
#22 インド投資の実践論!日本発VCが巨大市場で築く独自のポジション【ジェネシア・ベンチャーズ 相良 俊輔】
ジェネシア・ベンチャーズが配信する『Ayo! by Genesia.』は、スタートアップの“挑戦の裏側”に光をあてるPodcastです。プレスリリースなどのオフィシャルな情報だけでは伝えきれない、挑戦のプロセスで生まれる想いや葛藤、そしてリアルな学びを、起業家と投資家、それぞれの視点からお届けします。
「Ayo!」はインドネシア語で「Come on!」「Let’s Go!」という意味。スタートアップのチャレンジをリアルにお届けしていきます💁♂️💁
今回のゲストは、前回に引き続き、ジェネシア・ベンチャーズのインドオフィスの代表(Country Director of India)の相良です。 モデレーターは、同じくジェネシア・ベンチャーズの水谷が務めます。
前編はこちら💁♂️💁:https://www.genesiaventures.com/21-ayo-by-genesia/
目次
- 競争の激しいインドで、後発の日系VCが選ばれるための戦略
- ファウンダーのパーソナルな部分に踏み込む、インド流の関係構築
- インドで伸びているスタートアップ:シリアルが挑む青果のeコマース『Handpicked』
- インドで伸びているスタートアップ:教育投資と結びつく、スポーツ教室『Sport for Life』
- アウトサイダーだからこそ見える、未開拓の巨大市場
- 「大きな川の亜流であれ」— マクロで順張り、ミクロで逆張り

競争の激しいインドで、後発の日系VCが選ばれるための戦略
水谷:前回に引き続き、相良さんのインドでのチャレンジについてより深掘りしていきたいと思います。
相良:まず少しだけ、(前編の続きとして)競争が激しい環境の中で僕たちがVCとしてどうやって選ばれているかについて補足させてください。
要素としては「個人」と「ファンド」の二つのレイヤーがあると思っています。
まずは個人のマインドセットやコミットメント。前回もお話ししましたが、「この投資家はツーリストではなく、長期でコミットしてくれる仲間」と認識してもらうことです。また、僕自身がコンサルや金融業界の出身ではなく事業会社にいた人間で、かつその会社がソフトバンク傘下のarmに買収されたという経歴から、ただ上から目線で事業を評価するだけではない「こっち(現場)側の人」という認識もされて、打ち解けやすいという点があります。
その上で、投資家としていかにアロケーションをもらうかを考えると、ファンド単位でどう振る舞えるかという要素も重要です。一つは、リード投資にこだわらないこと。この競争環境で、新参者がトラックレコードもネットワークもない中でリードを取るのはすごく難しい。その点においてIncubate Fundの村上さんやBEENEXTの佐藤さんは本当にすごいと尊敬していますが、後発の日系VCとしては、まずはフォローインベスターとしてユニークな存在になり、キャップテーブルに1席もらうという入り方をしています。
どうユニークなのかを説明する上では、日系という出自を活かします。BtoBソフトウェア企業であれば「日本展開を手伝いますよ」という話ができますし、実際に次のラウンドの投資家を紹介することもできます。
また、海外投資家というくくりの中にもいくつかの分類があると思っています。僕ら日系VCと、アメリカから来ているSequoiaやAccel、LightspeedなどのTier1ファンド。彼らは投資家然とした振る舞いをすることが多いですが、僕らは必ずしもそういうアプローチを取りません。ファウンダーと友人やメンターのような関係性を築いて、その延長線上に投資家としての権利がある、というスタンスです。
特にシード期に近づくほど、より長期的な目線で同じ思想を持って、近しい関係でやっていけるかが大事になります。思想的な共感や、その人のパーソナリティに興味を持つ姿勢、瞬間風速的なリターンより長く続くプロダクトや企業を生み出したいという「ロングセラー志向」は、話していると滲み出てくるもの。そこは、僕らを含め、日系VCが同じような印象を持たれていると感じます。機能として提供できるバリューはコモディティ化していきますが、そういった定性的な部分との組み合わせで、総合的な魅力の塊を作って戦っています。
ファウンダーのパーソナルな部分に踏み込む、インド流の関係構築
相良:・・しかし、僕のこの話の長さも速度も、インドに馴染んできた感がありますね。
水谷:めちゃくちゃしゃべりますよね。相良さん、インド化しているな・・と感じます。スタートアップのファウンダーともかなり早いタイミングから話しているみたいですよね。いわゆるVC面談というような、会社紹介と事業ヒアリングだけではなく、それ以上の自己開示やすり合わせをした上でアロケーションが決まっているのかなと思いました。
相良:そうなんです。だから初回面談の45分のうち、35分は事業の話をしないこともよくあります。
水谷:何の話をしているんですか?
