事業のネタ帳 #3 産業領域特化型コラボレーション
目次
- 世界は日々進歩しています。
- 分散化社会で専門分化する企業とサプライチェーン
- 専門分化してくことの弊害
- ソリューションの方向性
- DXの型
- おわりに
世界は日々進歩しています。
日常の小さな不便は気付かぬうちに解消され、コンビニやスーパーのお惣菜や冷凍食品はとても美味しく、難病治療に向けた医薬品の上市も進み、宇宙との距離もだんだんと近づいてきている気がします。
そんなサービスの向上や人類の進歩は、一体、何によってもたらされているのでしょうか。それは様々な専門性を有した人々が、それぞれの持ち場の中で経済活動や研究開発に励んでいるからに他なりません。
分散化社会で専門分化する企業とサプライチェーン
例えば、僕がいま本稿を書きながら飲んでいるアサヒ生ビール 通称マルエフが自宅の食卓に届くまでに、どれだけ多くの人が仕事をしてくれているでしょうか。これめちゃくちゃおいしいですね。
商品の企画(の裏にある膨大なリサーチと大量のボツ案、稟議プロセス)、アルミ缶の調達(に係るアルミサプライヤー選定や価格ヘッジ、仕様設計)とデザイン、試作開発や原材料の調達、量産製造、小売・流通、宣伝・広告などなど、高度に専門分化が進んだそれぞれの役割を担う数多くのプロフェッショナルたちによる仕事の賜物です。
多くのプロフェッショナルの仕事により、自分が今おいしくビールを飲めているなんてことに思いをはせていると、酔いがまわるのも早くなりますね。このマルエフは一つの事例ではありますが、経済活動は高度に専門分化した集団によるコラボレーションによって成立しています。
そしてこの分業化という現象は、企業の中における複数の専門部署への機能分化だけでなく、企業の対外的な取引関係を構成する仕販に連なる多段的なサプライチェーンの二方向で進行しています。
人々の興味関心が分散化し、求められる品質の要求水準や規制強化が高まるほど、企業が取り組まなければいけない仕事は高度化・複雑化していくことから、この現象は今後もしばらく継続していくことが予想されます。
一例として、日本を代表する大企業の日立製作所さんの組織図を見てみましょう。(アサヒビールさんはじめビール会社さんの組織図は見当たらず涙)
大企業ほど共通機能は営業部門から切り離されて組織化され、コーポレート部隊に組み入れられていきますが、日立製作所さんの場合は、「グループ・コーポレート」の部署の方が「モビリティ」や「ライフ」といった営業部門の組織よりも数が多く、専門分化しています。
専門分化した組織による分業化を通じて、生産性を向上させていこうとする思想に基づく組織体系です。組織内での意思決定経路の設計や経験知の蓄積による人材育成に当たってはメリットも多いです。
専門分化してくことの弊害
上記のようなメリットも多い一方、課題も多くあります。
組織内で情報がタコつぼ化しがちなことや、企業の全体最適よりも組織内の部分最適な行動が選好されてしまうリスクを孕むようになります。
そしてなにより、一つの物事を進めるためにも関係部署が多くなってしまうことから、意思決定や情報共有に時間が掛かる、という大企業的構造が生じます。すなわち、会議やその調整に係る時間や、稟議書を始めとする多くの文書が必要とされるようになってくるということです。
ガバナンス強化が求められる中でスピード感についていけず、大事な商談を見送らざるを得ない日本の大企業や、スピードを出すために無理して頑張るサラリーマン・サラリーウーマンがなんと多いことでしょうか。。。
スタートアップの事業のネタ帳的なポイントは、専門分化してきた部署間や企業間のコミュニケーションやオペレーション、ナレッジシェアの多くが、デジタル時代に最適化しておらず、まだまだ進化の余地があることです。
一般論としては、歴史の長い企業や業界であるほど、Beforeデジタル時代に最適化したレガシーオペレーションが高度に確立されているため、デジタルスクラッチなプレイヤーからすると潜在的な事業機会として映るはずです。
