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【創業の軌跡】Vol.2 ラクスル/松本 恭攝

創業の軌跡

創業の軌跡、第2回目となる今回は、ラクスル創業者の松本さんにご出演いただきました。本稿は要約版になりますので、フルver.についてはぜひPodcastで聞いてみてください。

参加者
・ラクスル/松本恭攝
・ジェネシア・ベンチャーズ/鈴木隆宏一戸将未

自己紹介

一戸:

松本さん、まずは自己紹介をお願いします。

松本:

ラクスルのファウンダーの松本です。会社を作ったのが2009年9月で、そこから約12年間経営をして今13年目です。
新卒でA.T.カーニーに入社したのですが、その際にリーマンショックの影響でコスト削減を行う大企業がたくさんいて、販管費を中心としたコスト削減を行う中で印刷が最も削減率の高い費用項目だということを見つけてこの業界が面白いなと思いました。そして、この業界をコンサルとして労働集約的に1件1件効率化していくのではなく、仕組みとして業界全体を変えていくことを目指し、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンで会社を起ち上げました。
それから約3年間は「印刷比較.com」というメディアをやっていて、ECをやりたかったのですが、当時VCがほぼ活動しておらずお金を集めることができなかったので、お金をかけずにできるメディア事業からスタートし、2012年にVCが復活してきてからそのメディアをECにピボットしていくところでシリーズAの資金調達を行い、2012年にβ版を、2013年に正式版のラクスルをローンチしています。
その後、この「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」を印刷だけではなく、物流、テレビCM、そして直近だとコーポレートITという様々な業界に広げて、新しいプラットフォームを作っていく会社として、印刷のラクスルを中心に物流のハコベル、テレビCMのノバセル、そしてコーポレートITのジョーシスと、4つの事業を展開しています。

創業の背景

鈴木:

僕と松本さんは同い年で10年来の友人で、ラクスルをやり始めたきっかけとかA.T.カーニーの話は聞いていましたが、学生時代から起業を意識していたんですか。

松本:

起業は意識していなかったですけど、学生団体の起ち上げでゼロイチをやっていたりとか、シリコンバレーの起業家、投資家、エンジニアと話をする中でシリコンバレーのスタートアップの影響は結構受けていて、起業したかったわけじゃないけれども、起業している人の話はよく聞いていた学生時代だったかなとは思います。なので、深層心理でなんとなくそういう影響はあったのかなとは思いつつ、僕自身が始めたいというのは無かったですね。

鈴木:

ではA.T.カーニーを選んだのも、事業領域を探すためではなく?

松本:

そうですね。当時は外資コンサルが流行っていたので入りました(笑)

鈴木:

確かに流行っていましたね(笑)実際にA.T.カーニーで大企業のコスト削減をする中で、印刷のコスト削減効果が高いことを見つけたというのはあると思うんですけど、強烈に起業しなきゃいけないって思ったきっかけはあったんですか。

松本:

コンサルがあまり向いていなかったというか、面白くなかったんですよね。特にジュニアの時代ってエクセルとパワーポイント中心のワークで、パーツを作っていくような役割なので全体感が見えないのと手触り感がない。お客さんと直接会って話をするとか、サプライヤーさんと直接会って話をするみたいなことがなく、インタビューとかヒアリングはあるんですけど、ちょっと距離が遠いんですよね。その手触り感がない中でやっていくというのは自分の中であまりインスピレーションが生まれなかったし、面白いと思わなかったので、どちらかと言うとより手触り感のあることをやっていきたいと思っていました。手触り感というのは、印刷とかそういうフィジカルな何かをやりたいというわけではなくて、自分自身で事業を動かしていくようなそういう仕事をやりたいなと思い、最初は転職活動をしようと思って印刷業界の変革を行っている会社を探したんですけど、見つからなかったので起業しました。

鈴木:

その手触り感は今の松本さんにもずっと残っている印象はあって、ハコベルやジョーシスなど、ステークホルダーへのヒアリングをしっかり行って解像度を上げながら新規事業を起ち上げていて、それはこのA.T.カーニー時代の経験も大きかったのかなと感じました。

一戸:

今だとコンサル出身で起業される方はそれなりにいると思いますが、松本さんが起業された当時はどうでしたか。

松本:

そもそも起業している人が少なくて、当時受託を含めて東京で起業している人なんて両手で数えるぐらいしかいなかったです。

一戸:

となると採用プールもあまり無いってことですよね。

松本:

そうですね。なので大学時代の友人に佐俣アンリという今VCをやっている人がいて、彼に連絡を取って、彼から大学時代のカメラ倶楽部の同級生を紹介してもらうとか、そういう最初でした。