相良:パーソナルな話です。出身地、その地域の産業、家族構成、育った環境、大学生の頃に何を考えていたか、職業選びの経緯などを全部聞きます。自分の話も交えながら。
水谷:最近のビジネスマナーだと、そういうバックグラウンドに踏み込んじゃダメ、という風潮が強いですよね。真逆ですね。
相良:真逆です。ただ、僕は仮に日本に居続けていたとしても、確信犯的に真逆をやっていたと思います。そこを越えられない関係性は希薄で浅いと思うからです。もちろん場は選びますが、ファウンダーとは、投資家であり、メンターであり、近しい友人でもありたいので、初回の入り方から変えていかないとダメだなと。それに、僕以上におしゃべりなインド人が多いので、しゃべり負けしないようにしないと!という意識もあるかもしれません。
インドで伸びているスタートアップ:シリアルが挑む青果のeコマース『Handpickd』
水谷:2023年の渡印からこれまで7社のスタートアップに投資して、まさに今朝8社目の投資委員会を終えたところだと思いますが、その投資先の中で特に成長している「推し」のスタートアップについて教えていただけますか?
相良:今一番伸びているところは、野菜とフルーツのeコマースをやっている『Handpickd』です。元々『MilkBasket』という乳製品やグロサリー全般のデリバリーサービスを立ち上げて、大手財閥のRelianceに売却したファウンダーが二周目で作った会社です。日本人の感覚からすると「食品のECなんて今さら・・」と感じるかもしれませんが、インドはサプライチェーンがもろく、消費者が得られる生鮮食品の選択肢が少ないんです。
一方で、消費者は10分以内に物が届くクイックコマースの体験に慣れてしまっている。インフラも悪いので、10分かけてスーパーに行きたくないけど、クオリティが担保されたものがほしいという欲求が2026年の今でもあるんです。そこに、強いファウンダーが取り組んでいるのがHandpickedです。
水谷:ビジネスモデル的には青果流通の商社のようですが、デジタルでの最適化や、コールドチェーンの未成熟さといった部分に事業機会が残されていたということですか?
相良:そうですね。生鮮の流通や小売りの課題は一般消費財以上にあります。また、収入が上がってくると、安さだけでなく、より良いものへの欲求が高まってきます。すごく高くはないけど、それなりの価格で良いクオリティの野菜やフルーツが毎朝6時半に届く、というサービスに人気があるわけです。
水谷:VCから資金調達してるんですか?流通業だと銀行からも借り入れできそうですが。
相良:VCから調達しています。初期はBtoBの卸から始まりましたが、今は完全にBtoCのデリバリーアプリになっているので、ある程度キャピタルインテンシブなモデルになっています。ただ、ファウンダーは利益へのこだわりもすごく持っているので、そのバランスは取れるだろうという仮説を持っています。
インドで伸びているスタートアップ:教育投資と結びつく、スポーツ教室『Sport for Life』
水谷:他にはありますか?
相良:変わり種では『Sport for Life』という会社があります。サッカー教室やテニス教室のような、すごくフラグメントなユース年代のスポーツ教室市場に、D2Cとロールアップのハイブリッドで参入している会社です。ここは結構ユニークで、着実に伸びています。
水谷:サッカーなんですね、クリケットじゃなくて。
相良:今注力しているのはサッカーです。僕もこちらに来る前は、インドのサッカー人口は少ないんじゃないかと思っていましたが、僕らの世代はアメリカやイギリスの大学に行ったり、欧米の価値観に半分染まって育ってきたりしているので、普通にプレミアリーグのファンだったり、ウィンブルドンを楽しみにしていたりします。
その世代が親になると、子どもをスポーツ教室に通わせることが多くなります。サッカーの人気は思った以上に高いですね。僕自身も土曜の朝早くからフットサルをしていますし、クリケット以外のスポーツが草の根で広がっているんです。
おもしろいのが、これが教育投資と結びついている点です。インド工科大学(IIT)に入るならガリ勉でいいのですが、イギリスのオックスブリッジやアメリカのアイビーリーグを目指すとなると、勉強だけでは行き着けない。そこで、早いうちからスポーツをやらせて、万に一つ国際大会で賞でも取れば、大学へのアプリケーションに書けるという世界線があるんです。
水谷:なるほど!
相良:だから、僕らの世代で経済的に余裕のある人たちは、子どもをインターナショナルスクールに通わせて、スポーツを含めた習い事に投資する。そういう背景があるんです。
アウトサイダーだからこそ見える、未開拓の巨大市場
水谷:インドならではのビジネスオポチュニティですね。今後、ポテンシャルのある領域はどこだと見ていますか?
