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より良い日本を実現するための重要なアジェンダにスタートアップと取り組む|一戸 将未

PHILOSOPHY

ジェネシア・ベンチャーズは2016年の設立以来、「新たな産業の“種”から”最初の芽”を出すこと」を自分たちの役割だと考え、一貫して創業初期のスタートアップの1stラウンドにおいて投資をしてきました。まだ事業アイデアしかない、起業家一人だけのチームで組織もオフィスもない、そんなフェーズのスタートアップに投資し、未来をより豊かにするサービス/プロダクトを広く世の中に届けるために私たちも“チームの一員”という意識で伴走しています。

2022年に、国が主導する「スタートアップ育成5か年計画」が策定され、日本のスタートアップに各方面からの注目と投資マネーが集まり、また、スタートアップを生み出し育てるためのエコシステムも各地・各所で大きく育ちつつあります。

その中で、新しい技術、新しいサービス/プロダクト、そして新しいリーダーたちとともに、「社会に対して大きなインパクトをもたらすスタートアップを生み出すこと」を担うのはやはり、創業初期=シード期から投資をするベンチャーキャピタル「シードVC」であると、そして、私たちがまさにその当事者であると考えています。

本シリーズ『シード投資という仕事』では、ジェネシア・ベンチャーズで実際にスタートアップへのシード投資と経営支援に従事するベンチャーキャピタリストそれぞれが改めて考える「シード投資」と「シードVC」についてご紹介します。

・なぜ「シードVC」に懸けるのか?
・「シードVC」としての役割やこだわりは何か?
・そして、ジェネシア・ベンチャーズで実現したいことは?

本稿の主役は、Investment Managerの一戸さん(以下:一戸)です。

  • 聞き手・まとめ:Relationship Manager 吉田 愛/Intern 夏堀 栄
  • 2024/3/21時点の情報です

「VC」を認知した翌月からスタートしたキャピタリストとしてのキャリア

interviewer:

2018年4月からジェネシア・ベンチャーズでインターンを開始、同年5月から正社員として参画した一戸さん。大学在学中からスタートアップ複数社でのインターンを経験していたとのことですが、VCを認知したタイミングやきっかけは何でしたか?

一戸:

大学入学直後から、先輩が立ち上げたインターネットメディア領域のスタートアップで働いていたので、お金の出し手の存在は認識していて、実際に個人投資家(エンジェル)の方にお会いしたこともありましたが、当時はまだVCのことは知りませんでした。その後、Twitter(現:X)の情報発信などを通じてVCを知ったのが、2018年の3月頃です。ジェネシア・ベンチャーズへのジョインが翌4月なので、それからすぐに行動を始めたかたちです。

interviewer:

スタートアップで働き続けたり大学に残ったりする選択肢もあったと思いますが、VCをやろうと考えたのはなぜだったのでしょう?

一戸:

Graciaの斎藤や終活ねっと(2020年に合同会社DMM.comの完全子会社化)の創業者で今はPacific Metaの岩崎など、周囲に起業家の友人が多かったこともありましたし、僕自身も元々ずっと自分で会社をやりたいという気持ちがあったので、最初は起業のアイデアを模索していました。ただ、先立って起業した友人たちが、紆余曲折ありながらも事業を推進している姿を見ていて、彼らを応援したりサポートしたりする選択肢もあるんじゃないかと考え始めたんです。それで、起業以外の選択肢も見始めつつ、ちょうど経済や金融に興味を持って情報を漁っていた時期でもあったので、「起業」と「金融」の交点にあるVCというシゴトに興味を持ちました。

interviewer:

ジェネシア・ベンチャーズへは、4月にインターンとして、5月には正社員として入社されていますが、そこにはどんな経緯があったのでしょう?

一戸:

僕はジェネシア・ベンチャーズの四人目のメンバーで、当時はそれこそジェネシアもシード期のスタートアップのような様相だったので、当初は週3だったのがすぐに週5のフルタイムへと勤務時間が増えていきました。だったらもう正社員として扱った方がいいよねということでそうなりました。当時はもちろん今のようなインターン・プログラムはなかったので、いきなり一人のベンチャーキャピタリストとして扱われて、投資検討や投資契約書の作成などの実務を中心に本当にがっつりやらせてもらいました。1号ファンドから投資している タイミーの小川さんに会って投資担当になったのが2018年5月。入社して二ヶ月目のことです。
はじめから最前線に立たせてもらえて、かなりおいしいポジションでした。ただ、それは狙い通りでもあったんです。VCをやると決めたとき、同時に、VCの中でも創業間もないところを選ぼうと決めていました。当時大学生だった自分にも与えてもらえる権限や裁量が圧倒的に幅広いだろうと考えたからです。

interviewer:

「シード」であることにもこだわりを持って選ばれたんでしょうか?

