INSIGHTS
INSIGHTS

【創業の軌跡】Vol.1 令和トラベル/篠塚 孝哉

PODCAST

創業の軌跡、記念すべき第1回目となる今回は、令和トラベル創業者の篠塚さんにご出演いただきました。本稿は要約版になりますので、フルver.についてはぜひPodcastで聞いてみてください。

参加者
・令和トラベル/篠塚孝哉
・ジェネシア・ベンチャーズ/鈴木隆宏一戸将未

自己紹介

一戸:

篠塚さん、まずは自己紹介をお願いします。

篠塚:

僕はたか(鈴木)とは昔から仲良くさせてもらっていたので、今日はすごく楽しみにしていました。僕は2007年に新卒でリクルートに入社し、「じゃらん」を運営している当時旅行カンパニーと呼ばれていた事業部に配属されました。
その約4年後に前職のLoco Partnersを創業し、Relux事業を2013年からスタートしました。Reluxは高級ホテルや旅館の宿泊予約サービスで、所謂OTAと言われているものです。2017年にM&AでKDDIグループに入り、そこからは子会社の社長として3年間経営を行い、2020年3月に退任しました。退任した時には会員数が200万人強、流通額が200億円超という状況でした。
それから、この1年間何をしようかなと考え、今の令和トラベルを始めることになるのですが、どうしてこれを選んだのかというと、willとcanの交点が最も大きいのがこの令和トラベルという会社だったからです。今回起業するにあたり、本当にあらゆる産業や事業を調べましたが、いずれもwillはあるけどcanはないとか、canはあるけどwillはないみたいなものばかりでした。例えば、宇宙のベンチャーでロケットを上げたら楽しそうだなとか本気で思いましたが、willは大きい一方でcanがないのでこれはしんどいな、という様に取捨選択していったら、最後に残ったのが海外旅行事業でした。海外旅行事業だと僕のwillもcanも活きてくるので、令和トラベルをやってみようかということで始めた次第です。それで今年の4月から本格的に稼働し始めました。

一戸:

現在の令和トラベルの組織規模と事業規模を教えていただけますか。

篠塚:

会社を立ち上げてまだ半年も経っていないですが、既に社員が15,6人まで増えていて、事業としては9月末から10月頭ぐらいにアプリをリリースできそうな状況です(※秋頃へと変更)。リリース準備はかなり進んでいるのですが、世の中の状況を見計らいながら、いつボタンを押そうかみたいなことを社内で今議論しているような状況です。

創業期におけるビジョンの重要性

一戸:

篠塚さんはいつ頃から起業を意識していましたか。

篠塚:

僕は起業は全く考えていなかったですが、東北の大震災があったときに、何か自分の人生でチャレンジしないで死んで良いのかみたいなことをなぜか強く感じたんですよね。別に起業して失敗したところで最悪もう1回転職すれば良いやと考えて、とりあえず起業しちゃおうと思って起業したのが27歳の時ですね。

鈴木:

はじめはコンサルしながらで1人商店って感じでしたよね。そこからReluxを始めようというか、サービスを作るきっかけって何かあったんですか。

篠塚:

当時、CAV(鈴木の前職、現CAC)と話していく中で、受託で利益が出るのはわかったが、本当にやりたいことは何ですかみたいな話をして、当然僕もいつかちゃんとプロダクトを作らなきゃって思いはあったので、そっちに徐々に寄せていきました。

一戸:

事業アイデアが先か、起業が先かという話がある中で、Loco Partnersの場合は起業が先でその後に事業アイデアを見つけにいったということだと思うのですが、令和トラベルの場合はいかがですか。

篠塚:

令和トラベルの場合は、今作っているプロダクトのアイデアほどの解像度の高いものは一切なかったです。ただし、マーケットはこれにしようっていうものは決めて起業しています。社名からしてもそうなんですけど。ビジョンは先に決めました。ただし、何をやるかっていう戦略もhowも何もない状態で起業したっていう感じですね。

鈴木::