相良:僕がインドのトップVCで働いていたら、マーケットが伸びているのでどのセクターにも順張りで投資すべき、という話になると思います。でも、僕は36歳で日本から来たアウトサイダー。同じことをしても、起業家が感じるバリューにはつながりません。
だから、僕自身の経験や、アウトサイダーだからこその視点、人的ネットワーク等々を全部盛り込んで活路が開ける領域はないかと考えています。例えば、日本の“お家芸”である製造業に絡めた「フィジカルAI」。先日会った起業家は、溶接工の仕事をAIロボットで代替しようとしていました。熱くて危険な3K(きつい、汚い、危険)の仕事は、人がやるよりロボットに代替した方がいい(売り先はインド国内ではなく、人件費単価が高く人手不足も深刻な北米や欧州が中心)。既存のロボットにエッジAIとビジョン・ランゲージ・モデルを組み合わせてAIロボット化するという事業です。こういう領域でインドのタレントが事業を作った場合、戦略的に日本市場を狙う意味は大きい。そこに僕らならユニークな価値を提供できる可能性があると思っています。
もう一つ、個人的に温めているのが「シニアケア」です。インドは平均年齢28歳の若い国ですが、一方で60歳以上の人口が何人いると思いますか?
水谷:母数が15億人ですから、億単位ですよね。
相良:1.5億人です。60歳以上だけで日本の総人口を上回るマーケットなんです。中国がそうであるように、今後急速に少子高齢化が進んだとき、日本の比ではない規模の圧力に直面します。まだ参入プレイヤーはいませんが、例えばインドの富裕層向けに高級老人ホームを作ったらどうなるか、といった頭の体操を日々しています。箱物ビジネスなのでインドのVCからするとセクシーな領域ではないかもしれませんが、日本から来たアウトサイダーとして誰よりも早くこの領域の可能性を信じ、起業家の想いにベットできれば、先行者利益を得られるかもしれません。「親は子が見るべき」といった社会的なスティグマなど、突破すべき壁はありますが、開拓できたら大きいと思っています。
「大きな川の亜流であれ」— マクロで順張り、ミクロで逆張り
水谷:インド市場のポテンシャルは大きいので、多様な側面に可能性があると感じますし、アウトサイダーの価値がそこにあると。いつしかそれがメインストリームになっていく予感もします。
相良:以前、社内のインタビューで「大河(大きな川)の亜流であれ」と自分に言い聞かせていると話しました。インド市場はマクロで見ると順張りですが、その中でどうユニークネスを発揮するかというミクロの視点では、逆張りをしなければいけないと思っています。
まだ現地のVCや起業家が目をつけていない領域にもアンテナを張って、僕らが持ち込めるものを結集して何かできそうなら、積極的にトライしていく。メインストリームの投資は、フォロー的な関わり方で創業者やコインベスターの信頼を獲得する手段としつつ、自分たちの主戦場は、自分たちの出自やゆかりを活かせる領域に作る。それはアメリカやインド的な時間軸やスケーラビリティでは評価できないかもしれませんが、それでもいい。その分野でユニークなアプローチを取って、10年という期間でリターンが目指せるなら、トライできると思っています。
水谷:非常に心躍るチャレンジですね。相良さんと一緒にチャレンジしたい― インドのスタートアップに興味がある、一緒に事業を作りたい、投資をしたいといった方がいらっしゃったら、相良さんのSNSに連絡してもらってもいいですか?
相良:はい、ぜひ!すでに関係を築いている投資家の方々に限らず、日本の出自を活かしてインドでディフェンシブルな堀を築ける領域であれば、日本人のファウンダーとインドの起業家候補をくっつけて共同創業させるようなこともトライしたいです。血を混ぜ、市場を合体させるには、日本からもっと多くのチャレンジャーが来てくれないと実現できませんから。僕自身も仮説検証を繰り返して実績を出していきますが、そのサイクルに乗ってくれる方がいれば、ぜひご連絡いただけるとうれしいです。
https://www.linkedin.com/in/shunsuke-sagara-1300324a
水谷:相良さんのインド節が炸裂した回でした。ありがとうございました!ジェネシア・ベンチャーズのPodcast『Ayo! by Genesia.』、また次回をお楽しみに!
相良:Ayo~~!
全編はPodcastでお楽しみください💁♂️💁
インド投資やインド生活にまつわるあれこれはこちらからもご確認ください💁♂️💁:https://note.com/snsk_sgr