一戸:

はい、一番「人」と関われそうという理由でシードに絞っていました。「金融」という軸でいうのであればよりレイターなVCや上場企業株、オルタナティブ投資の方が色濃い印象は当然ありましたが、それ以上に、自分がやりたいことに挑戦している人が好きだし、そういう人たちと一緒に仕事がしたいという気持ちがありました。そうなると、やっぱりできるだけ早いタイミングから起業家に伴走したいし、それをできるのがシードVCの魅力だと今は言語化しています。

すべてのサンクコストを排除した3分間と、自然と浮かび上がった答え

interviewer:

ジェネシア・ベンチャーズに入社した決め手は何だったんでしょうか?

一戸:

既に他のVCからインターンの内定をいただいていた中で、ジェネシア・ベンチャーズの選考は正直なところ途中で辞退しようと思っていました。ただ、選考の過程で出されていた宿題のフィードバックだけは受けたいと考えて、二回目の面談に臨みました。1回目の面談は河野さんが担当だったのですが、2回目は河野さんに加えて田島さんもいらっしゃいました。そこで田島さんと河野さんとお話しして、辞退しようとしていた考えが揺らぎました。そこで僕は、二人の目の前で「3分ください」とお願いしました。そこでの意思決定は非常に重要なものになるはずで、でも家に持ち帰るものではないだろうと。それでその3分間で「すべてのサンクコストやバイアスといったものを排除したら、自分は何を選ぶか?」と自問しました。その結果、ジェネシア・ベンチャーズに入ろうと決めました。
理由は大きく四つです。一つ目は、田島さんと河野さんの人柄。二人は僕をジャッジしようとするのではなく、立場や目線を合わせて対等に話をしてくれました。当時の僕からしたらそれはすごく「奇妙」に映りました。でもそこに強く惹かれたし、その経験が今の僕の起業家とのコミュニケーションにも影響を与えていると思います。二つ目は、さっきも触れましたが、会社の若さ。これは僕の仕事の範囲や裁量に大きく関わると思いました。三つ目は、ファンドサイズ。VCとして投資というシゴトをしていく上ではやっぱり重要な要素だと思いました。最後は、東南アジアにも投資していること。それまで僕自身の中には特に海外志向はなかったのですが、田島さんや河野さんから海外の投資先やビジネスのお話を聞いて、視野が広がる感覚でした。人を成長させる最たるものは環境だと、僕は考えます。その点、海外の視座にさらされる環境は、とても良いプレッシャーや学びになるんじゃないかと思いました。海外投資をしていなくても僕はジェネシアを選んでいたと思いますが、決め手の一つになったことは間違いありません。

日本をより良い国にするための重要なアジェンダにスタートアップと取り組む

intervewer:

一戸さんが注目している投資領域について教えてください。

一戸:

今注目しているのは、「ディフェンステック」です。日本における防衛というものの重要性が高まってきているし、実際に国の防衛予算が大幅に増加しています。具体的には、2023年度からの5年間の予算が前5年間の1.5倍まで増加していて、その中でも特に研究開発予算は急速に伸びています。その中で、防衛省は新しいテクノロジーも活用したいと考えていて、今JVCA(日本ベンチャーキャピタル協会)と一緒にセミナーや勉強会を実施するなどして、スタートアップにも視線を注いでいます。そんな背景から、ディフェンステック領域におけるスタートアップの躍進機会も増えるのではないかと考えています。

他にも既存産業DXなどの様々な領域に関心がありますが、僕が注目している領域の軸は「日本を良くしたい」「日本を強くしたい」という想いにあります。母国であり、大好きな日本という国をもっと良い国にしたいという純粋な欲求があり、それを大切にしたいと思っています。なので、日本における重要なアジェンダに取り組むスタートアップにはとても関心があります。各省庁が出しているレポートを読みこむのも大好きです。僕が投資している領域は、物流、介護、製造業、教育など幅広いですが、どれも日本における重要なアジェンダだと思っています。

intervewer:

たしかに、一戸さんの投資領域はとても幅広くて、一見するとそれぞれに唐突感があるような、そこに一体どんな文脈や関連性があるのだろう?と感じていました。「日本における重要なアジェンダ」という共通点があったんですね。

一戸:

僕たちはビジョンの実現を大前提として、日本を良い国にしていく、ひいてはアジア、そして世界全体をより良いものにしていくために、LP投資家の皆さんからお預かりしたお金という社会的リソースを適切に、そして意志を込めてアロケーションしていく立場だと思っているので、日本やグローバルの重要なアジェンダに積極的に取り組む使命があると考えています。そういう意味では、根本的には僕自身の出自や原体験などに基づいて投資領域を選ぶということではなくて、あるべき国や世界の姿(=ビジョン)から逆算して、投資対象領域を模索しています。

起業家との信頼関係を築くために、根底となる人間力を磨く

intervewer:

一戸さんが考える、シードVCとしての哲学やスタンスはありますか?

