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「好き」を紐解いた先の、シードVCという天職|鈴木 隆宏

PHILOSOPHY

ジェネシア・ベンチャーズは2016年の設立以来、「新たな産業の“種”から”最初の芽”を出すこと」を自分たちの役割だと考え、一貫して創業初期のスタートアップの1stラウンドにおいて投資をしてきました。まだ事業アイデアしかない、起業家一人だけのチームで組織もオフィスもない、そんなフェーズのスタートアップに投資し、未来をより豊かにするサービス/プロダクトを広く世の中に届けるために私たちも“チームの一員”という意識で伴走しています。

2022年に、国が主導する「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、日本のスタートアップに各方面からの注目と投資マネーが集まり、また、スタートアップを生み出し育てるためのエコシステムも各地・各所で大きく育ちつつあります。

その中で、新しい技術、新しいサービス/プロダクト、そして新しいリーダーたちとともに、「社会に対して大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すこと」を担うのはやはり、創業初期=シード期から投資をするベンチャーキャピタル「シードVC」であると、そして、私たちがまさにその当事者であると考えています。

本シリーズ『シードVCのシゴト観』では、ジェネシア・ベンチャーズで実際にスタートアップへのシード投資と経営支援に従事するベンチャーキャピタリストそれぞれが改めて考える「シード投資」と「シードVC」についてご紹介します。

・なぜ「シードVC」に懸けるのか?
・「シードVC」としての役割やこだわりは何か?
・そして、ジェネシア・ベンチャーズで実現したいことは?

本稿の主役は、General Partnerの鈴木さん(以下:タカ)です。

  • 聞き手・まとめ:Relationship Manager 吉田愛/Intern 夏堀 栄
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”テクノロジー×社会貢献”という軸を見据えたキャリアが、VCに結びつくまで

interviewer:

2007年4月に新卒で入社したサイバーエージェントにて、toCマーケティングやゲーム事業に携わっていたタカさん。2011年6月に同社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)に移籍、2018年からはジェネシア・ベンチャーズにGPとして合流、と、ここ10年強は一貫してベンチャーキャピタリスト業務に従事されていますが、新卒時代からVCに興味を持つまではどんな経緯だったんでしょうか?

タカ:

学生時代からインターネットサービスが大好きでした。テクノロジーと新しい思想によって人の生活を大きく変化させるサービスがどんどん生まれることにシンプルにわくわくしたのと、やっぱりそうした新しいものに知的好奇心が刺激される感覚があったからです。そんな志向もあり、学生時代の2005年末頃から『13歳のハローワーク』というWEBサイトの立ち上げと運営をさせてもらってました。同時に社会貢献にも興味があったので、カンボジアの現地NGOの広報活動の一環で、日本の大学生向けのスタディツアーを企画する学生団体の運営にも携わっていました。元々興味があったことと学生時代のそうした経験とを通じて、「“テクノロジー”と“社会貢献”の二軸で、社会人としてのキャリアを形成していきたい」と考えていました。漠然としていますが、Microsoftのビル・ゲイツに憧れて、自分で起業して会社を大成功させて築いた資産で社会に貢献するような活動をしていきたいという想いも抱いていました。

2004-5年くらい、つまり僕が大学2-3年生くらいの時にはそういった想いがあったので、将来自分で起業する上で、新規事業の立ち上げをたくさん経験できる会社に行った方がいいと考えて、新卒でサイバーエージェントに入ることにしました。内定者時代からインターンとして、サイバーエージェントの元グループ会社であるCyberBuzzに参画させてもらって、学生時代を含めて三年くらい働きました。その後は、今はもう精算したCyberXという子会社の立ち上げメンバーとして、こちらにも三年くらい在籍してマネジメントを経験しました。

ただ、サイバーエージェントに入社したのは、元々その先の起業を見据えていたから。たしか採用面接の時にも、「三年くらい修行したら辞めて起業します」って言ってました。サイバーエージェントはそれでも採用してくれた懐の深い会社でしたが、それぞれの事業を三年ずつくらいやって、マネジメントも経験した2010年末頃のタイミングで、そろそろ起業したいなと考えるようになりました。そこにたまたま、サイバーエージェントがインドネシアに新しく投資拠点を立ち上げようとしているという話を聞いて、ぜひ参画してみたいと思いました。

当時はVCのことも投資のことも全く知りませんでしたが、幸い、事業の立ち上げや組織作りの経験も、新興国への興味や耐性もあったので、それら活かせるのではと思って上層部と話をさせてもらいました。結果として、サイバーエージェント・ベンチャーズ(以下「CAV」と表記、現:サイバーエージェント・キャピタル)に異動することになり、それがVCという仕事に出会ったきっかけでした。ただ、その時はまだ、起業する前に投資家側の目線を知っておくための一つのステップにしようという意識でした。

シードVCは、大好きな0→1に関わり続けられる天職

interviewer:

当初、VCは起業前の一ステップと考えていたとのことですが、それからもう10年以上、現在も引き続きVCとして働いているのはなぜでしょう?

