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【シード調達のリアル #4】”DD(デューディリジェンス)”- Finance by Genesia. –

投資ステップ

ジェネシア・ベンチャーズの相良(@snsk_sgr)です。

「長考に好手なし」

これは将棋の世界に伝わる格言ですが、スタートアップ投資の現場においても同じことが言えるのではないかと思います。

長く考えたところで必ずしも良い手に行き着くわけではなく、むしろ長考は迷いが晴れないことの裏返しであり、思考に負のスパイラルを招くものとも言える、ということですね。

またシード投資の現場では、有望な企業であればあるほど投資家間の競合が激しくなるため(東南アジアでは特にこの傾向が顕著です)、呑気に長考している余裕などありません。さらに言えば0から1を起こすシードの段階で議論できること、議論の価値がある論点はそもそも限られています

勝負の場面では、時間的な猶予があまりない。論理的な思考を構築していたのでは時間がかかりすぎる。そこで思考の過程を事細かく緻密に理論づけることなく、流れの中で「これしかない」という判断をする。そのためには、堆(うずたか)く積まれた思考の束から、最善手を導き出すことが必要となる。直感は、この導き出しを日常的に行うことによって、脳の回路が鍛えられ、修練されていった結果であろう。
羽生善治 『直感力』(PHP新書)より抜粋

一方、資金調達を行う起業家の視点でも、出資可能性があるのかないのかは早く知りたいし、ないのであれば他の投資家に当てるリソースを多く割きたいと考えるはずです。

以上の理由から、シード投資にはスピーディーに実行される必然性があり、実際私たちが投資判断のために行っている社内の検討プロセスも2週間程度で完了することが多いです。

そのため一般的にDD(デュー・ディリジェンス)という言葉から連想する金融の専門知識に基づいた深く細かい審査は、少なくともジェネシアでは実務上行っていません(利益どころか売上も立っていない企業に対してDCF等のモデルを使おうと思っても使えないという構造的な背景もあります)。

スピード勝負の成否を分ける「直感力」

それでは投資対象企業をどのように評価、判断するかといえば、まさに上記引用著書のタイトルにも冠されている「直感力」が個人的な感覚に最も近いです。無意識下に生じる動物的な勘というよりは、どちらかというとある種の論理性を帯びたものであり、記憶や経験に裏打ちされたひらめきのようなものだと認識しています。

ということで、冒頭からやや肩透かしを食らわせた感じになってしまいましたが、「スピードを重視して直感に従い投資しています。以上」ではあんまりなので笑、本稿では私たちの「直感」が何によって構成されているのかを可能な限り言語化する試みを通じて、起業家の皆さんと私たちの間に存在する情報の非対称性を解消し、資金調達における機会均等を促進していければと考えています。

シード投資のDD=究極の相性診断

まず大前提として、シード(に限らずあらゆる未上場企業への)投資におけるDDとは、投資家が一方的に起業家や経営者を審査したり評価したりするものではなく、双方向の相性診断であり、双務性を伴ったプロセスだと考えています。

したがってここでは、私たちがスタートアップをどう見ているかという内容と合わせて、スタートアップがどのように投資家を見るべきかという逆の視点の考察についても付け加えてみたいと思います。

ではまず私たちがスタートアップをどのように見ているかという点ですが、上述の通りDDを相性診断として捉えた場合、前提として大事なのは向いている方向が同じかどうかという基準です。

ジェネシアでは自社のCI(コーポレートアイデンティティー)の一部として、起業家の方々と共に実現していきたい六つのテーマを言語化しています。

したがって、お会いするスタートアップの事業アイディアの根底にこうした思想レベルの共感があるかどうかという点は、そもそもの入り口として非常に重要な分水嶺となります。

VCにもスタートアップと同じように投資活動を通じて実現したい世界観(ビジョン)があり、個々の投資案件はある意味でそのビジョン実現に向けたチームビルディングという側面を持つため、最上位のフィルターとして上記の基準を設けている背景があります。

投資基準は「市場・経営チーム(・戦略)」

シード投資の役割は、優れた市場に、優れたチームが、適切なタイミングで参入するのを支援することだと考えています。その上で、投資判断を行うにあたって私たちが重視しているポイントは、市場・経営チーム(・戦略)の二つ(三つ)です。