一戸:

これはおそらく日々変わっていくものなので、あくまで現時点における哲学ですが、大きく三つあります。

一つ目は、自分が投資家だと認識することです。投資家というと「お金を出すだけのシゴト」という受け取られ方をしたり、良く思われなかったりすることも多いですが、僕は「投資家」という言葉がすごく好きで、「自分は投資家だ」という自負を持って仕事をしています。これまで世界を築いてきた人たちの中には当然、投資家も含まれます。そして、その人たちにもきっとビジョンがあって、それを投資という手段で実現してきたと思うんです。だから僕も、十分なキャピタルゲインを生み出すことは大前提として、自分自身のビジョンを描きながら、「実際に世界をより良くすることができる会社や事業なのか」という視点を持ち続けたいと思っています。
二つ目が、起業家にとってのFirst Believerであることです。僕が強く信じられる領域やテーマ、起業家であれば、周りの意見に流されずに信じ続けること。それがとても重要だと思っています。僕たちが投資しているシードステージのスタートアップというのは、まだ起業家自身しかそのアイデアを信じられてないというフェーズです。起業家自身が自分のアイデアを信じるのは当然のこと。それを自分以外の人が信じるということは、もちろんそれ相応の負荷がかかるものですが、それによって次のステージに進むことができます。その役割を果たしたい。そもそも否定されることの方が圧倒的に多いスタートアップのアイデアを起業家と同じくらいに信じて伴走し続けることは、僕のシードVCとしての役割だと思うし、一つの哲学だと思います。
三つ目は、伴走者であり続けることです。投資家としての目線はもちろん大切である一方で、株主という特殊な立ち位置において、起業家とどれだけ信頼関係を築けるかという点もとても重要だと思っています。キャピタリストとしての成長をスキル(経営に対していかにクリティカルな助言ができるか)ばかりで考えてしまうこともありましたが、その前提として、起業家との信頼関係がなければどんな助言も意味を果たしません。表層的なスキルだけを身につけるのではなく、根底となる人間力を磨くことを意識しています。

「人」と関わるシゴトだからこそ、人としてのプライドとこだわりが問われる

intervewer:

一戸さんの哲学は、どれもとてもエッセンシャルな要素だと感じました。
VCになってもうすぐまる6年という一戸さんですが、改めて今「シードVC」というシゴトをどう考えていますか?

一戸:

VCというのは、簡単にはなれないし、簡単にはなってはいけないシゴトだと思っています。果たすべき役割も責任もとても大きいシゴトです。僕はいつも「VCになりたい」という相談をもらったときに「やめた方がいいよ」と伝えています。今はジェネシア・ベンチャーズのメンバーである水谷(圭吾)さんにも、彼のインターン時代に僕はそう伝えていました。それでも圭吾さんは「絶対VCになる」という強い意志を持っていたからこそ、今ジェネシアにいるんだと思います。本当にやりたいことなら、周りから何を言われようとやる。当たり前のことですが、VCとしてもそれは本当に重要な資質だと思います。自分にそういった信念がなければ、自分以外の人(起業家)を信じることなんてできません。
僕自身、VCのシゴトに少し慣れてきた3-4年目のタイミングで、邪念が生まれてしまった時期がありました。他人への不満ばかり感じたり、そんな自分に逃げ道を用意したり。自分の役割とは関係のない、余計なことをたくさん考えていました。でも、それではダメだと気づきました。VCは誰でもなれるわけじゃない、本当に尊いシゴトだと感じます。だったらつべこべ言わずにひたむきに取り組まなくちゃいけないと思いました。「シードVC」はより一層その信念みたいなものが大切だと思っています。なぜなら、僕がシードVCになった理由でもありますが、一番「人」と関わるシゴトだからです。哲学や信念は人それぞれだと思いますが、明確にそれがなければ難しいと思います。そもそも金融の世界は、お預かりする金額が大きければ大きいほど“偉い”というシンプルな世界。だらこそ僕たちはシードVCであることにプライドとこだわりを持ち続ける必要があると思っています。

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