工・選定・流通や、建設と不動産の汽水域である販売流通については、ジェネシア・ベンチャーズとして取り組みができていない領域となっています。

この空白地帯において、オペレーションの効率化を促す機能提供(B to B SaaSBPO)が求められているのか、または情報の非対称に起因するプロフィットプールの歪みを是正するマーケットプレイスマッチングプラットフォームが求められているのか、或いは、OMO型の優位性を確立して一事業者としての勝機を見出すのか、いくつかの選択肢からドミノの倒し方について解像度を高めていくことができると考えています。

事業領域によっては、既存アセットを持ちイノベーションのジレンマを抱える大手企業よりも、スタートアップの方が勝ち筋を描きやすいケースも存在します。起業を考えている方は、「建設・不動産」以外にも、自動車や電力・エネルギー、住宅設備や医薬品など、様々な巨大産業のサプライチェーンを俯瞰しながら、事業機会を検討する際に参考にしてもらえればと思います。

産業のDXに向けた総合商社の役割

総合商社の事業モデルの変遷からDXトレンドを踏まえつつ、巨大産業のサプライチェーンを俯瞰しながら、デジタル技術を活用して新たな付加価値を提供するビジネスモデルについて具体例も交えて紹介し、デジタル化時代における事業機会について検討して参りました。

それではこのデジタル化時代に、巨大産業のサプライチェーンに潜む事業機会を掴み、推進していく主体は果たして誰になるのか。

産業革命以降、産業の黒子としてサプライチェーンを支えてきた総合商社が自社で事業を内製化して立ち上げて行くことは、主に以下の理由から難しいと考えています。

自社プロダクトの開発経験が乏しいこと
他社が開発したプロダクトの販売は商社機能の活きる領域でケイパビリティを持ちますが、ユーザー目線に立ってプロダクトをゼロから自社開発するというノウハウは持ち合わせていないこと

時間の掛かる事業の立ち上げ、及び、継続に必要な社内の収益基準を満たしづらいこと
産業のDXは決して一朝一夕では成しえず、時間の掛かる取り組みになりますが、商社としての重要指標の一つは純利益であり、数年間の赤字が継続する事業計画はそもそも承認されづらく、また、承認されても、その後の社内での事業撤退基準に抵触しやすいこと(「結局、何年後にいくら利益が出るんや?」という議論になりやすいこと)

これらも踏まえると、産業のDXを推進する上で、総合商社はゼロイチフェーズではなく、拡大フェーズのスタートアップとの協業を加速することで、自社の持つ優位性を最も発揮することができると考えています。

今後、DXに積極的な総合商社にとっては、スタートアップへの規模感のある出資は勿論、人材獲得を目的の一つとするM&Aの実施が、生き残りに向けて必須となるでしょう。今まさに、事業機会のあるDXの空白地帯が各商社にとって、そのまま不毛地帯になるかどうかの分水嶺を迎えています。

また、産業のDXを推進する上で、総合商社のもう一つ重要な機能役割が、起業家輩出です。視座の高いビジョンを掲げてゼロイチでの事業立ち上げにチャレンジしたいという気概を持つ総合商社出身者が、今後も会社の枠を飛び出して起業したり、重要ポジションでスタートアップに転職する事例は、ますます増加していくものと予想しています。

ジェネシア・ベンチャーズでも、総合商社出身の起業家が経営するスタートアップを複数支援させて頂いておりますが、様々な産業領域における豊富な事業経験とグローバルな視座を持って巨大な産業創造にチャレンジする商社パーソンは、巨大産業のDXを推進していく事業に対して、Founder Market Fitする方が多いと考えています。

ということで、 総合商社とDX Part 3.0では「建設・不動産」を参考にサプライチェーンを俯瞰する視点からDXの空白地帯の考え方について検討し、また、産業のDXを推進する上での総合商社の役割について説明して参りました。

産業のDXはこれから本格化していく不可逆なトレンドとなりますが、DXの型を用いた巨大産業領域のDXを推進する新規事業立ち上げに向けた壁打ちや起業相談は、毎週金曜日に大手町&品川で開催中のDX Caféでも受け付けておりますので、ぜひお気軽にどうぞ!

ジェネシア・ベンチャーズでは、今後もDXの型を用いた事例解説や各業界のDXトレンドについての情報発信を行なっていきます。定期的な情報収集をご希望される方は、こちらのフォームよりご登録ください。

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