タカ:

CyberXにいる頃だったと思いますが、僕は事業を50→100とか100→1,000に伸ばしていくことよりも0→1とか1→10にすることが好きだと気付きました。そういう意味では、起業すれば0→1をすることはできるけど、0→1を“し続ける”ことは難しいとも思っていました。一つの事業を成功させてキャッシュに余裕がある状態を作ってまた次の新規事業を立ち上げて・・ということの繰り返しでは、自分がやりたいことの量に対して圧倒的に時間が足りないと。そんな迷いがあった時に、インドネシアでの投資拠点の立ち上げの話があったんです。これは実際にCAVに入ってから感じたことですが、VCという仕事は、僕の知的好奇心を満たし続けてくれました。特に、まだプロダクトもできていないようなまさに0→1の時期のスタートアップに投資して、ごく近い距離で経営のサポートができるシードVCという立場は、自分が大好きな0→1の瞬間に一番多く携われる仕事。その時に初めて、「これって天職に近いかもしれない」と思いました。そうして7-8年くらいが経った頃には、これからもずっとVCとして生きていこうと決めました。

interviewer:

そもそも起業を目指していたタカさんは、ご自身で独立する道もあったと思いますが、ジェネシア・ベンチャーズに(前職CAVの上司でもあった)田島さんとの共同GPとして参画することを選んだのはなぜですか?

タカ:

VCとして生きていこうと決めた時、最初はもちろん一人で独立することを考えていて、ファンドレイズにも動き始めていました。元々起業したいと思っていたのもそうですが、独立しようと考えていた大きな理由の一つは、スタートアップの起業家と同じようにリスクを負ったチャレンジをしておきたいという想いがあったからです。もちろん、その経験がVCとしてMust haveなわけではないですが、近い経験をした者同士だからこそ対等な目線で話せる部分もあるのではという考えがあったのも事実です。

でも、独立にあたってはファンドサイズという障壁がありました。CAVの東南アジアファンドは当時の日本円ベースで約20億円。それくらいのファンドは一人でも作れる自信がありましたが、やっぱりそれでは足りないと思ったんです。初回投資はできても、追加投資もしながらしっかりとサポートを続けることは難しいからです。僕がVCとして実現したいことは、ビジネスを通じて社会に大きなインパクトを生み出すことつまり、自分がシングルGPとして独立・起業することじゃないその上でどんな方法が最適かを考えました。

そんな時、元々CAVで一緒に働いていた田島さんから声を掛けてもらいました。ジェネシア・ベンチャーズのビジョンやミッションは、僕の持っていたキャリアビジョンとも重なりが大きかったので、それなら田島さんと一緒にやることによるインパクトは大きいんじゃないかと考えて、2号ファンド組成のタイミングから参画することにしました。

interviewer:

前職がそうだったからという理由もあるかもしれませんが、タカさんがVCの中でも特にシードVCであり続ける理由は、やっぱり0→1ができるということでしょうか?

タカ:

それも一つ。あとは、一番不確実性が高くて一番楽しいと思うからです。VCとか投資とか以前に、スタートアップを始める起業家こそが一番不確実性の高いチャレンジをしている。シードVCは、その船に乗らせてもらえる。しかも何社もです。そこが腕の見せ所だと思うし、僕のそうした経験を通じてもっともっと挑戦者を増やしていけたらいいなと思います。挑戦者を増やすということは、社会に大きなインパクトをもたらし得ることで、僕にとっての社会貢献の一つの方法だと思っています。そして、僕にとってはシードVCとしての仕事(ワーク)=ライフ。シードVCとしての活動すべてが「好きなことに没頭できる時間」そのものです。

手段ではなく、より概念的なレイヤーからみる注目領域

interviewer:

“テクノロジー×社会貢献”、そして“新興国”というキーワードが既に出てきていましたが、タカさんが投資してきた/していきたい注目の事業領域はどこでしょう?