登る山さえ決まっちゃえばhowは基本的に可変だから僕もそれで良いなって思うタイプですね。

篠塚:

最近ビジョナリー・カンパニーを読んで思ったんですけど、結局ビジョンをどこに置くかがものすごい重要だなと思っていて、何をやりたいっていうwhatはまさに可変でどうにでもなるので、どこへ向かうかっていうところを押さえて、ちゃんとベクトルが定まっていれば、あとはどうにもなるなっていうのを改めて思っていますね。

テーマから事業への落とし方

一戸:

Reluxの事業アイデアはどのように着想しましたか。

篠塚:

Reluxは、じゃらん時代に遡るんですけど、じゃらんにいた時によく友達からどこに行けば良いのか聞かれたんですよね。僕からしたら、じゃらん見れば良いじゃんって思ってたんですよ。でもそれを言っても、量が多すぎてどれが良いかわからないとか、全部写真綺麗だしよくわからないって言われるんですよね。それで、人は多くの情報量があれば良いわけじゃないんだということにふと気が付いたんですね。
それで僕がいつもやっていたのは、予算や求めるものなどの要素をちょっとだけ聞いて、そこから3つぐらい提案するんですよね。そしたら大体これのどれかに決まるんです。片やじゃらんは大量に宿が載っていてプランもあるし、どこからでも選びやすいはずなのに、僕が提案した3つの宿からみんな選んでくれるっていうのは、非常に不思議な気持ちになったんですね。
つまり、人は多くの選択肢が必要なんじゃなくて、信頼のできるソースだったら、むしろ選択肢っていらないんだって思ったんですよ。だったら僕らがちゃんと審査体制を作ってセレクトしてあげれば、これは確実にいけるって思ったのがReluxの着想ですね。

一戸:

令和トラベルは海外旅行がテーマだと思うんですけど、Reluxの場合は国内旅行とかそういうテーマありきだったんですか。

篠塚:

そうですね。正直、当時の僕には海外は全然視界に入っていなかったです。検討すらしていなかったです。

一戸:

令和トラベルについては、最終的に海外旅行というテーマに至ったのって何かきっかけがあったんですか。それとも何かロジックを基にこのテーマに至ったんですか。

篠塚:

かっこいい理由とださい理由があるんですけど、かっこいい理由は、海外旅行ってやっぱりめちゃくちゃ大きいマーケットなんですよ。マーケットサイズでいうと4.4兆円あって、伸びている産業であると。ビフォーコロナの2019年までずっと着実に伸びていて、2019年は過去最高だったんですよね。2,000万人が出国した年なんですけど。伸びていて4.4兆円もあるのにプレイヤーが変わっていない。つまり、これは参入するチャンスだと思ったんですよ。
ご存知の通りコロナ禍の影響で本当にゼロになりました。ゼロになったということは、まず既存の会社さんは対応が大変だし、コストも出続けているので、新しいことはできないはずだと。一方で、僕らはゼロから立ち上げれば、準備も含めてすごくチャレンジングだけれども、チャンスが溢れているなと思ったのが、海外旅行を選んだ理由ですね。
(※ださい理由はPodcast限定公開です)

鈴木:

海外旅行をもっと身近にするってすごい大事だなと思っています。というのも、特に多様性が広がっていく世の中で考えると、海外という非日常に出て色々な価値観や人種の人と触れ合うことはすごい大事だなと。
そんな中で、大手旅行代理店は画一的な旅行パッケージしかないので、何か新しい体験を生み出すのってすごい価値があるなと思っていて、ランディングページ上だと簡単に海外旅行の予約が可能になるみたいな感じですけど、もうちょっと話せる範囲で言うとどうなっていくのかお聞きしたいです。

篠塚:

4.4兆円の海外旅行市場を更に因数分解していくと、ITリテラシーが高く海外旅行に慣れている人は、ホテルも飛行機も自分で横断比較してということが当たり前にできますが、これがマーケットの半分で2兆円強ぐらいなんですよ。
もう半分が何かと言うと、実はパッケージツアーだということがわかりました。パッケージツアーは飛行機もホテルも全部ついているもので、実はかなり多くの人がこれで旅行していることがわかりました。
ここ10年ぐらいこの領域でやっているスタートアップが全くいなくて、じゃあ何でやっていないんだと問いを深めていくと、まず旅行業一種免許を取るのがスタートアップにとっては結構手間でお金がかかる。これだけでまず1億円近く必要なんですよね。あと、パッケージツアーは募集型企画旅行というジャンルなんですけど、これを作るには1個1個法的要件をクリアしなきゃいけないし、キャンセルの規定とか、チケットの発券とか、めちゃくちゃ面倒くさいですよ。
スタートアップが何をやっていたかというと、みんな大手の旅行代理店が作ったツアーを卸してもらって販売していたんですよね。これをやると何がいけないんだとまた考えていくと、まず商品に企画力とか独自性が出せないというのが一つと、あとは、財務上非常に不利なんですよ。永遠に大手が儲かる構造になるので、自社で財務優位性を絶対に作れない。高く売ろうとしたらカスタマーメリットが出ないし、安く売ったら粗利が出ないという。要はどこにもいけない感じになっちゃうんですよね。だから、もう自分でやろうと思ってこの領域を選んだと。
次に、課題を何に置くかという話で、ここはよく言われるDXだと。各社の社員比率やコスト構造を見ると、人件費やリアル店舗の家賃とかが地味に重たいので、これらを圧縮して、僕らが新しいツアーを作ることができたら、より安くより高品質の旅が提供できそうだと気付いたんですよ。他の産業で言うと、ユニクロとか、大手のスーパーとかもそうなんですけど、ちゃんとコスト構造を理解して作り直して良いものをデジタルに提供してあげる。これを今僕らは必死に準備しているような感じですね。

鈴木:

旅行業界版SPAみたいな感じですよね。

篠塚:

はい。ラクスルが印刷業界でやったことに似てるっちゃ似てるし、僕らはフロントのアプリが使いやすいことは当然重要だけれども、やっぱりそれ以上にバックオフィスの効率化が今後の最大の差別化要因になるんじゃないかと考えていますね。

一戸:

大手旅行代理店だと既存のアセットがある分、そこに対してイネーブラー的にSaaSを提供したとしてもそれによって改善できる差分が結構小さくなっちゃうので、1社でサプライチェーン全体を内包してやっていくイメージですよね。

篠塚:

そうですね。そこに挑戦しているスタートアップがここ10年いないというのは何かおかしいと思って調べたら、やっぱり参入障壁が非常に高かったので、逆に言うとこれはチャンスだと思いました。

マーケットの選定基準

一戸:

Reluxと令和トラベルで共通しているマーケットの選定基準でいうと旅行業界以外で何かありますか。

篠塚:

サイズの大きさと伸びていることですね。国内旅行って実はマーケット自体そこまで伸びていないんですよ。むしろちょっとダウントレンドなんですけど。ただ、因数分解し直すと、オンライン予約とオフライン予約というものに分解され、オフラインが激減していつつも、オンラインが激増しているみたいな感じなんですよ。巨大マーケットって全体が伸びている必要性は実はなくて。
またラクスルの話になりますけど、印刷業界だって伸びていないわけじゃないですか。でもオンライン印刷は伸びているみたいな。巨大マーケットだったら内部構造で何かそういう伸びているゾーンはないかを見るのはとても大事であると。
国内旅行はオンライン予約が伸びていましたし、海外旅行は日本人の出国というマーケットが伸びているのに加えて、オンラインもものすごい伸びているので捉えにいったという感じですね。

一戸:

そもそものマーケットが伸びていればそれはそれで問題ないし、シュリンクしていたとしてもその中でも伸びているところがあるかもしれず、そこに勝算が見出せるのかもしれないということですね。

篠塚:

地殻変動の様相を把握するという話ですね。

鈴木:

ラクスルもそうですけど、大きなマーケットで、強者が何社かいて、その他めちゃめちゃ大量に小さい事業者がいるマーケットは結構テクノロジーを使って地殻変動を起こしやすい可能性があると感じていて、旅行業界も近しいかなと思いました。