戦略を括弧としたのは、本質的には何を、誰が、いつやるかが重要であり、どうやるかは可変なのでシードフェーズで煮詰めても仕方がないということです。

したがって市場・経営チーム・戦略の各要素は4:5:1くらいの比重で検討しています。ここでは、より重要な大項目である市場と経営チームの二つについて、ポイントを詳述してみたいと思います。

まず、市場を見る上で大事にしているのは、現時点の断面を切り取って大小や良し悪しを判断するのではなく、その市場、事業領域が中長期でどういう姿形に変わっていくのか、それを誘発している/し得るトリガーは何か、という動的な視点です。

社内ではよく「水が高いところから低いところに流れるイメージが湧くか」という議論が起こりますが、それはまさにユーザーや社会を取り巻く技術的、環境的諸要素を踏まえた時に、どちらの方向に進んでいくと考えるのが合理的かという視点からくるものです。

現時点の市場構造は□という形をしているが、その背後に生じている力学がそれを◇に変えていっている、そしてその流れが不可逆なものであれば◇をその事業の対象市場として捉える、という発想になります。

算盤で弾ける静的な市場規模そのものよりも、その市場を水面下で突き動かしている力学の構造とその強さに着目して「優れた市場」か否かを判断するイメージです。一過性のある表層的なトレンドではなく、普遍的で不可逆な力学なのかどうかを重視しています。

したがって、この□→◇の方向性に関する目線が起業家の方との間で合うかどうかというのが一つ目のポイントになるわけですが、一方でそうした大きな市場の方向性についてはズレがなくても、その□→◇を起こすためにものすごく強い重力が必要なドメインが存在するというのも事実です。

行政や医療、インフラ等の法規制が多く絡む市場はその典型ですが、他にも宇宙開発やブロックチェーン等まだ一般に馴染みのない新分野を創造するタイプの市場もこれに該当するかと思います。

この場合は、経営チームがそれを打開するだけの、あるいは移行スピードを大きく上げるだけの重力を持つか/持ち得るかがポイントになります。市場と経営チームをセットで考える必要がある、というのはこうした背景に起因するものです。

□→◇への移行を妨げたり(□→□の慣性)、あるいは逆方向の重力をかけてスピードを下げたりする他の因子としては、その市場で大きなシェアを持つ先行プレイヤーや既存の商習慣、ユーザーのリテラシー等が挙げられます。

したがって、投資検討にあたっての論点を極めて簡略化するとすれば、□→□の重力よりも□→◇の重力の方がより大きくなることが客観的に認められ(A)、その重力をより大きくするためのトリガーを経営チームが備えている(B)か否かということになります。

Aは市場領域を問わず前提となる必要条件、Bは□→□の重力が相対的に強い(自然の流れだけでは十分に加速しない)、あるいは□→◇を推進する代替サービスや競合プレイヤーが既に存在する市場領域における十分条件というイメージです。

この辺りは、前稿でGPの田島がスライドを使って詳しく解説しているので、こちらも合わせてご参照ください。

次に、経営チームをどのように見ているかという点ですが、個人的には優先度順に以下の五要素が大事かなと思っています。

1.誠実さ
2.視座の高さ
3.しなやかさ/粘り強さ
4.手数の多さ
5.経験の量と質

1-3はどんな事業をやるかを問わず期待したい要素です。誠実さがないと顧客や従業員、取引先や株主等多くのステイクホルダーを持続的に巻き込んで価値創造をすることが難しいですし、視座が低かったり粘り強さがなかったりすると大きな成功を掴む前に経営者自身の燃料が尽きてしまいます。

澄んだ水で満たされている、大きな欲求のタンクを持った起業家

前稿で田島が上記のように表現していましたが、これはまさにこれらの要素を言い表したものと思います。

こうした性質は一回二回の打ち合わせで判るものではないため、会食や共通の知人へのヒアリングを通じて、可能な限り多面的なコミュニケーションを取る中で理解を深めていくように心掛けています。

4は後天的に獲得し得る素養でもあるため1・2よりは優先度が落ちますが、高速かつ断続的な仮説検証があらゆる事業のPMFの必須条件である点で非常に重要です。

・事業戦略の仮説の解像度の高さ
・総合的なエグゼキューション能力

前々稿でGPの鈴木が強い経営チームの要素として上記2点を挙げていましたが、いずれもこの「手数」と強い相関があるように思います。

5は先述した□→□の重力が相対的に強い(自然の流れだけでは十分に加速しない)、あるいは□→◇を推進する代替サービスや競合プレイヤーが既に存在する市場領域を攻める上でとりわけ大事な要件となります。