企業における生産的な活動や現場での意思決定がデジタル化されておらず、フロー化してしまっていることにより、担当者毎の業務品質のバラツキや、ベストプラクティスの再現性の無さ、車輪の再発明的な同一業務の繰り返しといった現象が起きています。
紙のノートやメール、稟議・申請書、仕様書、図面、契約書、帳票、日報、写真、カレンダー、規程、マニュアル、会議資料、議事録、特許文献、技術論文、発注書、請求書、提案書、事業計画・予算、Excelモデルなどのフォーマットの中に、企業活動を推進しているプロフェッショナル達の叡智が詰まっており、貴重な事業資産となっています。
しかしながら、上記のようなフォーマットは非同期なまま、デジタルデータとしての記録・活用ができていないことにより、機会損失が生じてしまっていることが多い、のというのが、専門分化していく企業活動における実態と考えています。
ソリューションの方向性
オペレーショナルな情報も含めてデジタルに落とし込み、担当者間は勿論、部署間や企業間のコミュニケーションも含めたクラウド化が実現できると、単なる業務効率化に留まらない事業資産の積み上げが実現します。
いくつかの事例をご紹介させてください。
ジェネシアの支援先ではamplified.aiが独自のAI特許調査プラットフォームAmplifiedに、「シェア」「アノテーション」「チャット」の3つの新機能を融合したナレッジオートメーションをリリースし、自然かつ効率的なデータ資産を作ることを可能にしました。
このナレッジオートメーションの機能により、担当者が実施した調査の過程で特許文献に付したメモや解釈を社内でシェアをしたり、チャットを通じてコミュニケーションすることができるようになりました。
これにより、精度の高いAIを活用した特許調査のみならず、調査過程で得たインサイトを属人化させることなく、知財部や研究開発部隊といった部署をまたいで共有していくことができます。
また、医師向けの臨床支援アプリを開発しているHOKUTO社も、医師が臨床現場や文献から得た知識をまとめてメモをしていくことが可能なノート機能をアプリに追加しました。
今後は、臨床の最前線で活躍する医師が作成したノートを共有可能としていくことで、これまではタコつぼ化していた現場で活用可能な知見を医師間でリアルタイムに共有していくことが可能となり、HOKUTO社がミッションとして掲げる医療アウトカムの向上をより一層支援できるようになります。
この他にもジェネシア・ベンチャーズの支援先では、ゼネコンの建設現場(フォトラクション社)、小売と卸の受発注(CO-NECT社)、新薬開発の臨床現場(Activaid社)、製造業の生産現場(Smart Craft社)などの産業・事業領域で、社内の部署間や取引先企業間でのオペレーションのデジタル化と情報伝達のクラウド化を通じた統合型コラボレーションのサービス開発を進めています。
共通する特徴としては、
①対象領域における専門家や特定業務に特化したプロダクト
②プロダクトを通じて業務負荷が大幅に軽減
③オペレーションのデジタル化により業務品質の定量的な分析が可能
④隣接部署や前後のオペレーションへとプロダクトの対象や機能が拡張
といった点を挙げることができるでしょう。
まだまだ、企業の中でアナログなままフロー化してしまっているプロフェッショナル達の仕事が残っている、という領域はあると思いますし、本質的な産業のデジタル化を推進したい!と考えている起業家の方は、是非、カジュアルにディスカッションさせて頂けると嬉しいです。(いつでも、当方宛にDMください!)
DXの型
ジェネシア・ベンチャーズで事業立ち上げのモジュールとしてストックしているDXの型のうち、この領域の事業アイディアに適用できるものとしては、#4 データアグリゲーション、#7 半自動、#9 ノウハウ提供型SaaS、#12 仲介業者のデジタルエンパワーメントに、ビジネスモデル創出のヒントがあるかもしれません。
#4 データアグリゲーション
#7 半自動
型9:ノウハウ提供型SaaS
型12:仲介業者のデジタルエンパワーメント