最初の10名の集め方

一戸:

次に組織と採用についてですが、令和トラベルの最初の10名のポジションと集め方について教えてください。

篠塚:

最初の集め方に関しては、もう自力で、足で回り続けたというのがかなりあります。それで、どういうチームにしたかというと、BizDev、管理、プロダクトが3分の1ずつという感じですね。
今回社長の時間の使い方をものすごい考えたんですよ。どんな会社がユニコーンになっているのかとか、どんな会社が世界でちゃんとグロースし続けているのかと考えると、社長がプロダクトを見ているケースがとてつもなく多いなと気付いたんですよ。創業期からそうしたいなと思ったんですけど、でも阻害要因があるぞと。じゃあそれは何だと考えたら、人とお金と経営管理がかなり邪魔してくるんですよ。
プロダクトに100%はなかなか使えないんですけど、70~80%の時間を使いたいと思っているのに、その3つが邪魔してきて、下手したら時期によってはプロダクトに使える時間は10%しかないみたいな状態になっちゃうわけですよね。逆に言うと、人とお金と経営管理の阻害要因をどうやって除去すべきと考えたら、それぞれの担当役員を探し出せばいいわけですね。
それで思ったのが、まず人に関してはCHROを絶対最初から採用したいなと思っていて、去年の8月ぐらいから誰かいないかなとずっと探していたら田村くんという方が入ってくれました。彼はリクルートの同期で、リクルートの人事を15年弱ぐらいやっていて採用のプロだったので、実際に今も人の部分はかなりの時間を減らせています。
次はお金をどうしようかなと思って、CFOを採用したいなと思っていました。今はまだCFOを採用できてないんですけど。それと、資金調達にかかる時間をどうやって削減できるか考えたら、一発目に大型の調達をしちゃえば良いやと。つまり、3,4年ぐらいもつ金額を一旦調達しちゃって、当然グロースに合わせてもう1回資金調達が必要になるかもしれないけど、大きなファンドさんと一緒にできれば、その時順調だったら追加で出資をしてくれるわけですよね。そんな体制が上場まで作れたら良いなと思って今回のストラクチャーになりました。
経営管理も同様です。Reluxの時にM&Aがあってからとんでもない炎上をたくさんしたので、ガバナンスとか労務とか法務は最初から整えちゃった方が良いなということで、監査役の染原さんに入ってもらったりとか、経営管理のチームを最初からしっかり組成しようと意識して今の形になっています。なので、今創業4,5ヶ月なんですけど、それにしては、上場企業の水準とまではいかないけど、全て整いながらやれているという状況ですね。

(篠塚さんのnoteから引用)
鈴木:

Reluxの時も組織作りに失敗している印象はなかったですね。起業家にはやりながら色々な落とし穴に落ちて早く這い上がって頑張るタイプもいれば、一方で、しの(篠塚)みたいに事前にめちゃめちゃ調べたり観察しまくって、その要素を自分なりに昇華して自分のスタイルに反映させるみたいなタイプもいると思うんですけど、しのの場合それがどう身に付いていったのか気になりますね。

篠塚:

僕は常に悪いシナリオを考えながら動くタイプ、つまり、周りから学習して、落ちる穴とかは先に塞ぐタイプです。これは良い面も悪い面もあって、良い面は、今言ったみたく大炎上とかせずに、淡々と着実に改善するのには向いているけれども、悪い面は、若干スピードが落ちがちというのはあるかなと思っていますが、でもそれは僕のタイプなので、強みを活かすことに集中しようということで、今回もそれはかなり意識的にやっています。

一戸:

Reluxの時に組織作りを意識したタイミングやきっかけはありましたか。

篠塚:

Reluxの時は本当にわからないことだらけで、今思えば適当だったんですけど、やっぱり30人以上ぐらいになってから、情報が今までと違うぞ、届きにくいぞ、ということに気付きだして、これが組織の壁なのかなって思いながらちょっとずつやった感じですかね。今はもうそうなることが目に見えているので、最初からかなりちゃんとやり始めていますね。
ただ、そんなことを言っていてもスタートアップというのは絶対に起こってはならない問題が絶対に起きる、つまり、どれだけ穴を塞ごうが、どれだけ対策をしようが、絶対に何か起こるんですよ。絶対にやめて欲しくない人がやめるとか。なので、僕が今どれだけ対策しようが何かしら絶対に起こるので、その時ににどう対処するかというメンタリティや粘り強さの方が大事だなと思っています。

鈴木:

組織の落とし穴や人の落とし穴って絶対に起こるものの、結構類型化できるじゃないですか。そういうのはキャピタリストとしてしっかりと伴走して組織を見ていればわかってくると思っていて、その辺は僕自身も意識しながら支援していますね。

成果の最大化に向けたD&I

鈴木:

令和トラベルではD&Iの取り組みをしっかりと文章化されていると思うんですけど、そこの背景やきっかけをぜひお聞きしたいです。

篠塚:

きっかけは最近の流れとか、海外のスタートアップをこの1年間徹底的に調査していて、ほぼ全ての会社にD&Iのポリシーが明記されているのに日本のスタートアップはほぼ全くなかったので、これはやるべきだと感覚的にも思っていました。
全然別の話をすると、1年間でアートの旅もかなりしていて、色々なアートを見て、色々なアートの歴史を眺めていく中で、アートとビジネスで通じる部分としてこのD&Iが強くあると思いました。アートはまさにダイバーシティとインクルージョンの連続によって成長している産業で、何を言っているかというと、ダイバーシティーやインクルージョンは境界線を越える作業なんだということに僕は気が付いたんですよね。
境界線を越える作業というのは、アートは昔は目に見えるものをただただ模写するというところから始まっていって、だんだんテクノロジーが発達していくと写真が出てきて、写真が出たときにアートがなくなると言われていて。そこから何が起きたかというと、抽象”化”の流れとか抽象”画”の流れとか、ただ目に見えるものだけじゃなくて空想をもっと描こうよとか絵の多様性が生まれました。
さらにそこからポップアートと言われる、有名なのだとアンディ・ウォーホルとか、日常のスーパーで売っているただの缶を絵にしてみてそれを売ったらめちゃくちゃ売れたとか、つまり、日常とアートの境界線をなくしたっていう作業だったりとか、色々な境界を越えてきてるわけですよね。
それで思ったのが、人間にも今そういう流れが来ているんだと。つまり、性別とか国籍とか障害ってただの境界線じゃないですか。人々が勝手に作っている境界線をインクルードする作業というのがD&Iの本質だなと気付いたんですよね。
だから、それ(D&Iポリシー)をちゃんと作ること自体が、新しい価値を生む機会にもなるし、今まで働きにくかった人と働きやすかった人の境界線とかも取っ払うことができる非常に良い取り組みだなと思っていたので、創業期から当然に定義すべきだし、ちゃんとやらないとなと思いました。

鈴木:

我々のファンドは海外投資もしているので、必然的にローカルメンバーがいたり元々女性比率が高い傾向があったんだけど、そういった他拠点に渡って事業をしていると、組織も経営も多様性を自然と受け入れないとそもそも成果が出ないと感じています。特に社会の流れ的にもどんどん多様化して、人の価値観も細分化されていく中だと、やっぱり多様性を取り込むこと自体が、ビジネスとか組織の成果を出すという意味でも重要だなと。

PMFに重要な時間軸

一戸:

次に事業面で、特にPMFについてお伺いしたいのですが、Reluxの当初想定していたPMFと実際のPMF、それからそのギャップについて教えてください。

篠塚:

想定していたのは、良い宿があれば予約は入るはずだ、ですよね。でも実際は良い宿だけ集めても予約が入らないことがわかりました。
何でそんなことが起きるかというと、例えば、最初は20件ぐらいの宿で始めたんですけど、各20件は日本を代表するような、都道府県トップの宿だけが集まっていました。そのサイトに来ればその宿が予約できるから予約が入るんだと思っていたら全然入らなくて。何で入らないのか最初の1,2ヶ月ぐらいわからなかったんですよ。
でも調べていくと、検索した時に人気宿なので検索結果が少ないという問題点が1つと、あと、検索結果が、群馬の宿か、静岡の宿か、大阪の宿か、福岡の宿か、というような感じでめちゃくちゃになっちゃうんですよ。これはユーザーニーズに答えていないわけですよね。カスタマーは、例えば群馬近郊で山の宿を探したいなとか、伊豆で海が見えるところを探したいなという気持ちで見ているのに、比較対象として大阪とか出てきても、大阪なんて行く気ないしみたいな感じになっちゃうんですね。
だから、ちゃんと品揃えを用意することが重要でしたね。結果的に品揃えを増やしていったら予約も増えていったという感じです。

一戸:

ではReluxの時は当初想定していたPMFと実際のPMFで乖離があったんですね。

篠塚:

最初の半年ぐらいは本当に予約が全く入らなかったです。

鈴木:

逆に思うのは、PMFをいきなり外して落胆しちゃうシードの起業家がちょいちょい見受けられて、でもReluxの話とか聞くと、諦めずにしっかりと検証すると、その後にちゃんとPMFが来るというのはすごい勇気付けられるように感じますね。

篠塚:

粘りが大事というのはもう言い古されているけど、結局粘りもまた大事だということは、特にReluxで学びました。
旅行事業はフリークエンシーが非常に低いというのも特徴的だと思っていて、年に1,2回しかサービスを使わないんですよ。だからPMFまでのサイクルは年単位で見るべきだと思っていたんですよね。でも、もしこれがSNSで最初から投稿されなきゃ駄目だとか、ソーシャルゲームで最初の1週間でアクション率が低いのは致命傷だみたいなサービスをやっていたら、もしかしたら3ヶ月でクローズしていたかもしれないと思います。でも旅行はやっぱり年単位なので、粘り強くやるべきだというのは最初から思っていましたね。それは令和トラベルも一緒です。

一戸:

海外旅行はリテンションまでの日数がかなり長く、それだけを追っているとPMFが遠のいちゃうので、より短期的な数値や指標を追うことになると思うんですけど、令和トラベルでは今どのようにPMFを想定していますか。

篠塚:

今はぶっちゃけそんなに明確にこのKPIというのは作っていないんですけど、ただマーケティングにおいて、ちゃんとPLとBSの両方を見ましょうという話をしていて、PLというのは広告費で100万円を使って旅行が1,000万円発生しましたみたいな話なんですけど、そうではなくて、このBSにどういう資産が計上されていますかというプロダクトのBSを重視していて、今だとSNSのフォロワー数とか、アプリのDL数とか、プッシュ通知の許諾率とか、そういうことを蓄積しておかないと、海外旅行が回復した時に僕らがアクセスできる人の数が少ないという状況になるので、それは駄目だよねというような設計をしています。
逆に言うと、そこの蓄積が多ければ多いほど、それは資産にのっている状態なので、後からPLに戻ってくると考えています。
PMFしたと言えるのはいつなのかはわからないですけど、でもやっぱり海外旅行自体、年間2,000万人しか動かないとも言えるので、しかも一般的には年1回ですよね、なので、長い目で設計したいなと考えています。

鈴木:

長い目でやることを組織のコンセンサスとして取るというのも大事ですよね。一般的なスタートアップのイメージの時間軸と実際の事業の時間軸はずれるので、そこを経営者が組織に伝えていくのは大事だなと感じています。

次回のゲストとお知らせ

次回のゲストは篠塚さんにご紹介いただいたラクスル創業者の松本さんです。皆さん、ぜひ楽しみにしていてください。

また、令和トラベルは現在積極的に採用活動を行っております。ご興味のある方はぜひこちらからチェックしてみてください。

そして、篠塚さんのYouTubeでは今回出てきた話題をさらに深掘った動画も配信されているので、こちらもぜひチャンネル登録を!

BACK TO LIST