設立初日にビジョンを掲げた理由

一戸:

事前にリサーチをする中で、会社の設立初日に「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを掲げたということを知ったのですが、初期の頃は短期的なことで精一杯になる中で長期的なビジョンを掲げていて、なかなかできることじゃないのかなと思ったのですが、どういう背景でこれを決めるに至ったんですか。

松本:

学生時代に作った学生団体があって、そこがビジョンを掲げた団体だったんです。ファンズの柴田陽が起ち上げた団体だったのですが、その団体からの影響がすごく大きくて、やっぱりビジョンがあると人もお金も集まっていくし、より良い大きな目的に向かって人は共感をしてドライブされるというのを実体験としてその時に体感していて。なので、ビジョンをしっかりと掲げることが人を巻き込んでいく上で大事だと思っていました。
内容については、「フラット化する世界」という本があって、その中でインターネットによって世界がどれだけ小さくなったかということが書かれているのですが、それにインスピレーションを強く受けていて、世界の仕組みって変えられるんだということを感じました。それからバックパックしたり、シリコンバレーを回ったり、色々な起業家に会ったりしてるんですけど、今ある制度や仕組み、習慣を変えてしまえば大きな変化が作れるんじゃないかと学生時代から思っていて、コンサルで働く中でも非効率の源泉はそれを形作っている仕組みにあって、この仕組みにアクセスしていくのが一番大きなインパクトを生めるんじゃないかなと思っていたので、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をという言葉を掲げました。

資金調達までの資金繰り

一戸:

実際にそのビジョンを掲げてから最初の資金調達を行うまでにそれなりの期間があったと認識しているんですけど、それまでの資金繰りはどうされていたのですか。

松本:

最初は資本金200万円でスタートしていて、これは貯金です。それから約半年間は売上0が続いて、半年後に「印刷比較.com」を立ち上げてからは月間100万~200万円程度の売上が立ち始めて、その中でやりくりして、その約10ヶ月後にシードファイナンスで借入を含めて約600万円の資金調達を行いました。その後、いくつかの事業会社から2,000万円程度出資をしていただいて、それから約1年間はそのファイナンスした資金と売上でやりくりしていました。

事業テーマの選定

一戸:

元々A.T.カーニー時代に印刷業界の非効率性を痛感した上で事業を立ち上げられたということですが、それとまた情熱を感じる部分は違ったりするのかなと思っていて、どの辺りに業界の魅力や情熱を捧げられるなということを感じられたのですか。

松本:

仕組みを変えることができそうだということですね。

一戸:

ということは、先程のビジョンがあって、その中で最もこの市場が最適なんじゃないかって、そういう思考の順番で考えられたということですか。

松本:

そうですね。非効率が存在していて、自分たちが新しいスタンダードを作っていくことができるということに対して情熱を感じていました。

鈴木:

ちなみに仕組みを変えられるというのはより具体的にはどういうことですか。

篠塚:

2つあって、1つは全体としては縮小していくんだけど、デジタル化が進む中でデジタルだけ切り取ると急成長しており、このデジタルの部分にプレイヤーがいないことです。ほとんどのプレイヤーが縮小していく側にいて、生産キャパシティが大量に余っている一方で需要を獲得できているプレイヤーが1〜2社しかいない中で、我々がインターネットで急拡大する需要を捉えて、だぶついた供給と上手く組み合わせることによって双方がハッピーになるような仕組みを作っていけるのではないかと。
もう1つは、大企業が借金をして生産設備をたくさん買って、その業界の中で圧倒的に仕事が集まってくるようになると、供給量以上の需要を獲得することができますが、それを下請けに流していくので、大手の印刷会社だと7〜8割が下請けで、さらに下請けがまた下請けを作って多重下請けという構図になっており、それが直接印刷する人に仕事を流すことができるようになれば、間接コストが発生しないのでウィンウィンになるということです。これら2つの掛け合わせです。

一戸:

現在新規事業を考える上でもそういった観点で事業アイデアを見つけられていると思うのですが、普段から事業アイデアの着想のために行っていることはありますか。

松本:

色々な業界の色々な情報をとにかくインプットするようにはしています。あとは、仮説を持ってマクロ的に世の中を見ていくことです。例えば、今だと環境問題に対して各国200兆円ずつを10年で投資していくと言っていて、ここでどういうイノベーションが生まれてくるのかということを考えますし、同じく製薬や再生医療もそうですけど、マクロ的な大きなトレンドはすごく見るようにしています。
一方で、ミクロ的な視点で、ジョーシスとかはコロナ禍で我々自身がコストを絞っていく中で、コーポレートITだけはコストを減らすことができなくて、でも蓋を明けてみるとそれにはそれなりの理由があって、その日々の課題の中から深掘っていくということも行ってきました。
マクロ的に見ていくのもあれば、ミクロ的に見ていくのもあれば、両方でどこにチャンスがあるのかということは常に考え、インプットするようにしています。

鈴木:

ジョーシスと同様に、ノバセルも自社のオペレーションの中からオポチュニティを見つけたんですか。

松本:

そうです。自分たちが直面した事業課題や、自分たちの持っているケイパビリティが実は有益なのではないかというところで、それを事業化していくという。

鈴木:

最近のラクスルを見ていると、取引とオペレーション、つまりトランザクションとSaaSを掛け合わせたビジネスモデルを作っている印象があるのだけれども、元々長期的な視野の中でSaaSも仕込んだ方が良いと思っていたのか、それともトランザクションから入っていく中で偶然の産物的に展開していったのかどちらだったんですか。

松本:

お客様が課題を感じていたのが始まりです。顧客の課題の解決の仕方としてトランザクション、所謂マーケットプレイスで解決していくものもあれば、より業務に入り込んでいくようなSaaSもありますが、それらを用いて顧客が抱える課題を解決することがビジネスになっていきました。

シード期において重要な”抽象”と”具体”

鈴木:

松本さんを含めたラクスルの経営陣は具体と抽象の行き来に強い印象があるのですが、自然とできるようになったのか、訓練して鍛えていったのかどちらだったんですか。

松本:

恐らく構造化などの抽象は元々得意だったのですが、一方でそれで事業を行うと全くプロダクトが売れないんです。お金を払ってもらうって結構大変なんですよね。そのためにはお客様の抱えている課題を解決する、もしくはワクワクする商品を作る必要があり、それは抽象ではなく具体ですね。抽象は筋の良い仮説を出すためには重要なんですけど、やっぱり事業を作るのはお客様と向き合う具体で、それを理解しないと売れるものはできないです。

鈴木:

確かにシードステージの初期から仮説通り上手く伸びている会社とそうじゃない会社の差分を考えると、起業家自身が顧客の一次情報を解像度高く取りに行って、それを咀嚼して事業に活かしているというのがあるので、改めて大事な視点だなと感じました。

松本:

とにかく数をこなすってすごく重要だと思っていて、資金調達や採用も全部一緒だと思うのですが、困っている人って行動量が足りていないケースが多いなと思っていて、行動量を一定程度作って解像度が高まって初めて抽象的な思考ができると思っているので、行動量を確保することって実は抽象的に考える上でも必要で、結局はN1をたくさん見ることによって初めてできるんじゃないかなと思います。

1社目の獲得とPMF

鈴木:

「印刷比較.com」からECにピボットして、初期的に描いていたPMFの仮説と実際のPMFでずれはありましたか。

松本:

PMFの概念が無かったです(笑)最初の約1年間はかなりストラグルしていたのですが、その後とても良いサプライヤーとの契約が1社決まって、それから商品ラインナップなどが大幅に変わった際にお客様の反応が一気に変わりました。これが1回目の明確に売れ行きが変わったタイミングです。
もう1つはマーケティングがフィットしたタイミングです。マーケティングがフィットして、売上の角度がもう一段上がりました。
1回目のPMFは事業をスタートした約1年後ですかね。2回目がその約1年2〜3ヶ月後で、その際に予実がずれなくなりました。MoMで30%の成長をしていたのですが、それでも予実が99%みたいな感じでした。じゃあマーケティングコストを今の10倍に増やしても大丈夫だろうということで、今で言うシリーズAの調達を行いました。

一戸:

当初はまだ事業が全然ブラッシュアップされていない状況だったと思うんですけど、その中で最初のクライアントの獲得はどう行いましたか。

松本:

紹介で会って見積もりを出して普通に営業をしていました。最初はドキドキしながら納品していたのですが、印刷物を実際に送ってもらってそれを届けるということの繰り返しでしたね。

鈴木:

そうですよね。あと、自分たちで購入した印刷機でも生産してノウハウを貯めて、そのノウハウを色々なサプライヤーに提供していましたよね。

松本:

当初はセールスの伸びが速すぎて生産が追いつかなくなりました。普通の印刷会社はロングランと言って、1回版をセットすると5〜6時間、場合によっては3日間回し続けるような形なのですが、我々の場合15分おきに版を取り替えていくことが求められるため、これを実現するためには細かい改善が必要になり、そういうナレッジを持った印刷会社が最初のパートナーの数社以外にあまり無く、自分たちでも生産しなければいけないとなりました。ただ、ずっと印刷機を抱え続けると仕組みが変わることにはならないので、そこは意志を持ってアセットは拡張せず、ノウハウを拡張するようにしていました。

一戸:

今でこそDXという言葉がどの業界でも浸透してきていると思うのですが、当時はそこまでな中で、印刷業界のデジタル化に対する抵抗はありましたか。

松本:

冷ややかな目で見られるというのは多分にありましたし、実際に提携をしていただく壁は非常に厚かったです。我々は印刷会社に対するリクワイアメントが結構高くて、やりきるとすごく収益が出るんだけどやりきるには努力をしないといけない形になるので、全ての会社と上手くいくわけではないんです。なので、印刷会社さんとしてはラクスルとやって本当に儲かるのかというところと、あとは、ラクスルが最後に裏切らないのかということですね。それに対して我々は「印刷会社さんと共にあります」ということを実績で示して関係性を作っていました。

自分より優秀な人を如何に採用するか

一戸:

次に組織と採用ついてお話をお伺いしたいのですが、先日のSIGNALの記事でもマネジメント層のメンバーがかなり入れ替わった時期があるというお話をされていましたが、ラクスルの創業当時はそこまでスタートアップ環境が整っていない中で、最初の10名はどのように集められていましたか。

松本:

2009年に会社を創業して、2011年ぐらいから採用を始めて2011〜2012年にシリーズAで2.3億円を調達して、そこから人が増えていき、2014年2月に15億円を調達をしました。そして、2013〜2014年に20名程いた正社員が約8割辞めたんですね。そこから組織を作り変えて今のリーダーシップチームが参画してくれました。
最初の10名で言うと、それまでは私はマネジメントがとても下手だったので、自分より優秀な人を採用しないといけないなと思っていました。そこでメンバーから揃える軍人型の組織だったのを、トップから揃えるチーム経営型の組織に変えていったのが2014年です。
その時はとにかく転職市場に出ている人みんなに会って良い人を探していて、自分の時間の5〜6割は採用に割いていました。今のリーダーシップチームが入った後はもう任せて何も言わず、背中を任せていくような体制に数年かけて徐々にシフトしていきました。

一戸:

自分より優秀なメンバーを採用するのってそれだけ難易度も高くなると思うのですが、実際に採用する際に意識されていたことはありますか。

松本:

当時は投資家へのピッチ資料を使って話をしていて、その目線でちゃんと話ができる人ということを重要視していました。事業のポテンシャルやビジネスモデル、マーケット、バリュープロポジション、競合環境が全部ピッチデックに載っているので、それをベースに話をしていました。そうすることで、投資をすればしっかりと会社が伸びていくということをジャッジできる人が入ってきてくれます。

鈴木:

松本さんは最近は昔と比較して組織の話をするようになっているという印象を受けていて、そのきっかけは何だったんですか。

松本:

今は4つの事業を行っていますが、全部自分で見ることはもちろんできないのでチームを作っていかないといけなくて。チームってやっぱりリーダーが率いることによって初めて機能するので、そういう人をどれだけ仲間に率いることができるか、もっと言うと育成することでそういうリーダーを生み出していくことができるかで会社のサイズ感が決まっていくと考えています。自分の器よりも大きな会社を作ろうとすると、優秀な人が活躍して、長期でコミットできる環境を如何に作っていくかが自分の一番の仕事だなと、事業が複数化していったからこそ思うようになりました。

鈴木:

ちなみに今創業期の自分にアドバイスをするとしたらどういうアドバイスしますか。

松本:

フェーズ次第だと思うんですけど、ゼロイチの時はあまり組織に走らない方が良いと思っていて、PMFをするまでは人が少ない方が良いし、投資資金もそんなに無い方が精度が上がっていくと思っています。最初は事業をやらないといけなくて、顧客と会わないといけないし、それをいきなり任せてはいけなくて。なので、振り返るとそんなに間違ったことはやっていなかったと思っている一方で、ハードランディングしすぎていたとは思います(笑)

次回のゲストとお知らせ

次回のゲストは松本さんにご紹介いただいたマネーフォワード創業者の辻さんです。皆さん、ぜひ楽しみにしていてください。

また、ラクスルは現在積極的に採用活動を行っております。ご興味のある方はぜひこちらからチェックしてみてください。

ラクスルの新規事業のジョーシスについても皆さんぜひチェックしてみてください。50名以下の場合は無料で利用可能とのことです。

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