タカ:

私見ですが、事業領域って「これだ」とズバリ言語化された時にはもうトレンドの半周くらいを回り終えていると思うんです。なので僕は、自分自身の中でも言語化できる前の、より概念的な興味関心を大事にしています。

その一つが、「一定閾値を超えると加速度的に価値が高まる“あるデータ”を収集・活用できるプラットフォーム」で、このコンセプトをあらゆる産業に当てはめて考えるということをしています。

例えば、2号ファンドで投資しているインドネシアのSinbadというスタートアップは、仕入先と中小企業をつなぐBtoBのマーケットプレイスを提供しています。サプライチェーンにおける仲介業者の多重取引構造をデジタルデータ化して、取引を滑らかにしていこうというアプローチです。これをストレートにやろうとすると、ロジスティクスの見直しなども含めていきなりごっそりとサプライチェーン上のBtoB取引の効率化を進めがちで、多額の投資が必要になります。Sinbadも将来的には多重取引構造の解消を目指していますが、初期的には、既存のその構造にもそれなりの意味や慣習があるという前提を置き、まずは各仲介業者の介在価値を可視化・データ化するところから始めています。そのデータを元に、結果的には効率的なロジスティックス網を構築することができるという見積もりです。どのデータをどうやって収集するのかというポイントを意識しながら、起業家とも議論します。SaaSやフィンテックといったカテゴリーも、データを取るための手段の一つなので、それよりも一段上のレイヤーをずっと追っていると思います。

あとは、日本において、「グローバルチャレンジして成功するスタートアップを生み出す」ことを目指しています。危機感とも言えるかもしれません。日本国内の経済が縮小していくのは間違いない中で、スタートアップからそれを覆していこうと考えると、やっぱりグローバルチャレンジする人の数をもっと増やしたいし、そうしたチャレンジャーへの支援は積極的に行いたいです。

どんな起業家も補完できる“総合格闘家”であり続ける

interviewer:

タカさんなりの、シードVCとしての哲学やスタンスなどはありますか?

タカ:

スタートアップに対して、自分から何かしようとしすぎない、そして、何かができるとも思わないということです。自分たちの事業と四六時中向き合い続けている起業家や経営チームに対して、僕がそれ以上の何かをインプットすることはできません。起業家視点で僕たちに価値を感じてもらえる部分ってやっぱり「お金を供給し続けてくれるかどうか」だと思うんです。だからこそ、ファイナンス面は何を置いても頑張る。僕もこれまでいろいろな投資先のアップラウンドの資金調達を手伝っているので、そこに対しては絶対的に高い解像度を持っていると思っています。

とはいえ、シードVCとして、0→1や1→10の経営支援をする努力はもちろんします。起業家が意思決定したことについては、基本的には背中を押します。ただ、僕たちVCはいろいろな投資先の経営を間近で見てきて、巻き戻しが可能な意思決定と不可能な意思決定があることを知っているので、後者に関してはより注意深く客観的な視点を持つことを心掛けています。

究極的には、VCのサポートなんて必要としない起業家に投資することが最も大きなリターンを生むと思うんです。ただ、どんな起業家にも得手不得手があると思うので、そこを適宜見極めて弱みを補完する存在でありたいです。ベンチャーキャピタリストは、どんな起業家のどんな弱みも補完できるケイパビリティを広げていかなければいけないと思っています。いわば総合格闘家。そうでないと、それこそ社会に大きなインパクトをもたらすようなスタートアップと同じ船に乗ることは難しい。僕自身も、僕が求められるケイパビリティは何か?期待を超えるGiveができているか?と常に自問自答しています。

”好き”をエネルギーに変えられる強さ

interviewer:

「どんな起業家も補完できる総合格闘家」を目指すことって、実際はとても過酷なチャレンジだと思います。それでもタカさんは、スタートアップと0→1の瞬間に立ち会い続けることが「好き」だという気持ちが上回っているのかなと感じました。そしてその意味で、シードVCが天職だと。
最後の質問ですが、起業家も同じように自分の「好き」を追求した方がいいと思いますか?

タカ:

起業することこそ過酷なチャレンジだと思いますし、ものすごいエネルギーが必要です。辛いことも多い。そんな時、僕はやっぱり「好き」というのは一番のパワーになると思います。もちろん、市場規模や将来性などから逆算してビジネスを作ることもいいと思います。ただ、その方法で見つけた事業領域と自分の「好き」との重なりが小さい場合、経営上のハードシングスを乗り切れない可能性もあると思います。実際にそうして折れてしまったスタートアップも見てきました。なので、根性論みたいになってしまうし全くロジカルではないんですが、自分の「好き」をしっかりと持って、その「好き」と重なりが大きい仕事やコミュニティでチャレンジし続けることはとても大切だと思います。

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