この5つめの要素である経営チームの経験の量と質を、私たちは必要条件ではなく対象市場に紐づく十分条件と捉えているのですが、それには理由があります。

仮にあらゆる市場に対して明確なFounder Market Fitを要求してしまうと、それに適合した要件を備える起業家が適切なタイミングで市場に参入する時にしか投資ができないことになり、それは結果的に社会全体のイノベーションの総量を小さくする帰結を招いてしまうと考えるためです。

市場の機が熟したタイミングでその市場の攻略に最適な要件を備えた起業家が出現する確率は決して高くない。その一方で社会の課題は刻一刻と増大していく。その間で浮いてしまう白地の部分を、熱意のある起業家と共にリスクを取って拓きにいくのがシード投資家の本分であると思っています。

起業家は投資家をどう見るべきか?

さて、これまで投資家として起業家、経営チームをどう見るかいう視点で考えを述べてきましたが、一方の起業家側も招き入れたい投資家の要件を明確にし、それに沿った質問や会話を通じて期待役割を遂行してくれるかどうかを確認すべきと考えます。

特にシード投資において、株主は創業チームの一員とも言えるため、最良のパートナーを探し出す上で以下の要素は最低限見ておきたいポイントです。

・得意とする/好みの投資領域はあるか、あるとしたらどこか
・バリューアップ支援(がある場合)は何を期待できるのか
・シリーズA以降の主要投資家とのパイプを有しているか
・投資方針に節度があるか(一業種一社の原則はあるか)
・チェックサイズはどのくらいか
・追加投資はあるか、あるとしたらその基準とサイズは
・投資担当者(&チーム)に誠実さはあるか
・投資担当者(&チーム)の強みは創業チームの弱みを補完できるか

以上が教科書的なチェックポイントだとすると(ジェネシアとしての上記項目に対するスタンスについては投資方針に関するFAQも適宜参照下さい)、もう一つ付け加えておきたい点があります。それは、

・事業の実績ではなく、実績の因子に目を向けて投資する視点があるか

というものです。

これはある意味でシード投資家に限らないものかもしれませんが、目に見えるトラクションばかりを気にして、その背景にある構造や因子に目を向けない投資家は、投資後もずっとそんな調子で「導入社数(ユーザー数)は?」「MRR(GMV)は?」と問い続けてきます。

もちろんトラクションを重視すべき時期もあるため一概に良し悪しの判断はできませんが、何もない更地に巨大なビルを建てようとしている最中、「進捗はどれくらい?」「いつ完工するの?」という質問を投げかけても得られるものが多くないばかりか、仕上がりとして土台のぐらついた掘っ建て小屋ができるのが関の山です。

それよりも土壌の質や鉄骨の組み方、資材の調達といった大きな成果を構成する因子に目を向けて、その強化方法や代替案について議論を深める方が(文字通り)建設的であり、実りも多くなります。私たち自身はこちら側の視点の体現者でありたいと常々願っていますが、改めて大きな産業創造・産業変革の当事者としての意識を強く持って活動していきたいと思います。

終わりに

最後に、Finance by Genesia. という連載を始めた背景にある想いについて簡単に触れさせてください。

昨今、数多くのVCファンドが組成され、数百億円規模の大型ファンドも珍しくなくなってきました。ベンチャーキャピタルの数が増えることはスタートアップエコシステムにとってポジティブな一方で、起業家から見ると、自社の事業ステージや事業領域にどのVCがフィットするかや、実際の資金調達に至るまでのプロセスが見えづらいのが現状だと思います。

その結果、起業家が投資を受けられる可能性の低いVCにアプローチしてしまったり、資金調達に繋がらないコミュニケーションに時間をかけてしまうなど、起業家の貴重な時間を最大限有効活用できていないケースも生じてしまっているように感じています。

そのような想いから、「起業家との出会い」「投資対象や投資基準」「DD」「意思決定」「資金調達後のコミュニケーション」といった私たちの投資活動全般についてのありのままのリアルを出来る限りお伝えする “Finance by Genesia.” というシリーズを始めました。

第四稿は以上となります。Finance by Genesia.第五稿は、「投資委員会」について、一戸からお送りします!

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